「5分シリーズ」刊行スタート記念!3日連続試し読み公開vol.2『5分後に驚愕のどんでん返し』収録「私は能力者」★まるごと1話試し読み★

「5分シリーズ」刊行スタート記念!3日連続試し読み公開vol.2『5分後に驚愕のどんでん返し』収録「私は能力者」★まるごと1話試し読み★

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いよいよ刊行スタート!
エブリスタと河出書房新社が贈る短編小説シリーズ「5分シリーズ」(特設サイトはこちら)。
投稿作品累計200万作品、コンテスト応募総数20000作品以上から厳選された短編は、すぐ読める短さなのに、衝撃的に面白いものばかりです。

刊行スタートを記念して、3日連続で試し読みを公開します!
あなたも5分で衝撃を受けてください。

★vol.1 『5分後に戦慄のラスト』収録「隙間」試し読みはこちら
★vol.3 『5分後に涙のラスト』収録「不変のディザイア」試し読みはこちら

 

5分後に驚愕(きょうがく)のどんでん返し』(5分シリーズ)より、まるごと1話試し読み!
「他者を操れる力」を持つ男の顛末(てんまつ)は−–

 

* * * * *

「私は能力者」                 たろまろ

私は加納達也(かのうたつや)。
能力者だ。
シンプルに言えば「他者を操れる力」を持っている。

いつこの力に気づいたのか定かではない。
物心ついた頃から、私は周りの大人を操っていたのだと思われる。
そのため随分(ずいぶん)と甘やかされて育ってしまったと自分でも思う。なにしろ欲求の全てが思っただけで叶ってしまうのだ。
お腹が空いた。眠いから優しく寝かしつけてくれ。今は遊びたい。勉強はしたくない。
わがままな暴君に育ってしまったと思うかもしれないが、実際はそうでもない。
私は「わがまま」を口にしたことがないのだから、他者を不愉快(ふゆかい)にも困らせもしないのだ。

全ての物事は順調に運ぶ。学業で優秀(ゆうしゅう)な成績を維持(いじ)する努力も必要もなかった。
営業の職に就けばあっという間にトップセールスマン。毎年、毎年、社長賞を貰(もら)う。会社の業績も伸びる。若くして出世コースにも乗る。
なにをどうしても私は成功するのだ。
生まれ落ちた瞬間(しゅんかん)から人生の勝ち組だと決まっていたのだろう。

その私が初めて躊躇(ちゅうちょ)したのは、今の妻と出会い恋に落ちた時だった。
妻は同じ会社の秘書課にいた。
社内で一番の美人だと噂(うわさ)されていた。
美人というのは大概(たいがい)がお高くとまっているものだ。秘書課なら尚更(なおさら)だろう。自分を振り向かない男はこの世にひとりもいないとでも思ってるんじゃないか。そんな風に意地悪に考えたりもした。
人生が順風満帆(まんぱん)過ぎて、退屈していたのかもしれない。
気晴らしに私はたまにイタズラをしていたのだ。勿論(もちろん)、この能力を使って。

例えばこんなことがあった。
二年前の話だ。
説教がやたら長いパワハラまがいの嫌みな上司、永井(ながい)課長。営業成績がいつも最下位周辺にいる奴らにネチネチ嫌みを言うのがやつのストレス発散になっていた。
その日も気が弱くて押しも弱い、そのせいで成績がなかなか上がらない小川に嫌みを言っていた。
私は小川に舌打ちをさせた。
勿論、小川は超小心者だ。目の前に課長がいるのに舌打ちなんて逆立ちで地球を一周するのと同じレベルで無理だろう。
「チッ」
明らかな舌打ちの音に、オフィスにいた全員が凍(こお)りついた。永井課長もだ。
次に固まっている課長に対して、小川にセリフを言わせた。
「ったくよ。同じことをクドクドうるせぇんだよ」
全員が絶句した。
私は社長に「今すぐ営業課へ来い」と命じてから、課長には「ブチ切れろ」と命じた。
どんなブチ切れ方をするのだろうと興味津々(しんしん)で見ていると、課長は激高して小川を殴(なぐ)った。それも何発も。そのタイミングで社長がオフィスへ現れ、それを目撃(もくげき)。
哀(あわ)れ課長はクビになってしまった。
小川は全治五日間の怪我(けが)。
永井課長を傷害罪で訴(うった)えることもできたが、社長自ら小川の配置替えを提案して小川は矛(ほこ)を収めた。
もともと営業畑は小川には無理があったのだ。いつも胃が痛そうだった。デスクワークを希望していた小川。今は総務課に配属されてとても楽しそうに仕事をしている。顔色も随分良くなった。
……と、こんな感じだ。

イタズラと言っても他愛(たわい)ないことだ。勿論私は己を理性的な人間だと思っているので滅多(めった)なことがない限り、こんなイタズラはしない。能力を使うのはもっぱら取引先との契約を有利に進める時くらいだ。

おっと話が随分とそれてしまった。
社内で一番の美人だと噂されていた加賀美涼子(かがみりょうこ)。
その彼女がなぜか、私たちの合コンの相手として現れたのだ。
本当は小川からの打診で総務課や受付業務の女性たちとの合コンだったのだが、たまたま受付業務の女性と彼女が友達だったらしい。「合コンというイベントに参加したことがないから、一度参加してみたかった」と彼女は言った。
とても気さくで気取った様子が微塵(みじん)もない。しかも聞き上手。どんな話をしても楽しそうに会話を膨(ふく)らませて言葉のキャッチボールをしてくれる。
男性社員は私も含め、全員彼女の虜(とりこ)になってしまった。
男というものはなんだかんだ言っても美人に弱い生き物なのだ。
その美人が気さくで、会話が弾んでしまったら好きになってしまうに決まっている。

そして私は初めて躊躇した。
今まで他者を自由に操ってきたが、心までは操れない。
例えば「私に話しかけろ」と命じたところで、それで私を好きになるわけではない。下品な話をすれば、一緒にホテルへ行って既成(きせい)事実を作ったとしても、彼女が私を好きになる保証はないのだ。
能力は役に立たない。
私は初めて、能力に頼らず物事を推し進めるためのアプローチを開始した。

加賀美涼子の好きな男性のタイプや、趣味、これだけは許せない地雷(じらい)などの聞き取りは簡単だった。
秘書課の他の人間に命じればペラペラと教えてくれるからだ。
私はデータに基づき彼女をデートへ誘う決心をした。
生まれて初めて『手に汗握る』ことを経験したのだ。

OKを貰えた時には夢見心地になった。
初デートは信じられないくらい楽しかった。大成功も大成功。
彼女の私服姿は着飾(きかざ)り過ぎず、清楚(せいそ)で可愛らしい。化粧(けしょう)もナチュラル。好感度はさらに上がった。二人きりでも沈黙は一切なかった。
彼女は明るくて朗らかだった。会話は弾み、私の話に彼女は熱心に耳をけてくれた。
こんなに自分と波長が合う人間が今までいただろうか? と感激した。
能力など使う必要がなかった。
私と彼女は阿吽(あうん)の呼吸で同じものに気づいて、笑い、手を触れ合わせ、そっと握り合った。

一年の真剣交際を経て、結婚したのはつい先月のことだ。
私は人生の勝ち組としての能力を備え、しかも能力に関係なくこの世で一番自分に合う美しい妻を見つけるという幸運も持っている男なのだ。
能力と幸運。この二つを持っている私に怖いものなどなにもなかった。

そんな私に、あるアクシデントが起こった。
仕事から帰ると妻の様子がおかしい。元気がないし、塞(ふさ)ぎ込んでいる。体調が悪いわけではなく、何か良くないことが起こってショックを受けている様子だった。
何度も妻へ尋ねたが、妻は「言えない」と涙するばかり。
「僕はなにを聞いても君を嫌いになったりしないから教えてくれ」
妻の目を見て、心からの言葉で訴える。妻はそれでやっと口を開いてくれた。
今日の昼間、「近くに寄ったから」と、社長が我が家を訪ねてきたのだという。妻は勿論リビングへ案内してお茶を出した。
そして建てたばかりの新築の家を褒めていた社長が、妻に襲いかかった。しかも抵抗した妻を私がクビになってもいいのか? と脅し、よりによって夫婦の寝室で妻を抱いたのだという。

私は怒りで目の前が真っ赤になった。
そして決めたのだ。社長には死んでもらうと。
私は能力を使い、スピード出世を経て役員に収まった。そして副社長へ。そこまで登りつめてから、社長にはスピードの出し過ぎで交通事故に遭ってもらった。
壁にぶつかり車は大破。社長は即死。
臨時役員会が開かれ、私は副社長から社長へと就任した。

妻は喜んだ。
忌々しい過去を忘れさったような清々しい笑顔を見せてくれる。
私は能力を使い人を殺(あや)めた。そんなことをするのは人格が壊れた人間だけだと思っていたので、自分がどれだけ罪悪感に苛(さいな)まれるかと少し心配していたが、そうでもなかった。
しかし私はサイコパスではない。
社長には死をもって償(つぐな)わなければならない理由があったのだ。そう考えることで心の平穏を保てた。
なによりあの日からずっと、どこか寂しそうに微笑むことしかできなくなっていた妻が心からの笑顔を見せてくれた。妻を悪夢から解き放ったのだ。
この笑顔のために私はさらに会社を大きくすることに専念するだろう。
「僕が社長だから、君は社長夫人だよ。これから大変になるけど大丈夫?」
「……あなたを支えることができて私は幸福よ」
妻は涙で潤んだ瞳で私を見つめ言葉を続けた。
「あなたに出会えて良かった」
「僕もだよ」
「愛してるわ」
「愛してるよ」

私は加賀美涼子。
能力者です。
シンプルに言えば「人の心を読める力」を持っています。

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ーー3日連続試し読み公開!ーー
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