単行本 - 歴史

11月発売『WOMEN 女性たちの世界史 大図鑑』「はじめに」を全文公開!

WOMEN 女性たちの世界史 大図鑑

はじめに

 奇妙な真実──ジョージ王朝時代(18‒19世紀)、女性は〈本をたくさん読んだ〉だけで精神病院に入れられた。本が社会の脅威となりうることを思えば、なんら不思議なことではない。読書は女性の目を開かせ、期待をあおり、自分たちが男性以下の扱いを受けていることに不満を抱かせる可能性があるからだ。本書では、必ずしも語られてはこなかった物語が語られる。つまり世紀を超え、大陸を越えて紡がれてきた女性たちの物語だ。そして〈どれほど多くの人に〉読まれようとも多すぎることはないだろう。なぜならここに語られた物語が読み継がれていくことが、現代世界の再編に役立つはずだから。

 いい話ばかりとはかぎらない。苦しみもたくさん語られていることだろう。たとえば12歳で政略結婚をさせられた、15世紀の哀れなフランス王妃、ジャンヌ・ド・フランスのように。哀れといえば、古代ローマのウェスタの巫女たちが、不運にも姦通の罪に問われた場合もそうだ。処女の血を流すことは法律で禁じられていたため、処刑こそされなかったものの、罰として生き埋めにされたのだ。また韓国では、女の子は結婚のときに莫大な持参金が必要になるため親に歓迎されず、〈泥棒女〉などと呼ばれた。詩を書こうとした罪で、父のムガル皇帝によって幽閉されたゼーブンニサーも不運だった。

 しかし私たちに勇気を与えてくれる、称賛すべき女性たちもたくさんいる。歴史に初めて女医として名を残した、古代エジプトのメリト=プタハ、使用人の身分から、自らの努力で女帝の地位までのぼりつめたロシアのエカチェリーナ1世。モンゴル皇女で女戦士のクトゥルンは、求婚者たちとの賭けに勝って1万もの馬を手に入れた。世界中のあらゆる本には、この本にあるような、〈おもな女海賊〉といった項目が必要ではないかと思う。

 もっとも女海賊だけが、この本で出会う恐るべき女性というわけではない。メソアメリカの〈ジャガーの女神〉ことイシュ・チェルは、嵐と洪水を引き起こす力をもっていた。8世紀の中国では、安楽公主(あんらくこうしゅ)が賄賂をもらって1 万2000人の修道僧と僧侶を昇格させ、財を築いた。また第2次世界大戦中のソ連には、309人を射殺した凄腕の女性スナイパー、リュドミラ・パヴリチェンコがいる。イギリス・ファシスト連合の女性たちは、しゃれた服装で世間にアピールした。悪魔はときに完璧な装いをする。また、女性のすべてが被害者やヒロインというわけではないことを、覚えておくのも肝心だ。女性も男性と同様、よかったり悪かったり、あるいは普通だったりする。

 本書に貫かれているテーマの一つは、憶測は危険だということだ。私たちはいまや、原始人の生活を研究している現代の考古学者によって、〈洞穴で子どもたちの世話をする〉〈やさしい奥さん〉の存在を示す証拠が発見されたことを認識しているが、そうした認識が生まれたのは、私たちが20世紀以降、そのようなイメージにあまりにも慣れ親しんでいるからという可能性 もある。〈貞操帯〉という名で知られる恐ろしげな鉄の器具についても、おそらく私たちはまちがった結論に飛びついてきた。貞操帯は女性の意に反して使われただけではなく、戦時中、レイプから身を守るために女性が自ら身につけたものでもあったのだ。

 本書の広い視点は、歴史がつねに〈悪い〉状態から〈よい〉状態へと進化していくと考えるのは愚かだということも、はっきりと物語っている。ニュージーランドに入植したヨーロッパの人々は、その地で出会ったマオリ族の男女平等思想を、後進的で〈野蛮〉だと見なし、考えを改めさせようと全力を尽くした。ときに二歩進んで一歩後退するようなこともある。公民権運動活動家のローザ・パークスは、1955年にバスのなかで白人の乗客に席を譲るのを拒んだことがきっかけで世に知られるようになったが、全米黒人地位向上協会では、当時ただ一人の女性理事だったパークスが、会議の議事録を取らされたという女性差別があった。

 徐々によくなっていくこともあれば、悪くなっていくこともある。ただ、過去を学ぶことによって得られる一つだけたしかなことがある。それは、変化は可能だと信じることだ。「信念から実現までの道のりは遠い」と言ったのは、カスティーリャ 女王イサベル1世である。しかし変化を生み出した女性たちについて学ぶことが、すべての出発点をもたらしてくれる。つまり、女性たちが存在し、重要な役割を果たし、これからも手本となっていくはずだという強い信念である。いまこそ、歴史のなかの女性たちが表舞台に一歩踏み出すときなのだ。

ルーシー・ワーズリー

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本編は本書でお楽しみください。

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\世界的なフェミニズムへの関心に応える、決定版の一冊!/WOMEN 女性たちの世界史 大図鑑
ルーシー・ワーズリー序文  ホーリー・ハールバート他監修 戸矢理衣奈日本語版監修
河出書房新社●2019年11月21日発売予定

 

未来へつなぐ “私たち”の世界史ーー
先史から現代まで、有名無名を問わず、女性たちが生きてきた歴史を広い視野で見渡す世界初のヴィジュアル図鑑。家族、結婚、育児、職業……社会的地位や差別との闘いなど、充実の内容。

 

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著者

ルーシー・ワーズリー

歴史家、作家、学芸員、TVプレゼンター。オックスフォード大学卒業。王宮を管理する独立慈善団体で主席学芸員を、BBCの歴史教養番組ではプレゼンターを務める。2018年、大英帝国勲章を授与される。

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