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流通ジャーナリストの故・金子哲雄の“真の終活”を見届けた妻による、新しい老後の生き方を教える1冊!

『アクティブ・エンディング──大人の「終活」新作法』 金子稚子『アクティブ・エンディング──大人の「終活」新作法』
金子稚子

『アクティブ・エンディング』
大人の「終活」新作法

金子稚子著

 

〈あとがき〉より

死の前後の情報があまりにも世の中にない。しかも、その時に本当に必要なこと、知りたいことも得られない──。
どんなにその歩みを止めたくても、どんどんと死に向かっていってしまう中で、当時の夫と私はそう感じていました。患者と患者家族でありながら、同時に私たちは、マスコミの末端にいる人間でもありました。この世の別れを意識しながらも、そこに課題があることを痛感し、これをなんとかしたい。そしてこれは、夫の死後に私が行うことだ、と、私たち夫婦の間で引き継ぎが行われていくことになりました。
本書は、言うまでもなくその引き継ぎの一環です。そして本書は、夫の死後、その引き継ぎを受けて私が始めた、ライフ・ターミナル・ネットワークという活動にご協力いただいている皆様からのお力添えを頂戴しながら、まとめたものです。

本書をお読みになった人の中には、構成に違和感を覚えられた方もいるかもしれません。その章だけを読んでも何かを得られるようになっているからです。つまり、第1章から順番に読み進めなければならないということはなく、どの章から読んでもいいようなつくりになっています。書籍ではあまりこういう構成はないため、章ごとにバラバラな印象を持たれた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
なぜ、そのようにしたのか。
それは、ひと口に「死」と言っても、感じることは人それぞれ。しかも、あまりにも違いがあることを知っているからです。「見たくもないし、聞きたくもない」と感情的に反応する人や、「感情的な話は要らないから、できる限り客観的な情報を得たい」という人もいます。また、知りたいと思うこともそれぞれ大きく異なります。その違いに、できる限り合わせた構成を考えてみました。

しかし、本書には、通底した流れがあります。
私たちライフ・ターミナル・ネットワークでは、死を3つのプロセスに分けた上で、3つセットで捉えています。1つめは「死ぬまで」、2つめは「死そのもの」、そして3つめは「死後」です。本書は、この時間軸に沿って構成されています。
一般に、死は、その前後でまるきり分断されていることにお気づきでしょうか。
「死ぬまで」においては、医療・福祉に携わる方々が非常に熱心に関わってくださいますが、医療サービス、福祉サービスは、死とともに、その使命を終えます。専門職の方々の心情としては、もっと丁寧に、もっと長く、遺族をケアしたいと思ってくださっていても、そこには時間的にも金銭的にも限界があります。
また「死後」については、葬儀関係者、宗教関係者が主として関わってくださいますが、これも儀式や儀礼が優先されていて、遺族の悲しみにはなかなか寄り添いきれない現実があります。加えて「死後」は、思う以上に長いものです。お寺との関わりが薄れていく現代では、この長さになかなか対応できていないと言えるでしょう。
そして「死そのもの」。まさに臨終のことですが、これについては、それだけが切り離されているかのようです。生物学的な知識などは、ほとんどの人が持っていません。しかし、小説やドラマの世界では、非常に多く描かれている瞬間でもあります。
時間的にも、そして情報的にも、分断され、偏(かたよ)ったものだけが広まっている。このことに、死に近づいていく中で、私たち夫婦は気づくことになりました。

本書にまとめたことは、ごく一部の情報です。私は今、1冊をかけて「目次」を作った、というくらいの気持ちでいます。なぜ今、死の学びが必要なのか、やるべきことは何なのか、その動機付けのために、この1冊をまとめたに過ぎません。
これからまもなくやってくる、多くの人が亡くなる〝多死社会〟を前にして、国はもちろんのこと、特に「死ぬまで」に深く関わる医療・福祉関係者は相当な危機感を持って対応しようとしていますが、おそらく間に合いません。間に合うも間に合わないも、物理的に、増えていく死と、それに対応できる人の数が合わないのです。ひょっとしたら、保険制度そのものから、この国の医療は崩れてしまうかもしれません。
では、どうすればいいのか。それは、私たち自身が変わるしかありません。その鍵を握るのは、本書を手に取ってくださったあなた自身です。

本書は、さまざまな方にお世話になりました。特に、ライフ・ターミナル・ネットワークの活動では、看護師であり僧侶であり、そして夫を亡くした同じ死別経験者でもある玉置妙憂氏には、深い対話を通していつも新しい発見をいただいています。
また、死に関することをお話しくださった多くの方々、個人的にお話を伺っているためお名前を出すことができませんが、お一人お一人に心から感謝申し上げます。
さらに、兵庫県尼崎市の開業医であり、医師の立場から社会に対して熱心に発信されている長尾和宏先生には、夫の死の前にはご著書を通して、そして死後からは折に触れてさまざまにご教示いただいています。いつも本当にありがとうございます。
もちろん、亡き夫・金子哲雄にも、今もなお変わらない支援に心から感謝します。
死に関するさまざまな情報が、もっと世の中にあふれるように。死という人生の危機を前にしても、それに立ち向かえる力を得られるように。私たちは、これからも誠意を込めて多死社会に貢献してまいります。

2015年夏の終わりに

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金子稚子

ライフ・ターミナル・ネットワーク代表。雑誌・書籍の編集者や広告制作ディレクターとしての経験を生かし、誰もがいつかは必ず迎える「その時」のために、情報提供と心のサポートを行う。また、当事者の話でありながら、単なる体験談にとどまらない終末期から臨終、さらに死後のことまでをも分析的に捉えた冷静な語り口は、医療関係者、宗教関係者からも高い評価を得て、各学会や研修会でも講師として登壇している。そして今、多死社会を前に、人々の死の捉え直しに力を入れ「アクティブ・エンディング」を提唱、新しく活動を開始した。一般社団法人日本医療コーディネーター協会顧問。医療法人社団ユメイン野崎クリニック顧問。2012年10月に他界した流通ジャーナリスト金子哲雄の妻。著書に『死後のプロデュース』(PHP新書)、『金子哲雄の妻の生き方~夫を看取った500日』(小学館文庫)。

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