書評 「俺」が「おいら」を語りはじめた──北野武、渾身の私小説はどうやって書かれている?――北野武 著『浅草迄』 評者・細馬宏通 「足立区島根町」は、著者自身の一番古い記憶の話から始まる。母親におんぶされながら近所のおばさんにほっぺたを撫ぜられ、「たけちゃんは誰の子?」と訊かれると、必ず「アメリカ人の!」と答えていた、と書いてから、著者はすぐに、自分の記憶の出所を疑い出す。「いざ自分が書くとそれが本当だったのか、ど 2020.12.01