『キャロル』の作家パトリシア・ハイスミスの素顔を描いた話題の映画が公開。 翻訳家・柿沼瑛子さんとコラムニスト・山崎まどかさんによるトークイベントが開催されました!
2023.11.10
サスペンスの巨匠、パトリシア・ハイスミスの作品は、アラン・ドロン主演『太陽がいっぱい』やヒッチコック監督『見知らぬ乗客』、ケイト・ブランシェット主演『キャロル』など、数多くの名作映画にもなりました(原作はすべて河出文庫)。
先ごろ、そのハイスミスの素顔に迫るドキュメンタリー映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』の日本公開が始まり、話題を呼んでいます。
公開に先立って、『キャロル』などの翻訳者・柿沼瑛子さんと、映画や文学を中心に女性の文化を見つめ続けてきた山崎まどかさんのおふたりによるトークイベントが行われました(10月25日、日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホールにて)。
そのイベントの模様から、話題作『パトリシア・ハイスミスに恋して』の魅力を紹介します。
恋愛がないと小説が書けないハイスミス
トークは、現在ハイスミスの伝記を翻訳中の柿沼さんが、映画の感想を語るところからスタート。
「彼女の場合、恋愛がないと、おそらく小説が書けない人だったので、そのあたりが裏付け調査じゃないですけど、その辺の事情がよく分かりました。やっぱり稀有な人だっだと思います」
それに対して、山崎さんも「今でこそ私達もパトリシア・ハイスミスはレズビアンで、レズビアン文学の金字塔になっている『キャロル』の映画も小説も定番になっていると思うんですけど、実は91年の時点ではあまり彼女のセクシャリティってことは大っぴらに議論がされてなかったっていう認識でした」と、時代がハイスミスの文学を再評価したことに言及しました。
映画にも登場するハイスミスのニューヨーク時代の華麗な女性遍歴と交流関係にも触れられ、
「あの人は超保守的な南部の小さな町で育って、ニューヨークに出た途端、セクシャリティを解放したわけで、その時にニューヨークのレズビアンシーンに入り込んでいって。ハイスミスははつらつとしてすごい綺麗だったんですよね」
と柿沼さんが話すと、山崎さんは「雰囲気ありますよね。超モテそう」と納得。
秘密の日記には歴代恋人の比較表も!?
ハイスミスといえば、カタツムリを愛したことでも知られています。柿沼さんが、
「ハンドバッグのなかにカタツムリを入れて、レタスを食べさせていたとか。あと税関をこっそり突破したこともあった」
と言えば、山崎さんも、
「ブラの中にカタツムリを入れて突破したとか。『11の物語』という短編集にカタツムリという怖い短編もありますね」
柿沼さんは、ハイスミスがカタツムリのなかに自分を見ていたのではないか、「カタツムリのつがいは愛する相手を殺すことによって成立するので、まさにハイスミスですよね」と評しました。
この映画ではハイスミスの日記が随所に引用されていますが、その日記を実際に読んでいる柿沼さんによれば、
「日記の内容はすごいんですよ。歴代恋人の名前とか書いて、その比較表みたいなのがあって(笑)」
それを受け、山崎さんは思わず、「ジェームス三木かって感じですね」
ハイスミス原作の映画化作品は数多くありますが、トッド・ヘインズ監督、ケイト・ブランシェット主演の『キャロル』について柿沼さんは、
「『キャロル』の脚本を書いたフィリス・ナジーは、ハイスミスの晩年に関わりのあった人なんです。ハイスミスは遺言にのっとって火葬されたのですが、生前に新聞の記事を書くために取材することになる。その時にアテンドしたのが当時新進のライターだったフィリス・ナジーで、彼女を気に入ったハイスミスは、いつの日かわたしの作品を脚本化していいのよと話したそうです」
と逸話を披露。しかしハイスミスは『キャロル』を見る前に亡くなっているため、山崎さんは「『キャロル』は見せたかったですね」としみじみと語り、トークは締め括られました。
映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』絶賛公開中!
アメリカの人気作家パトリシア・ハイスミスの知られざる素顔を紐解くドキュメンタリー『パトリシア・ハイスミスに恋して』は、11/10現在、新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、アップリンク吉祥寺ほかで上映中。全国順次ロードショー。
【映画公式サイト】
https://mimosafilms.com/highsmith/
柿沼さんと山崎さんのおふたりの話をたっぷり楽しめる「オフィシャルレポート」はこちら。
https://note.com/mimosafilms/n/n37f9a512a8b9