ためし読み - 育児
子どもに「偽りの前進」させていませんか? 叱る、褒める、どっちが子どもの自律心を育む? 児童精神科医の答え
2026.05.21
お母さん、お父さん。 どうぞ子どもを甘やかすことを決して恐れず厭わず、一生懸命にかわいがって育ててあげてください。いい子にしているときにかわいがるのではなく、どんなときにも愛してあげてください。 子どもは愛されることで、いい子になるのです。
この言葉を遺したのは、2017年に惜しまれつつこの世を去った児童精神科医・佐々木正美さん。遺著『子どもの心の育て方』は、没後も毎年のように版を重ねているベストセラーです。
佐々木さんの本はいずれも、具体的なノウハウではなく、親の心の持ちようを説き、悩める親世代の支えとなり続けています。
昨年もTBS「THE TIME」にて堺雅人さんが佐々木さんの本を愛読していると紹介し、話題となりました。

『子どもの心の育てかた』
Amazon、楽天ブックスほか全国書店で発売中
佐々木正美さんは1935年、群馬県前橋市生まれ。高校卒業後、信用金庫に6年間務めた後、一念発起で医学部進学、精神科医となり、児童精神科医として活躍。『子どもへのまなざし』全3巻(福音館書店)は子育てに悩む親たちから絶大な支持を受け、累計80万部のロングセラーとなりました。また自閉症の療育プログラムを米国から導入して、発達障害に対する理解を広める働きに尽力したこともよく知られています。
『子どもの心の育て方』は亡くなる1年ほど前に出版された本。名著『子どもへのまなざし』の大事なエッセンスを、現代の忙しい親にも読みやすく凝縮した本です。子育ての軸となる普遍的な教えが凝縮されています。
本書から特に、2〜3歳のお子さんを育てている最中の親御さんたちから反響の大きかった「トイレトレーニングなどは、叱りすぎも、ほめすぎも、どちらも子どもの自律を妨げることにつながります。」を全文公開いたします。
研究と臨床に基づいた、佐々木先生の確かな哲学によって、あなたの子育てが少しでも楽に、親子とも楽しい時間になることを祈ります。
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トイレトレーニングなどは、叱りすぎも、ほめすぎも、
どちらも子どもの自律を妨げることにつながります。
子どもの発育の時期と順序を非常に画期的な形で分類・整理をしたのがH・エリクソンです。生まれてから12ヶ月から18ヶ月ぐらいまでの乳児期を「絶対依存の時期」とし、その時期に赤ちゃんの心には周囲の世界に対する信頼の感情という大事なものの基礎が刻まれます。その信頼感が自信や自律心につながりますから、重要な時期です。
それにつづく2〜3歳の時期、広く見れば1〜3歳の間と考えてもいいと思いますが、この段階は身体の筋肉なども発達し、排泄などの習慣も身につく時期です。ですからこのころに子どもは、自分の衝動や感情を律する自律心を学びます。
トイレトレーニングの時期に重なるわけですが、この時期に子どもは自分の行為に対して叱られるなど否定的な「悪い思い」を過度に経験すると、自分の存在そのものを「恥」とする感覚、自分の存在価値に対する疑惑の感情が生まれてくるといわれます。つまり、トイレトレーニングにはかぎらないのですが、失敗したときに「とても親がいやな顔をした」「悪いことだと厳しく叱られた」「不潔でよくないことだと何度も言われた」といったことです。非常に厳しいしつけによって身につけたものというのは、見せかけの、即ち「偽りの前進」をさせることになります。トイレトレーニングでいうなら、本来、トイレで排泄するのは「気持ちがよく快適なことだから」ですが、それを知る前に、親のほめ言葉がほしくてできるようになってしまう、ということです。こうした「偽りの前進」を知った子どもは、その後、指しゃぶりなどの行動が現れることがあり、敵意や攻撃性の感情を内向させていくことがあります。
問題が顕在化するまでは、とてもおとなしく従順ないい子であることが多いのですが、ある段階で登校拒否、拒食などの形で出てくることもあると考えられるのです。どうか、子どもがおむつや下着を汚しても「いやねえ」「だめねえ」「汚い!」と顔をしかめて叱らないでほしいのです。
排泄にかぎらず、自分の意志と選択でものごとを決定できるように、上手に援助されて育った子どもは、自分の住む世界、あるいは自分自身に対してよい感覚、善の感覚をもちます。いわゆる、自律や自立の態度、あるいは健全な自負心といったものの基礎を身につけることができるのです。
注意しなければいけないのは、うまくいったときにほめすぎるのもよくありません。なぜかというと、「ほめすぎ」というのは、失敗したときは親がどんなに失望するのか、を教えているようなものだからです。トイレトレーニングについていうなら、うまくやれるようになるのは、早い遅いはあってもごくあたりまえのことですから、一度できたからといって、極端にほめすぎるのはむしろよくないことです。知らん顔をすることはありませんが、ごくふつうにほめてあげてください。
この時期は、将来、二者択一を迫られるような人生の岐路に立たされたとき、自ら決断するための力の基礎が育つときです。トイレトレーニングに代表されるように、それまでは汚いともなんとも思わなかった自分の排泄物を、トイレに行って捨ててしまう、ということが、「なるほど気持ちのいいことだ」と自分でわかることも、そのひとつです。ここで、無理な強制や、極端なほめ言葉で誘導することは、健全な自律心、そして自立性そのものを妨げることにもつながることがあります。
==全編は『子どもの心の育てかた』でお読みください。==

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