前代未聞のプロジェクト! 日本と韓国の作家・作家団体・出版社が共同で作り上げた本はどうやって生まれたのか? 10月27日発売『シスターパンク・ユニオン』から「はじめに」を無料公開!
2026.10.30

王谷晶/チョン・ボラ/米澤穂信/キム・チョヨプ/門田充宏/ミン・ジヒョン/空木春宵/ファン・モガ他
amazon、Rakutenブックスほか全国書店で発売中
日本SF作家クラブ+韓国SF作家連帯編による『シスターパンク・ユニオン』を10月27日に刊行しました。
本書は、日本と韓国の作家16名が「シスターパンク」という一つのテーマで書き下ろしたアンソロジー。日韓の作家、作家団体、出版社が共同で作り上げた一冊です。
【目次】
- はじめに 井上雅彦
- 軍人と魔女|王谷晶
- 地球と共に|チョン・ボラ 清水知佐子=訳
- あなたはわたしと茘枝(ライチ)をわける|米澤穂信
- ピン・アンド・ランナー・パラドックス|キム・チョヨプ カン・バンファ=訳
- 人間だけが見えるもの|門田充宏
- 今年は妊娠しない年|ミン・ジヒョン 加藤慧=訳
- Synaptic Re-Connections|空木春宵
- 全国韓国人自慢|ソ・カンボム 吉良佳奈江=訳
- 弔火|大庭繭
- 遊園地獄天国|ホン・ジウン すんみ=訳
- 宇宙船しっぽ星号の物語(テイルズ・オブ・ザ・テールスター)|十三不塔
- 熟れゆく果実のフェルンヴェー|デイナ 吉良佳奈江=訳
- 意識制限コスプレとその帰宅方法について|榛見あきる
- 魂の小さな三角形(トライアングル)|ソ・ユンビン 清水知佐子=訳
- スポットライトシンドローム・モンスター|長谷川京
- 空(くう)の間(あわい)|ファン・モガ 廣岡孝弥=訳
- おわりに ヘ・ドヨン
『シスターパンク・ユニオン』の刊行を記念して、本書収録の、井上雅彦さんによる「はじめに」を公開します。
本書成立の過程をふりかえった貴重な文章を、ぜひお読みください。

***
はじめに
井上雅彦(日本SF作家クラブ第22代会長)
これまでにない新しい試みのアンソロジーをお贈りします。
本書は、《日本SF作家クラブ》と《韓国SF作家連帯》──ふたつの国のSFを愛するプロたちが、手を組んで創り出した全篇書き下ろしの短篇競作集。
それも……「競作」集であると同時に「共作」集であり「響作」集でもあるという国際水準の逸品。日本と韓国の実力派作家たちが、ひとつのテーマのもとに意欲的な作品を書き下ろした画期的なオリジナル・アンソロジーなのです。
そして、そのテーマとは「シスターパンク」。
──「シスターパンク」って、何?
と思われる方も多いでしょう。この概念については、のちほどご説明させていただくのですが、その前に──まずはこの競作/響作アンソロジーができるまでのプロセスを、簡単にご案内させてください。
日本SF作家クラブと韓国SF作家連帯が出会ったのは、2022年。
代官山蔦屋書店で、毎年春に私たち日本SF作家クラブの主催で展開している〈SFカーニバル〉というイベントに、韓国SF作家連帯の皆さんが来てくださったのです。
〈SFカーニバル〉とは、この書店を舞台にしたブックフェアであり、〈大サイン会〉など作家と読者の交流を図るコンベンションでもあり、さらに〈日本SF大賞〉──1年で最も優れたSF作品に贈られる賞の贈賞式も行われるという一大イベントです。
ここにいらした韓国SF作家連帯の当時の副代表(現在は代表の)ヘ・ドヨンさんとファン・モガさんは日本語も堪能で、日本SFにも強い興味をお持ちで、なによりSFに対しての強い情熱を抱いていらしたのです。当時日本SF作家クラブ会長(第20代会長)だった池澤春菜さんは、すっかり意気投合し、それから交流がはじまりました。
その1年後。2023年の〈SFカーニバル〉では、一般公開のトーク・ライヴ企画──『SFencourage 韓国と日本のSF鼎談』(ファン・モガ × へ・ドヨン × 池澤春菜、司会:揚羽はな)が実現しました。
これが、私たちの最初のコラボレーション──愉しい連帯のはじまりだったのです。
それからというもの、私たちアジアのふたつのSF作家団体は、ウェブを通して、創作の夢を語り合うようになりました。やがて、
──日本SF作家クラブと韓国SF作家連帯との交流事業プロジェクトができないだろうか?
最低でも月に一度、私たちはウェブ会議で、定期的に会合を開き、綿密なコミュニケーションをとって、出版計画を練り上げていくことになるわけです。
(「私たち」──などと、書いておりますが、私・井上雅彦は2023年のこの段階では、この定例会に参加しておりません。当時は、まさか自分が日本SF作家クラブの第22代会長に選ばれようとは思いもせず、理事会にも属していなかったのです。それでも2023年の〈SFカーニバル〉のパーティで知り合ったへ・ドヨンさんやファン・モガさんとは、個人的にも愉しくおつきあいさせていただいておりました)
そう。この頃から──日韓双方の交流事業プロジェクトは、着々と練り上げられていったのです。
お互いの国でのワークショップ開催。合宿研修会。出版交流事業。
計画していたさまざまな夢は、少しずつ実現に向かっていったのです。
出版事業としては、今年5月に刊行が実現したのが『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』(Kaguya Books 刊)。これは韓国と日本のSF作家24人12組による交換日記に加えて、2025年に実現した交流イベントでの講演、対談、座談会、創作も加えたこれまでにない対論集。この本を通して、私たちは韓国の同好の士を、そして、日本人である自分じしんを見つめ直すこととなりました。
そして、いよいよ「小説」です。
──日韓の作家による短篇競作。オリジナル・アンソロジーを作りたい!
当初からのこの大目標に向かって、双方の作家たちは周到に話し合ってきました。
両国での出版社選び。翻訳。作品選定と審査の具体案。そして、テーマ……。
3年間の話し合いののち、ついに、機は熟しました。
「シスターパンク」──本書のテーマとなる概念も、私たちのウェブ会議から新しく生まれたものです。
もともとは音楽シーンで〈ロック〉のひとつの形態として使われた〈パンク〉という言葉は、反権威主義、反骨精神を象徴するものでした。この「反骨の精神性」が、文学ジャンルのSFに受け継がれた結果、「サイバーパンク」、「スチームパンク」などのサブジャンルとして開花していったのです。
では、「シスターパンク」とは?
〈シスター〉──すなわち、女性ならではの視点、あるいは、フェミニズム的な視点から現代の社会問題に反骨の姿勢を示し、考え直すSF。戦う女性が苦しむ状況を内面的考察に留まるだけではなく、世界の転換のため自ら積極的に行動に出る。そして時代や国、さまざまな環境を超え他の女性と手を組む。その観点から生まれる希望や反逆を描くSF。
性差をも超えて、連帯を目指すSF。
それが、本書のテーマ。──すなわち、本書は、「希望」の物語集なのです。
執筆メンバーの中心は、日本SF作家クラブと韓国SF作家連帯のSF作家たち。それぞれがプロットを書いた段階で翻訳し、日本作品は韓国SF作家連帯の、韓国作品は日本SF作家クラブのメンバーが審査するという独自のコンペの方法で、作品を選び抜きました。
加えて、それぞれの出版社が提案する作家たちも参加しました。日本からはシスターフッド作品で人気の王谷晶や、現代ミステリーを代表する米澤穂信。韓国からは『呪いのウサギ』で日本のホラーファン&SFファンを魅了したチョン・ボラ、『わたしたちが光の速さで進めないなら』をはじめ多くの邦訳作品が刊行されているキム・チョヨプなど。このような頼もしいメンバーが「シスターパンク」のテーマのもとに競作/響作する、実に豪華なアンソロジーとなりました。愉しんでいただけたら幸いです。
最後になりましたが、日本で本書を刊行してくださった河出書房新社・担当の竹花進さん、韓国で出版してくださる現代文学の朴賢淑さんに心より感謝を捧げます。
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王谷晶/チョン・ボラ/米澤穂信/キム・チョヨプ/門田充宏/ミン・ジヒョン/空木春宵/ファン・モガ他
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