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【試し読み公開】月着陸から半世紀…宇宙入門に最適! 『14歳からの宇宙論』

【試し読み公開】月着陸から半世紀…宇宙入門に最適! 『14歳からの宇宙論』

14歳からの宇宙論
佐藤勝彦 益田ミリマンガ

©︎miri masuda

2019年は月着陸から半世紀、民間飛行元年、とまさに宇宙イヤー!
宇宙入門に最適な本書の文庫化を記念して、「序章」冒頭ページを公開します。

ぜひお読みください。

****************

序章
宇宙はなぜこんなに魅力的なのか
宇宙論への招待

日食は地上の災いの前ぶれ?
 みなさんは日食を見たことがありますか。

「あるよ!」とお答えの方は、たぶん二〇一二年の日食をごらんになったのでしょうね。

 二〇一二年五月二一日の朝、太陽が月に隠されて細いリング状になる金環日食が、東京や名古屋、京都などの大都市を含む日本列島の広い範囲で見られました。またそれ以外の地域でも、太陽のほとんどが欠ける部分日食を観察できました。専用の日食メガネなどをかけて、金色の指輪や細い三日月のようになった太陽を見て、思わず歓声をあげた方も多いことでしょう。

 日食は、太陽と月と地球が一直線上に並ぶことで、地球から見ると太陽の全部または一部が月の影に隠される現象です。現代の私たちは、日食がなぜ起きるのかを科学的に理解していて、日食が将来いつ起きるのかを正確に予測できます。

 でも、古代の人々は、日食がなぜ起きるのか、いつ起きるのかがわからなかったので、日食の発生をとても恐れていました。

 ある日突然、空に雲もないのに、太陽がどんどん細く欠けていき、ついには消えてしまって、あたりは夜のように暗くなり、空には星が輝きます。このまま太陽は、二度と姿を現さないのではないか──古代の人にとって、それはどれほどの恐怖だったことでしょう。

 さらに、日食という天変は、地異すなわち地上の私たちに起きる災いの前ぶれであるとみなされました。

 たとえば、日本初の女性天皇として知られる飛鳥時代の推古天皇は、日食の四日前に病気になり、日食の五日後に亡くなったそうです。そのため、日食が帝の死をもたらした、あるいは予言したのだと、古代の人は考えました。西暦六二八年四月一〇日に起きたこの日食は、正式に記録に残る日本最古の日食とされています。

 平安時代になると、中国から輸入された暦に基づいて、日食がいつ起きるのかが予想できるようになりました。そこで日食の予報日には、帝や貴族たちは仕事を休み、屋内に閉じこもって日食という凶事(きょうじ)が去るのを待っていたそうです。

 日食が悪い出来事の前ぶれだなんて、単なる迷信にすぎないと、みなさんは思われるでしょうね。もちろん私も、そう思います。

 でも、日食が起きたために、ある惑星の文明が滅んでしまったという「事例」もあるのです。その惑星の名前はラガッシュといいます。

 

宇宙の真の姿を知って滅んだ惑星

 ラガッシュは、じつは架空の惑星です。アメリカのS​F作家アイザック・アシモフが書いたS​F小説『夜来たる』の中に登場します。

『夜来たる』は一九四一年に発表された、文庫本で六〇頁ほどの短編小説です。S​Fの名作・古典の一つとされていて、S​Fの人気投票があると今でも上位に来る作品です。宇宙の研究者の中にもファンが多く、私もそうですが、一般の方に向けた講演会などで『夜来たる』の話題にふれる方が少なくありません。

 以下、ネタバレになってしまうのですが、あらすじをお話ししましょう。

 ラガッシュは、なんと六つもの太陽に囲まれた惑星です。空には必ず一つ以上の太陽が輝いているので、一日中明るく、そのためにラガッシュには夜がありませんでした。

 日中、青い空を見ていても、そこに無数の星々があるとはわかりません。そのためにラガッシュでは天文学は発達せず、ラガッシュの人たちは六つの太陽と惑星ラガッシュだけが宇宙にあるすべての天体だと信じて、独自の文明を築いていました。

 しかし、天文学者のエイトンは、まもなくこの星に夜が来るだろうという研究成果を発表します。これまで知られていなかった惑星が宇宙にはあって、太陽ベータだけが上空にある時にその惑星がベータを隠す、つまり日食が起きることで、半日以上にわたってラガッシュは闇に包まれることがわかった、というのです。それは二〇四九年に一度だけ訪れる、ラガッシュの夜でした。

 エイトンの発表を、新聞記者のセリモンは痛烈に批判します。エイトンの主張は、ラガッシュの一部のカルト教徒が信じる黙示録(もくしろく)の中にある、次のような記述とそっくりだったからです。

「二〇五〇年に一度、ラガッシュは巨大な洞窟に入り、太陽はみな消え失せ、全世界が暗闇に閉ざされる。そして『星』というものが現れて、人間たちを獣に変えて、文明をみずからの手で破壊してしまう」

 はたして、エイトンの予測のとおり、太陽ベータが未知の惑星に隠されて、二〇四九年に一度の夜がやって来ました。真っ暗になった空に現れた、三万もの星々のきらめきに、エイトンは「我々は宇宙のことを何一つ知らなかった!」と絶望します。一方、ラガッシュの民衆は初めて体験する真の闇に怯えて理性を失い、光を求めて街に火を放ちます。こうして黙示録のとおりに、ラガッシュの文明は一夜にして滅んでしまったのです。

私たちだって宇宙のことを何も知らなかった!

 私たちが住む地球では、幸いなことに、毎晩夜が訪れます。ですから私たちは大昔から、星が散らばる広大な宇宙の姿をよく知っていました。

 もちろん私たちだって、四〇〇年前までは「地球は宇宙の中心にあって、太陽や月やすべての星は地球の周囲を回っている」という天動説を信じていました。もっと前の時代では、地球は三頭の巨大なゾウの背中に乗っていて、ゾウは巨大なカメの甲羅の上に乗り、カメはとぐろを巻いた巨大なヘビの上に乗っていて、それが全宇宙だと考えたりしていたのです。これは古代インドにおける宇宙観です。

 しかし、アシモフが『夜来たる』を書いた一九四〇年代初めには、人間は宇宙のことをかなりくわしく理解していました。太陽の周囲を地球が回るという地動説が正しいことは、もはや小さな子どもも知っている常識でした。太陽は銀河系という無数の星の集団の一員であることも、銀河系の外に別の銀河がたくさんあることもわかっていました。星からの光を分析することで、星がどんな物質からできているかも判明していました。さらに、星が燃えるしくみについても、星の中で軽い元素が重い元素に変わる核融合反応によって燃えていることが、一九三〇年代に解き明かされました。

 もはや人間は、宇宙の大部分を知りつくした──そんなふうに思えたかもしれませんね。

 でも、そうではありませんでした。

 一九四八年、ある物理学者が、こんな新説を唱えます。

「宇宙は昔、超高温で超高密度の状態、つまり小さな『火の玉宇宙』だった。それが膨張しながら温度を下げて、現在の広くて冷たい宇宙になったのだ」

 アメリカの物理学者ガモフが、常識外れの宇宙像を発表したのです。

 この宇宙が、昔は小さな火の玉だった──どこかの神話かカルト宗教の黙示録で描かれそうな、過去の宇宙の姿です。世界中の天文学者はことごとく、ガモフの説に反対しました。ある大物天文学者はラジオ番組で、こんなふうにいったのです。

「ガモフがいうには、宇宙は『ドッカーン』と大爆発して生まれたそうだ。つまり『ドッカーン理論』というわけさ」

 それがそのまま、理論の名前になりました。ドッカーン=ビッグバン(Big Bang)宇宙論です。

 それが今や、ビッグバン宇宙論は現代の標準的な宇宙論となっています。宇宙がかつて超高温の小さな火の玉だったことを、ほぼすべての科学者が正しいと認めているのです。

 ですから、私たちはラガッシュの人たちを笑えません。私たちだって、つい最近まで、宇宙の真の姿を知らなかったのですから。

 でも、さすがに二十一世紀の現在なら、私たちは「宇宙のことをよく知っている」と胸を張って答えられるようになった、そう思いたいですよね。

 残念ながら、そうではありません。二十一世紀になっても、宇宙には多くの謎が残されています。私たちが知っているのは、宇宙の真の姿の一面にすぎないのです。

(続きは本書でお楽しみください!)

 

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\ 益田ミリ「138億年の向こうへ」マンガも収録!/

14歳からの宇宙論佐藤勝彦 益田ミリマンガ
河出文庫●2019年8月発売
アインシュタインの宇宙モデル、ブラックホール、暗黒エネルギー、超弦理論、100兆年後の未来……138億年を一足飛びに知る、宇宙入門の決定版。

 

\ こちらもオススメ! 宇宙人は本当にいるのか…⁉︎ タムくん描き下ろしマンガ「糸」収録 /

 

科学者18人にお尋ねします。宇宙には、だれかいますか?』佐藤勝彦監修 縣秀彦編著
地球外生命はどこにいる? 生物学、化学、物理学、生命科学、天文学…各分野のトップランナーが最新成果を元に究極の謎に答を出す。

 

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著者

佐藤勝彦

1945年生。京都大学理学部物理学科卒。同博士課程修了、理学博士。自然科学研究機構長。専攻は宇宙論・宇宙物理学。主著に『インフレーション宇宙論』『宇宙論入門』『眠れなくなる宇宙のはなし』他多数。

益田ミリ

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主著に漫画『沢村さん家のこんな毎日』『僕の姉ちゃん』等。『すーちゃん』シリーズが2013年に映画化。エッセイに『そう書いてあった』等がある。

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