単行本 - コミック
タイトルからしてもの悲しいですが、中身も、なかなかです。――『重版未定』『重版未定2』
2017.05.30
わたしが初めて編集者なる存在を知ったのは、『ドラえもん』の「あやうし!ライオン仮面」を読んだときでしょうか。
連載漫画『ライオン仮面』の作者、フニャコフニャ夫先生がアイデアに詰まって原稿が描けず、仕事場を抜け出していると、
「先生、にげだすなんてひどい!」
「早くかいてくれないと、まにあいませんよ」
と、ひとりの男に詰め寄られる。そう、編集者です。
編集者(など出版社に勤務する人物)を主人公にした漫画や小説はけっこうあります。
『重版出来!』『校閲ガール』『舟を編む』『働きマン』『編集王』……
いずれも魅力的な作品で、ドラマ化やアニメ化もされています。
ところで、これらの作品舞台である出版社には、共通点がある。どこも大手出版社なんです。
大手出版社って、どんな出版社? と、ピンとこない方もいるでしょうか。
社員数が少なくても巨大な売上を誇る出版社もありますが、まあ目安としては社員数の大小が分かりやすい。
文芸・人文系の出版物を出している出版社をてきとーにピックアップして、社員数を比較してみます。
(ソースは2017年5月現在の、各社サイト上の会社案内)
講談社:902人
集英社:754人
小学館:730人
新潮社:370人
文藝春秋:350人
光文社:284人
中央公論新社:147人
岩波書店:140人
早川書房:83人
国書刊行会:85人
筑摩書房:77人
河出書房新社:72人
東京創元社:36人
白水社:36人
ざっくり、社員数100人以上を大手、それ未満を中小といって問題ないかと思います。
いま日本の出版社は約3500社、その半数以上は従業員10人以下。
つまり、ほとんどの出版社は中小なわけです。
日本の大手出版社は、雑誌を複数刊行している、漫画が売上に大きな比重を占めている、なども特徴です。
小社についていえば、社員数100人以下、漫画はたまーにしか出ません。雑誌は季刊文芸誌「文藝」1誌。まぎれもない中小出版社で、小社のほとんどの編集者は、雑誌や漫画とは無縁の書籍編集者です。
書籍編集者は、雑誌編集者や漫画編集者と比べると、まあ、地味、ですね。
上に挙げたような作品をおもしろく読みつつも、「同じ編集者とはいえ、ずいぶんと印象が違うよなー」とつねづね思っておりました(当たり前ですが)。
多くの人が「編集者」と聞いて思い浮かべるイメージは、大手出版社勤務の漫画や雑誌の編集者だと思われますが、現実には中小に勤務する書籍編集者が大勢いるのです。
同じような思いを抱いていた中小出版社勤務兼著述家の川崎昌平さんが、「だったら自分で描いちゃえ!」と中小出版社勤務の書籍編集者を主人公にして赤裸々にその実態を描いてしまった漫画が、この『重版未定』です。
「重版未定」とは「品切・重版未定」ともいわれ、事実上「絶版」みたいなもんです。
華々しく「重版出来!」が続きバンバン売れるベストセラーがある一方で、大半の書籍は一度も重版されることなく、品切れになったり断裁処分されたりして、「重版未定」状態になってゆく。
タイトルからしてもの悲しいですが、中身も、なかなかです。
出版社勤務を志望する学生さんがいたら、ぜひ読んでみてください。参考になります……たぶん。
もともとネット連載なので、興味があったらググってネットで読めます。タダで。
でも単行本版は描き下ろしがいっぱい入ってまして、今回の第2巻は、60ページ以上が描き下ろし。
ネット連載版では読むことのできないドラマが体験でき、情報も満載です。
1巻ともども楽しんでいただけましたら幸甚です。
(編集部I)