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【著者インタビュー】人生はマーケティングでできている!『いまさら聞けないマーケティングの基本のはなし』刊行記念 【前篇】

一橋大学経営管理研究科・松井剛教授による『いまさら聞けないマーケティングの基本のはなし』刊行記念インタビュー。オムツから棺桶まで……、生まれてから死ぬまでずっと消費者である私たちにとって、マーケティングは、ビジネスの場に限らず、あらゆる人生の場面で役立ちます。<人間に必要な力>としてマーケティングを学べる本書の魅力に迫ります。

 

―― 本書を読むと、いかにマーケティングが私たちの人生に密接に影響しているものなのかがわかります。

マーケティングというと、ビジネスの点から関心をもつ人が多いと思いますが、実際は、ビジネス含め、あらゆる生活の場面で、何らかの影響をもっているはずのものです。

「マーケティング」ということば自体を、ネガティブワードだと考えている人もいるかもしれません。クリエイターなど、「作りたいものを作る」べきと考える人からすると、マーケティングだけを追い求めることはあまり良しとされていないでしょう。

ですが、こう考えてみてください。

マーケティングには、大きく分けて、3つくらいの段階があります。

①知っていただく、②好きになっていただく、③買っていただく。

そもそも知っていなければ好きも嫌いもないでしょうし、嫌われては仕方がないし、好きになってもらえるのであれば、さらに買ってもらえるといい。

モノでもサービスでも、買っていただくというのは、「説得をする」ということです。誰かに気にいってもらうために、その人のために何かをする。説得と考えると、実はどんな仕事をしている人でも、どんな人生を送っている人でも、日常的にやっていることですよね。

そういう意味で、ふつうに人間の普遍的な考え方や行動のなかに、マーケティングは埋め込まれています。

マーケティングには、色々な考え方やテクニックがあります。それを、商学部やビジネススクールの学生だけでなく、色々な人に知ってもらいたいと思ってこの本を書きました。

そもそも、人間は、生まれてから死ぬまでずっと消費者です。オムツから棺桶、墓石まで。それらはすべてマーケティングの結果、買われています。このようにマーケティングは、好むと好まざるとに関わらず自分の生活のなかに入り込んでいるのです。

 

―― そして、マーケティングにおいては、「ことば」が鍵である、と。

 「はじめに」で、「マーケティングにいちばん役立つツールは『ことば』。ことばはサーチライトです」と書きました。ここで、「ことば」についてあえて強調したのは、ことばで整理すると、一見違うものが同じように見えたり、一見同じものが実は違うように見えたりする瞬間があるからです。それってけっこう発見と驚きがあることなのです。

たとえば、本書のなかでは、「クチャラー(ラーメンなどをクチャクチャ音を立てて食べる人のこと)」という例を使って「選択的注意」ということばを説明しています。

そのようなことばを使うことで、それまで気にしていなかった「食べるときに立てている音」に注目するようになり、「なんで日本では、麺をズルズルすするのはOKで、クチャクチャはダメなんだろう?」「気になっている音と気にならない音は、人によってどう違うのだろうか?」といった新たな視点で物事を見られるようになります。

このようなことばをたくさん持っていると、一つの物事を多様な見方で考えることもできるようになります。

たとえば、ふつう人は、棺桶は1回しか買わないでしょう。結婚式もだいたい1回ですし、家もだいたい1回だと思います。でも、オムツはそれらと違って、繰り返し買うものです。一方で、遺族が買うとか、親が買うという意味で「本人が買うものではない」という視点で見れば、棺桶もオムツも同じものだと言えます。

これくらいの具体感をもって話すからこそ、気づいてもらえることもあるはずだと思っています。

 

―― 実際、本書では、「ことば」を、日常風景の小噺で紹介しながら紹介しています。

これは、ぼくが大学の学部生向けの授業を15、6年やってきた成果でもあるんです。90分とか105分などの講義中、難しい話をし続けても、学生は絶対に寝ますから、小噺は必須です。どんなにテーマに関心があったとしても、息抜きや自分の日常につながる話題がないと、身に入らない。

逆に言えば、小噺を切り口にすれば、具体的なイメージも湧きやすく、専門知識のない人にとっても、マーケティングのことばを実感しやすくなるんです。

今回、想定した読者は30代以上なので、特にそのあたりの人がわかりやすくなるようなものを選びました。

 

―― 今回、5部構成、53の切り口で書かれています。

本書では、人間の欲、さらに言えば人間の業(ごう)について、ひととおり網羅したつもりです。

マーケティングが関わる場面には、必ず人の欲や業がついてまわるものです。人の欲や業を研究する学問として、心理学や社会学や文化人類学などの分厚い蓄積があります。そういった、いろいろな分野の説明のしかたを総動員して、自らを含めた人間の欲や業について考えられるのが、マーケティングの魅力であり、価値でしょう。

本書は、読み進めるにつれて、イヌやネコと同様の「生き物」としての人間から、だんだんとイヌやネコとは異なる「文化的な存在」としての人間に、焦点を移しています。こうすることで、人間の持つ多様な欲や業を幅広くカバーすることを目指しています。欲張りですね(笑)。

(本文イラスト:田渕正敏)

(後篇につづく)

 

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