ためし読み - 新書

わずかな挑戦で小中学校が変わる! 学校改革の最前線をルポ。――汐見稔幸編著『学校とは何か』

すべての子どもたちが自ら学ぶ力を存分に発揮できる学校とはどんなところでしょうか。私立だけでなく、各地の公立小学校でも、子どもの学びにとって大切なことについて考えながら、先進的な取り組みをしている先生がいます。そういった学校への取材ルポを通して見えてきたのは、先生や保護者の価値観を大きく変えた、いきいきと学ぶ子どもの姿でした。「学校に期待しても何も変わらない」「自分一人の力では何もできない」とあきらめる前に、保護者・教育関係者の皆様に読んでいただきたい一冊です。編著者の汐見稔幸氏による、「はじめに」をぜひお読みください。

 

 

==「はじめに」ためし読みはこちら↓==

 

学校とは何か
汐見 稔幸

 

 

 この本は、前著『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』に続くもので、前著で述べた教育の原理の転換――主として教えから学びに教育発想の重点を移すということ――の実際を、日本のあちこちの学校の実践で示そうとしたものです。

 教育の原理の転換というと、捉え方によってはとても難しいことのように思えます。自分たちの日頃の授業とは全く異なる授業をしなければならないのではないかと考える方も多いでしょう。でも人間は、自分が受けてきた教育をモデルとして教育を考えるということを避けられませんから、今やっている教育のやり方を自分から大きく変えるということは相当難しいはずです。変えるためには、かなりやり方が異なる外国の教育から多くを学んだほうが早いのではないか、などと考える声もよく聞こえます。実際オランダで広がっているイエナプランを学んで日本でもこのプランで進める学校をつくりたい、というような動きも少なからずありますし、私自身も誘われてフランスのフレネ学校(一八八ページ参照)に何度か見学に行ったことがあります。

 たしかに、それぞれの国で広がっている教育の原理の多くは、日本から見ると新しく、参考になることが多いものです。フィンランドの学校の写真を見ると、素敵なカフェのような教室が並んでいてため息が出たこともあります。それらのうち、日本でもすぐに採り入れられることもあるかもしれませんし、それによって学校改革のイメージが湧きやすくなる可能性はあります。その意味で、世界の教育改革、学校改革への関心を多くの教育関係者は持つべきだとは思います。

 しかし、どうしてそうした形・内容の教育がそれぞれの国で広がっているのかを、その背景にある文化や歴史を含んで考えますと、それぞれの国の文化、人育ての考え方、歴史等が根っこに深く存在して、それが複雑に反映していることがわかります。その教育の形・内容は、その国、その文化の土壌があるからこそ、根付き、花開いている面が大きいのです。

 そこを無視して、外国の手法や方法だけをそのまま同じ形で採り入れようとすると、ブナの木にメイプルの枝を接ぎ木するというようなことになりかねません。見えやすいところだけ外国風にしても、根っこがこれまでの日本風であったら、接ぎ木もうまくいかないでしょう。大事なのは、その手法や方法を産みだしている理念、考え、思想のほうです。それを参照して、というのなら、やり方は日本風でもいいということになるでしょう。

 やはり、改革は内在的であることが大事なのです。つまり、自分たちの学校にどのようなメリット、デメリットがあるのかということを、内部の声、つまり子どもや保護者の声をしっかり聴きながら、また外の声をも参照しつつ、少しずつ明らかにするということが基本になります。そこから自分たちの利点を伸ばし、弱さを克服していくためにどうすればいいかをみんなで議論しながら明らかにする。これが教育改革、学校改革の基本哲学だと思います。

 教育は、子どもの苦手なところを見つけ、それを訓練して得意なことに変える、という仕方ではうまくいかないということは、つとに指摘されてきましたし、そう実感している方も多いでしょう。苦手なことをさせられると、そもそも学ぶということ自体がおもしろくない、辛いと感じてしまう子どもが多くなるからです。そうではなく、子どもたちの興味を持っていること、関心が高いことを、なるべく子どもたち自身がやりたい方法で解明していく、それを応援していくという教育の仕方のほうがよく学ぶ、ということは、ある意味常識になってきています。 

 教員が主導して学校を変えていく場合も原理は同じはずです。教員が苦手とするところを得意に変えて新しい学校をつくれ、というにおいが隠れている改革はうまく進まないでしょう。逆に、教員が得意な分野をうまく活かし、教員自身がやりたいと思っている方向で改革していこう、その進行を、社会が学校と教育に期待している方向とつなげていく、とするほうが、うまく進むはずです。

 本書は、そういう視点で、日本の学校、主として公立の学校で、それぞれが自分の学校はこうすればもっと子どもたちが本気になって学ぼうとするのではないか、自分の得意を活かして学校改革をするとこんなアイデアが浮かび上がった、等の視点で自前で学校の改革を進めてきたところを選んで紹介し、あわせてその改革の意味するところを少し突っ込んで考えてみる、ということでできあがったものです。

 選ばれた学校は、各章のタイトルにあるようなテーマを追求している学校、あるいはそういうテーマに次第に向かってきている学校ですが、共通しているのは、冒頭で述べたように、「教えの教育から、学びを支える教育」に移行しようとしているところです。このテーマを、昨今課題になっているインクルーシブ教育、あるいはICT化、不登校の見直し、等を切り口に具体化しているところについても紹介しました。

 いずれの学校も、内在的に改革を進めることによって、自分たち自身が目指している学校を徐々に形にしていることに大きな喜びを感じていることを、ぜひ読み取っていただきたいと願っています。改革は喜びを伴わないと首尾よく進まないのです。

 

 

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続きは単行本
学校とは何か』でお楽しみください
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著者

汐見 稔幸(しおみ・としゆき)編著

1947年、大阪府生まれ。専門は、幼児・児童教育学、保育学、教育学。東京大学名誉教授。白梅学園大学名誉学長。著書に『教えから学びへ』『本当は怖い小学一年生』『「天才」は学校で育たない』など。

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