ためし読み - 新書

ボードゲームは、「個人の属性」も「能力の違い」もリセットし、誰もが一緒に楽しめる場をつくっていくーー與那覇潤・小野卓也『ボードゲームで社会が変わる;遊戯するケアへ』まえがき 試し読み

自身が鬱から回復する中でボードゲームを楽しむようになり、社会におけるボードゲームの価値について深く考えるようになった気鋭の評論家・與那覇潤氏と、1996年にボードゲームサイトを開設・2009年以降ボードゲームに関するニュースを毎日更新し続ける、普及活動のパイオニア・小野卓也氏の二人が、ボードゲームから引き出される思想を探っていく『ボードゲームで社会が変わる』。與那覇氏による、まえがきを公開します。

 

===試し読みはこちら===

ボードゲームで社会が変わる
與那覇 潤 小野 卓也

 

まえがき

 

「趣味を仕事にするべきか」という、会食や飲みの席で定番のお題がある。「恋愛と友情の境目は」ほかと同様に、おそらくは永遠に人類がこだわることをやめない問いのひとつだろう。
 相対的には「趣味を仕事にしてきた」方に入るぼく自身、いまも答えはよくわからない。ただし「趣味を思想にするべきか」に関しては、明白にイエスだと思っている。
 趣味を思想にするとは、「あの有名人も同じ趣味」「この思想家も褒めている」として権威ぶることとは違う。そうではなく、趣味のままだと「人それぞれですよね」で終わってしまう物事について、なぜそんなに好きなのかを、興味のない人にも伝えられるレベルにまで「掘り下げて考え、自分の言葉にしてみる」営みだ。
 本書はその意味で、ぼくの趣味である「ボードゲームを思想にする」ために作られている。つまり、いまこんなに流行ってますといった「物量」の形でボードゲームを推すだけではなく、むしろゲームという体験の「本質」を問う形で、まだプレイしたことのない人にもその魅力を伝えるのが目的だ。
 本文でも書くとおり、ぼくはメンタルの病気とそこからの回復をきっかけに、2015年からボードゲームにはまった「にわか」なので、まだまだ知見が浅い。なので、強力な助っ人をお願いすることにした。
 共著者の小野卓也さんは、テーマが「ボードゲーム」一択なのに毎日更新される驚異のサイトTGⅰW(Table Games in the World)を20年近く運営されている、ボードゲーム普及活動の第一人者だ。また山形県のお寺の住職で、かつ博士号を持つインド哲学の研究者でもある。趣味を思想にしてゆく上で、これほど心強い伴走者はいない。
 また第2章では、豪華なゲスト6名をお迎えし、それぞれの専門とテーマが重なるボードゲームを実際にプレイした上で、寄稿をお願いしている。多くは普段、ぼくが「仕事」でご一緒している方なのだけど、初めてゲームという「趣味」も共に体験することで、これまで互いに知らなかった表情も見ることができたと(ぼくは)思っている。
 近年、料理店で目にする用語に「ペアリング」がある。お店の側が、このフードにはこのドリンクを合わせると面白いかな、と知恵を絞って、セットの形でお客さんに勧めてくれるサービスだ。
 それと同じように「ゲームペアリング」がある社会がいいなと、いまぼくは思っている。友達のこの人や、つきあいのあるこのグループとは、このボードゲームを遊んだら楽しそうだな ―― 。そんな見方をする人が増えると、実際に周りの人とのつながりが変わってゆき、誰にとっての日常も豊かになるんじゃないか。
 本書を閉じたとき、そうしたぼくの「思想」に共感してくれる人が、ひとりでも多ければ幸いである。

(與那覇 潤)

 

===続きは『ボードゲームで社会が変わる』でお読みください===

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著者

與那覇 潤(よなは・じゅん)

1979年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。共著『心を病んだらいけないの?』で小林秀雄賞。鬱から回復する際のボードゲーム体験を著書『知性は死なない』に叙述。他に『中国化する日本』『平成史』など。

小野 卓也(おの・たくや)

1973年生まれ。96年からボードゲーム情報サイトを運営し、最新情報を発信する傍ら記事執筆やルール翻訳も手掛ける。訳書に『ゲームメカニクス大全』等。東京大学大学院博士課程満期退学。文学博士。寺院住職。

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