ためし読み - SF
日本SF史上初!? 女性作家のみの書き下ろしSFアンソロジー、 大森望責任編集『NOVA 2023年夏号』序文公開
大森 望
2023.04.06
中国SF『三体』の翻訳でも有名な大森望氏が責任編集を務める、日本SF書き下ろしアンソロジー『NOVA』シリーズ。
日本SFの大御所から新人まで、魅力的な作家陣による読切SFが発表されてきた本シリーズの最新刊『NOVA 2023年夏号』(河出文庫)は、全13作を収録。
いつもどおり、日本SFシーンの最先端をお届けする傑作揃いのアンソロジーであることに変わりありませんが、今回は『NOVA』シリーズ16冊目にして初めて、寄稿者が全員女性となりました。なぜいま、このような1冊が生まれたのか。
巻頭に掲げられた大森氏による「序」を全文公開します。
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「序」
大森 望
本書は、おそらく日本SF史上初の、女性作家のみによる書き下ろしSFアンソロジーである。
──などと大上段に振りかぶるつもりは、当初ぜんぜんなかった。たしかにこの本には十三人の女性が書き下ろしたSF(またはファンタジー)の新作短編十三編が収録されてますが、そもそも作者が女性なのか男性なのかは読者にとってどうでもいいというか、そんなこと確かめようがないじゃないですか。
それでも、今回の『NOVA』の原稿を女性の書き手だけに限定して依頼しようかなと思ったのは、二〇二二年四月に出た『走る赤 中国女性SF作家アンソロジー』(武甜静・橋本輝幸・大恵和実編/中央公論新社)を読んだから。同書を企画した武甜静氏は、作者の性別をことさら問題にするのはよくないという声を、「今はまだそんな理想的なことを語れるような世の中ではない」と序文で一刀両断にしている。中国では女性作家の台頭がめざましく、本国でも何冊か(アメリカでも一冊)中国女性SF作家アンソロジーが編まれているが、それでもまだまだアピールが必要だということだろう。
『走る赤』を読みながら、日本でやったらどんなアンソロジーになるだろうと考えているうちにだんだん読みたくなってきて、だったらオレが──というわけで、ほぼ二年ぶりとなる『NOVA』の新企画として、女性だけの巻を立案した次第。といっても女性性やジェンダーがテーマというわけではなく、たんに書き手が女性なだけ。思いつくままどんどん依頼していたらどんどん原稿が届き、驚いたり呆れたり感心したり爆笑したり感動したり考え込んだりしているうちにページ数がふくらんで、ごらんのとおり、五百ページを大きく超えた。過去最厚ではないにしろ、ふだんより(物理的に)ずっしり重くなり、申し訳ありません。まあしかし、最近は伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』の八百十六ページを筆頭に、樋口恭介編『異常論文』(六百八十八ページ)とか、日本SF作家クラブ編『2084年のSF』(六百四十ページ)とか、重量級のSFアンソロジーが流行しているので、このぐらいでは分厚いうちに入らないかもしれない。
寄稿者の数こそ、『走る赤』よりひとり少ない十三人ですが、依頼したけど載せられなかった人や依頼し損ねた人も含めると、いま現役の日本人女性SF作家はたぶん三十人以上。本書に寄稿していただいたのはその一部。二〇二〇年代のいま、女性の作家たちがいかに豊穣なSF/ファンタジー世界をつくりあげているかを一望できるショーケースになればさいわいです。書き手の性別なんて気にしたことないんだけどという人は、いつもの『NOVA』だと思って読んでください。分厚いだけのことはありますよ。