ためし読み - 日本文学

堂場瞬一、無法地帯のメディアに呑まれる⁉ 人気俳優の謎の死を巡り紡がれる、究極の三人称小説『ルーマーズ 俗』冒頭試し読み。

人気俳優、心中か? ―― 衝撃的なニュースが世間を駆け抜けた。マスメディアからソーシャルメディアまで、白熱するマスコミのスクープ合戦、SNSに溢れる誹謗中傷。ついには第二、第三の被害者まで……この噂話(ルーマーズ)の沼は、果たしてどこに行きつくのか? 無法地帯のメディアを舞台に贈る、堂場瞬一、最新小説。

 

====試し読みはこちら===

ルーマーズ 俗
堂場瞬一

 

 

10月2日㊊

東テレ「ワイドアフタヌーン」

宮本光一みやもとこういち(司会、東テレアナウンサー)「それではここで、今入ってきたニュースです。今日午後1時頃、俳優の上杉彩奈うえすぎあやなさんが、東京都内の自宅で遺体で発見されました。今日予定していた仕事の現場に現れなかったので、訪ねていったマネージャーが、倒れている上杉さんを発見、119番通報しましたが、病院で死亡が確認されました。また、上杉さんの自宅ではやはり倒れている男性が発見されており、意識不明の重体となっています。警察ではこの男性の身元を調べているということです……繰り返します。今日午後1時頃、俳優の上杉彩奈さんが東京都内の自宅で遺体で発見されました。このニュース、詳しい情報が入り次第、番組内でお伝えします。
 さて、次の話題です」

 

S​N​Sから

Badパパ@badpapa
上杉彩奈が死んだとかやばくね? 男って何? もしかしたら無理心中?
まいまい@maimai
いや、無理心中はないでしょ。上杉彩奈って男の影なんか全然ないし、クリーンイメージだから。もしかしたら、男って家族?
フルーツ1​2​3​3​@fruit1233
上杉彩奈って、帰国子女でしょう? 家族は今も海外にいるんじゃなかったかな。だからやっぱ男じゃね? 別に男がいてもおかしくない……28歳でしょ?
悪の華@badflower
無責任に噂を言い倒すだけで、お悔やみの一つも言えないクソ野郎ども。人間として間違ってるぜ。一ファンとしてお悔やみ申し上げます。個人的には「ファンファーレ」のトランペット奏者役が最高。
はまのあかり@hamanoakari
無理心中って決めつけるのって、想像力ないよね。まだ何も分からない状態で、思ったこと適当につぶやくアホ。↓↓

Badパパ@badpapa
上杉彩奈が死んだとかやばくね? 男って何? もしかしたら無理心中?

まさお90@masao90
どう考えても無理心中だよ。そうじゃなければ、誰かが家に押し入って殺した? 芸能人が住んでるマンションに入りこむなんて、まず無理じゃね? 部屋にいたの、誰だろう。
ルック2​1​8​@look218
「ファンファーレ」よかった。私は映画デビュー作の「島の教え」が大好き。あの頃、女子高生役やらせたら最強だったよね。もう20歳だったけど。↓↓

悪の華@badflower
無責任に噂を言い倒すだけで、お悔やみの一つも言えないクソ野郎ども。人間として間違ってるぜ。一ファンとしてお悔やみ申し上げます。個人的には「ファンファーレ」のトランペット奏者役が最高。

 

東テレ「イブニングゴー」

木宮佳奈子きみやかなこ(東テレアナウンサー)「こんにちは。今日1日のニュースをまとめてお送りするイブニングゴーの時間です。今日はまず、ショッキングなニュースからお伝えします。俳優の上杉彩奈さん、28歳が、自宅で遺体で見つかりました。警察が詳しく事情を調べています。上杉さんは今日、昼からドラマの撮影に入る予定でしたが、現場に姿を見せなかったので、マネージャーが自宅を訪ねたところ、リビングルームで倒れている上杉さんを見つけ、119番通報しました。上杉さんは昨日も撮影に参加していて、特に変わった様子はなかった、ということでした。では、現場の高田玲菜たかだれいな記者に聞きます。高田さん?」
高田「──はい、こちら、上杉さんの自宅マンション前です。今もパトカーが何台も停まり、捜査員が頻繁ひんぱんに出入りしています。上杉さんの部屋のドアは施錠せじょうされていましたが、訪れたマネージャーは持っていた合鍵で入ったということです。また、上杉さんが倒れていたリビングルームでは、もう1人男性が意識不明で倒れているのが発見され、病院に搬送されましたが、意識が戻ったという情報はありません。警察では、この男性の身元を調べています」
木宮「高田さん、上杉さんの最近の様子はどうだったでしょうか」
高田「上杉さんは、撮影や取材などで忙しい日々を送っていたようですが、マンションの住人とは会えば挨拶を交わすなど、至って普通の生活ぶりだったようです」
(住人のインタビュー)
「そう、愛想のいい人で、いつも笑顔で挨拶してくれて。普段はあまり化粧っ気もなくて、そんなに目立った感じではなかったです」
「普通に暮らしてたみたい。芸能人っていう感じでもなかったし、エレベーターのドアが閉まりそうになると開けておいてくれたり……普通の人でした。トラブル? 全然ないですよ」
木宮「特にトラブルはなかったということですね、高田さん」
高田「はい。近所の人たちに話を聞いた限りでは、トラブルはまったくなかったようです。住人の皆さんも、一様に驚いていて、ショックを隠せない様子でした」
木宮「現場から高田記者でした……かつらさん、これは衝撃の事件ですね」
雅興まさおき(東テレ解説委員)「私を含めて、ショックを受けている方は多いと思います。まず落ち着いて、状況を見守りましょう。警察の捜査で事情は明らかになると思いますが、とにかく無用の想像をしたり、それをネットで無責任に発信したりすることは控えるべきだと思います」
木宮「それではここで、警視庁クラブの坂下さかしたさんに聞いてみたいと思います。坂下さん、警察ではどういう方針で捜査を進めているのでしょうか」
坂下「警視庁クラブです。警察ではまだ現場を検証していて、事件なのか事故なのか、明確には判断していません。上杉さんと一緒に部屋で倒れていた男性が事情を知っていると見て、回復を待って事情を聴く方針です……ちょっと待って下さい、今、新しい情報が入りました。上杉さんの部屋で倒れて意識不明になっている男性ですが、 俳優の馬場直斗ばばなおとさんと確認されました。馬場さんが上杉さんの部屋にいた理由は分かっていません」
木宮「俳優の馬場さん──それは、警察の方で確認が取れた情報と考えていいのでしょうか」
坂下「はい、警察の公式発表です。警察では今後、馬場さんがどうして上杉さんの部屋にいたのかを含めて調べていく方針です」
木宮「分かりました。今、また衝撃的な事実が飛びこんできましたが……桂さん」
「これは驚きました。馬場さんも舞台にドラマに活躍中の名優ですし、2人が同じ部屋にいて1人が亡くなり、1人が意識不明というのは……さまざまな状況が考えられますが、臆測は抜きにして、続報を待ちましょう」

 

10月3日㊋

「東日新聞」朝刊・社会面
心中か 女優が死亡 男優も意識不明の重体

 2日午後1時過ぎ、渋谷区恵比寿のマンションで、この部屋に住む女優の上杉彩奈さん(28)が倒れていると、マネージャーの女性(31)から119番通報があった。上杉さんは病院に搬送されたが、死亡が確認された。また同じ室内で俳優の馬場直斗さん(37)が倒れているのも発見された。馬場さんは意識不明の重体。警視庁渋谷中央署で、上杉さんの死因、2人がどうして同じ部屋で倒れていたかについて、慎重に調べている。
 上杉さんの事務所によると、上杉さんはこの日午後に行われるドラマの撮影に姿を見せず、マネージャーが自宅へ確認に向かった。上杉さんは前日も同じドラマの撮影をしていた。
 馬場さんはこの日はオフで、朝、自宅を出てからの足取りは分かっていない。馬場さんは、9月30日までの舞台出演を終えたばかりだった。
 上杉さんは東京都出身で、幼少時から家族の仕事の都合でアメリカ、イギリスなどで育った。高校入学を機に帰国して、アイドルとしてデビュー後、20歳で出演した映画「島の教え」で多数の映画賞を獲得、その後も映画、テレビドラマなどで活躍している。
 馬場さんは、大学在学時に劇団「すばる座」に参加して俳優としての活動を始めた。大河ドラマ「北条氏政」で真田昌幸役を演じて人気者になり、現在も多数のテレビドラマやCMに出演している。

 

S​N​Sから

Badパパ@badpapa
これ、やっぱり心中以外にあり得ないだろ。2人がいる時に誰か押し入ったとか言ってる奴がいるけど、黙って寝てろ。セキュリティのしっかりしたマンションで、そんなことあり得ないだろう。
ミキママ@mikimama
馬場さんって、SNSに家族がよく出てくるでしょう? すごく仲良い感じしたけど、あれってSNS用の演出なのかな。だったら完全にだまされた感じ。
フミカ1​5​1​@fumika151
馬場さんの奥さんって、元女優さんだよね? 同じ劇団の。結婚して、売れない時代の馬場さんを支えてたんだよね。その美談は有名だけど、何でこんなことになったかな。
kimura@badman
どっちが話を持ちかけたかが問題だよな。馬場が生き残ったら、殺人だろう。現役の俳優が心中──殺人なんてレアケースだよね。
村上パパ@murakamipapa
法律的には心中の生き残りは殺人に問われるんだけど、まだ分からないな。確かにどっちが持ちかけたかがポイントだけど、馬場の証言しかないのが痛い。遺書とかあるかな。
Badパパ@badpapa
遺書はあっても警察は出さないだろうな。マスコミがどこまで突っこんで取材できるかだけど、そこは期待薄だろう。
さき@岬の人@sakimisaki
いやいや、いきなり心中になっているけど、断定はまだ危険でしょう。この段階で飛ばさない方がいいと思うけど。心中の方が盛り上がるからそれでもいいって感じ?

 

「東日新聞」夕刊・社会面
上杉さん 薬物摂取か

 女優の上杉彩奈さん(28)が自宅で遺体で見つかった件で、渋谷中央署は3日までに、上杉さんが何らかの薬物を摂取して死亡した疑いを強め、捜査を進めている。上杉さんの遺体を解剖し、さらに詳しく調べる。
 上杉さんが発見されたのは、20畳のリビングルーム。上杉さんは床に倒れていて、近くに薬物の袋が落ちていた。薬物は医師の処方が必要なもので、上杉さんは持病の治療のため、1年ほど前からこの薬を服用していたという。
 一方馬場さんは依然として意識不明で、まだ事情聴取ができていない。
 上杉さんの事務所「エーズ・ワン」の話「上杉が1年ほど前からパニック障害で医師の治療を受けていたのは事実。ただしそれほど重篤な症状ではなく、薬で完全にコントロールできていた。仕事も再開したばかりだった」
 馬場さん所属の劇団「すばる座」の話「馬場と上杉さんが交際していたという事実は把握していない。2人が一緒にいたのはまったく意外であり、劇団でも現在状況を調査している」

 

東テレ「ワイドアフタヌーン」

宮本光一「上杉彩奈さんが自宅で亡くなった事件の続報です。現場の上岡かみおかさん、お願いします」
上岡「はい。上杉さんの部屋で倒れているのが発見された馬場直斗さんなんですが、ここ半年ほど、上杉さんのマンションに出入りする様子が目撃されていました。いつも1人だったということですが、馬場さんの自宅はここからは遠く離れており、疑問を持つ人も多かったようです」
宮本「上岡さん、馬場さんは頻繁に出入りしていたのでしょうか」
上岡「どれぐらいの頻度だったかははっきりしませんが、何度も目撃されていたのは間違いありません。しかし、上杉さんと馬場さんが一緒にいたところを見た人はいません。馬場さんが上杉さんに会いに来ていたのか、他の目的があってこのマンションに来ていたのかは不明です。そして宮本さん、先ほどこちらに来た上杉さんの事務所『エーズ・ワン』の社長、竹下たけしたさんのコメントが入っています」
(竹下のコメント)
「はい、取り敢えず警察の捜索が終わったので、部屋を確認しにきました。海外にいるご家族には連絡を取れて、現在日本へ向かっています。いえ、ご家族が会見する予定はありません。事務所ですか? はい、いずれ……警察の捜査の動きによりますが、いずれ事務所としてお話しすることがあると思います。馬場さんですか? いえ、それは……事務所としてはまったく把握していません。すみません、皆さんにご迷惑をおかけしました」
宮本「上岡さん、竹下さんはどんな様子でしたか?」
上岡憔悴しょうすいしきっていました。竹下さんにとって、上杉さんはゼロから育て上げた事務所の看板タレントで、ご両親が海外で暮らす上杉さんにとっては、竹下さんが親代わりでもありました。お話はしていただけましたが、目がうつろで、非常に疲れ切った様子でした」
宮本「はい、分かりました──引き続き取材をよろしくお願いします。常松つねまつさん、いかがですか」
常松明子あきこ(脚本家)「まだ分からないことが多いので、迂闊うかつなことは言えないのですが、まず上杉さんにはお悔やみを申し上げたいと思います」
宮本「常松さんは、上杉さん主演の映画やドラマの脚本を書かれていましたね」
常松「はい。上杉さんとは映画の『ファンファーレ』でご一緒させていただいて、『今度はテレビドラマで』と2人で話していて実現したのが『ネクストタイム』でした」
宮本「脚本の常松さんを始め、主要キャスト、スタッフの多くが女性ということでも話題になったドラマです」
常松「女性が……というくくりには問題があると思いますけど、上杉さんは頑張ってくれました。ご覧になった方はご存じかと思いますが、ハードなアクションの多いドラマで、上杉さんはそれをほとんど代役なしでこなしてくれました。彼女、小柄で細くて……それを一生懸命鍛えて、私のイメージ通りに変身してくれました。初回の脚本が出来上がったタイミングでそんな彼女を見て、2回目以降の脚本を書き直したんです。全部上杉さんのイメージに合わせただけで、しっくりきました」
宮本「上杉さんにとっては異色の作品でしたけど、あれで新しい一面を見せたと評価されていますね」
常松「でも、現場を離れるととてもチャーミングな人で……そうですね。最近、チャーミングなんていう形容詞はあまり使われませんけど、彼女は本当にチャーミングでした。外国育ちのいい影響があったのかもしれませんね。上杉さん、よくお菓子を作って現場に持ってきてくれたんですけど、それがいつも半端ない量で……しかも1つ食べればお腹一杯になりそうな、巨大なクッキーとかなんですよ。アメリカではこれが普通なんだって、いつも笑ってました。それをいっぱい食べて大きな声で笑って……それで本番になるとすぐに殺し屋の顔になって……プロでしたね。まだまだたくさん、一緒に仕事できると思っていたのに、人生って何が起きるか分かりませんね」

 

「週刊ジャパン」10月10日号

 人気女優と俳優、2人が同じ部屋で倒れて、女優は死亡が確認された。女優は独身、俳優は家族思いとして知られていた。2人の間に何があったのか、闇が深まる。
 上杉彩奈(28)は10月1日、来年1月放送開始予定の東テレのドラマの撮影で横浜にいた。この日の撮影は夕方に終わり、満足のいく結果だったのか、共演者やスタッフと笑い合っていた姿が目撃されている。
 しかし翌日の2日、上杉は撮影スタジオに現れなかった。午後一番からの撮影ということで、スタジオ入りは11時。しかし1時間経っても現れず、携帯も通じなかったので、マネージャーが自宅へ向かった。上杉は「記憶にある限り遅刻したことは一度もない」(事務所関係者)ので、慌てたのだという。合鍵を使ってマネージャーが家に入ったところ、20畳のリビングルームで、上杉が床に倒れていた。近くには上杉が常用していた薬の袋があり、過剰摂取が疑われた。
 上杉は1年前からパニック障害の投薬治療を受けていた。この1年は仕事をセーブしており、今回の連ドラは1年ぶりの主演作で、本人も張り切っていたという。制作発表でも、屈託くったくのない笑みを見せていた。
 そしてこのリビングルームでは、俳優の馬場直斗も倒れていた。上杉が部屋着のジャージ姿だったのに対して、馬場はジャケットにジーンズ姿。馬場はこの半年ほど、上杉のマンションに入って行く姿を何度も目撃されていた。しかし2人が一緒にいるところは見られていない。
 これまでの警察の調べでは、当日、上杉がパニック障害の薬を規定量以上服用したのは間違いないが、これですぐに死に至ることはないと医療関係者は証言している。一方馬場も何らかの薬を服用した様子だが、まだ詳細は判明していない。馬場は意識不明のままで、今のところ警察は事情聴取できていない。
 この事件で、2人を知る関係者は一様に驚きを見せている。
 現在まで、2人の共演は2022年公開の映画「君の声が聞こえない」だけで、しかも直接の絡みはなかった。同作の深谷浩介ふかやこうすけ監督は、「2人とも重要な役で映画に貢献してくれたが、共演したわけではない。撮影現場で一緒になったこともなかったはずで、舞台挨拶で初めて顔を合わせたのではないか」と戸惑いを隠せない様子だった。
 しかしこの映画で上杉と共演した俳優の中には、別の見方をする者もいる。ある俳優は「舞台挨拶は全国5ヶ所で行われたが、終わった後、2人はいつも親しそうに話していた。映画での直接の共演はなかったが、舞台挨拶で親しくなったのではないか」と話す。
 上杉は幼少期をアメリカ、イギリスなどで過ごした帰国子女。高校入学と同時に帰国し、芸能活動を始めて、グラビアアイドルとしてブレークした。そして20歳の時に出演した映画デビュー作「島の教え」での演技が絶賛を浴び、数々の新人賞を受賞、その後は演技に軸足を移した。去年パニック障害を公表してからは仕事を控えていたが、今回のドラマ撮影では、病気の影響を感じさせない演技を見せていたという。これまでに交際報道などはなく、SNSなどもやっていないので、私生活は謎に包まれていた。
 馬場は大学在学時から劇団「すばる座」で活躍し、大河ドラマ「北条氏政」で演じた癖のある真田昌幸役で、一気にお茶の間に知られる存在になった。その後はテレビドラマ、CMなどに引っ張りだこ。同じ劇団の女優だった妻との間に1男1女。家族思いで知られ、バラエティ番組では愛妻家ぶり、親バカぶりを発揮して共演者を呆れさせるのが「お約束」になっていた。
 上杉の事務所「エーズ・ワン」では「上杉はパニック障害の症状も安定し、以前と同じようにドラマの収録に取り組んでいた。2人が交際していた事実は把握していない」と戸惑いを隠せない様子。
 一方馬場が所属する「すばる座」でも「今のところ事情はまったく分からない。馬場は5月の舞台を体調不良で降板したこと以外は順調で、再来年まで映画や舞台の予定が入っていた。家族関係も良好で、仕事・私生活双方で、何かトラブルがあったとは聞いていない」と、事情を把握できていない様子だ。
 超売れっ子女優と人気の実力派俳優。心中の疑いもささやかれるが、2人の間にいったい何があったのか。

 

ブログ「夜の光」

 まあ、ブログのタイトルなんかどうでもいいんだけどさ。内容とは関係ない感じになると思うけど、いつか関係あるようにしてもいいかも。
 で、このブログの内容だけど、「上杉・馬場事件」のまとめにします。2人が関係してるんだけど、こういう場合、どっちの名前を先にするかで結構悩むよね。独自の分析により、これまで主演作の多い上杉彩奈の名前を先にします。
 さて、この2人が同じ部屋で倒れている状態で見つかった事件だけど、ネット上では「心中」の声が圧倒的に多いよね。まあ、2人とも倒れていて、1人はすぐに死亡が確認されたんだから、そう見るのは自然だと思う。上杉彩奈は薬物を摂取した形跡があるし。ただし、常用していたパニック障害の薬だけではなさそうで、その辺はまだ分かってないみたい。
 馬場直斗も何らかの薬を呑んだ様子だけど、こちらは血液検査だけで分からないのかな……別に、死んで解剖しないと、意識不明になっている原因が不明ってことはないだろうけど。
 状況的には確かに心中なんだけど、まだ断定はできないよね。ネット上では誰でも無責任なことを言うけど、そういうのがいつの間にか事実として語られるようになってしまうから困る。このブログでは、できるだけ適当な噂を廃して正確な情報を集め、ご紹介します。
 今、ネット上で流れているインチキ情報で一番笑えるのは、2人が「アグレクト」を服用したっていう話ね。アメリカでは、こいつの中毒が麻薬以上に深刻だって言われてるけど、アグレクトは日本に入ってきてないから。もちろん、違法に持ちこまれた可能性もあるけど、そもそもアメリカでも処方なしじゃ手に入らないから、大量に日本に持ちこむことは不可能だし。それにアグレクトは、常習性、うつ的症状の誘発、手足の痙攣けいれんや胃の痛みが副作用で出てくるけど、死ぬような薬じゃない──と、ネットに書いてありました。それぐらい調べればすぐ分かるのに、人の話を鵜呑うのみにして拡散する奴、成敗が必要だね。

 

hossyチャンネル「事件事故の部屋」

「どうも、hossyです! さあ、今回は今、世間の注目を集めている事件について取り上げます。女優の上杉彩奈さんが亡くなり、俳優の馬場直斗さんが同じ部屋で意識不明の状態で見つかった事件。世間では心中ではないかと言われているけど、実際のところはどうなんだろうね。馬場さんは家族思いのイメージがあるけど、上杉さんの部屋で何をしていたんだろうか? 2人は思い詰めて心中するような関係だったんだろうか?
 2人の事務所は『調査中』としているだけで、警察からも発表はまったくない。hossy、渋谷中央署に突撃しましたよ。そうしたら副署長に、『発表することはない』って素っ気なくご対応いただきました。警察と旧マスコミってずぶずぶの関係じゃん? 警察も、都合よくコントロールできるマスコミ以外は相手にしないってことだよね。でもそれじゃ、真相が埋もれてしまう。ということで、今回もhossyの出番です。
 今日は私、馬場さんの自宅前に来ております。事務所が調査中、警察は取材拒否となると、やっぱり家族に話を聞かないと何も分からないよね。というわけで、これからインタフォンを鳴らしてみようと思います。これ、編集でモザイクかけるけど、馬場さんの家、かなり立派な一戸建てです。でも、おかしいな……こんな事件に関わった人だから、芸能マスコミが取り囲んでいるのかと思ったら、誰もいないの。何か忖度そんたくでもあるんでしょうか。馬場さん所属の『すばる座』がプレッシャーをかけたとか? 芸能界の深い闇を感じますねえ。では、インタフォンを鳴らしてみたいと思います」
(インタフォンの音)
「反応ないですね。外から見た限り、家に誰かいるかどうかは分からない。hossyね、こんな夜遅い時間に訪ねて来たのは、窓を観察するためなんですよ。昼間だと分からないけど、夜は窓を見れば、家に人がいるかどうかはだいたい分かる。どんなに遮光性の高いカーテンを使っていても、少しは外に明かりが漏れるものだからさ。でも馬場さんの家は、真っ暗ですね。ご家族はどこかに避難しているのかもしれません──あ、ちょっと待って。今1台の車が家に近づいてきて……女性が降りてきました。間違いありません。元『すばる座』の女優で馬場さんの奥さん、馬場美穂みほさんです。ちょっとお話を聞いてみましょう。馬場さん? 馬場さん、ちょっといいですか? 事件取材ユーチューバーのhossyです。ちょっとお話を聞かせていただけませんか? いや、あれ? 今、車から男性2人が降りてきました。ちょっと、ちょっと何するんですか? 暴力はやめて下さい! 取材してるだけなんですから! ちょっと!」
(中断)
「先ほどは失礼しました。hossyを排除しようとした2人組は、『すばる座』のスタッフということです。取材だという意図は伝えたのですが、無視されて、家から遠ざけられました。非常に暴力的な手段だったので、hossyは『すばる座』に抗議するかどうか検討中です。しかしhossyは諦めません。今、世の中の人が一番興味を持っていることを明らかにするために、突っこんでいきたいと思います!」

 

コメント欄

@user-876798
hossyやり過ぎだろ。馬場さんの奥さんの顔、出すなよ。あんな怯えた顔を見せたかったのか? 全然楽しくないしショッキングでもないし、hossyの悪趣味全開じゃん。
@Tomo899
hossyのエグいやり方は、ハマった時にはいいけど、今回はダメだよ。芸能マスコミが張ってないっていうけど、最近のマスコミは、ちょっとは遠慮するでしょう。それを読めてないのはやばいぜ、hossy。
@miurabros
hossyって、いかにもスクープ発信しますって感じでやってるけど、実際は現場で騒いで、一人で大事にしてるだけだよね。今回のこれもその典型。アクセス数稼ぎで張り切りたいのは分かるけど、そのうち刺されるぜ。

 

*****

続きは単行本『ルーマーズ 俗』にてお楽しみください。

 

 

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著者

堂場 瞬一(どうば・しゅんいち)

1963年生まれ。新聞記者を経て2000年に作家デビュー。「刑事・鳴沢了」シリーズ、「アナザー・フェイス」シリーズなど警察小説のベストセラーを次々に発表。同時に、社会派、スポーツものも執筆。

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