文庫 - 随筆・エッセイ

わかんない部分があるからあなたと私は他人なんです──最果タヒ『きみの言い訳は最高の芸術』あとがき公開中

きみの言い訳は最高の芸術

最果タヒ

初エッセイ集、待望の文庫化! 刊行を記念して、「単行本版あとがき」を公開します。ぜひお読みください。

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単行本版あとがき

 共感されたくて文章を書いたことなんて一度もなかった。わかってほしいとかわかってくれないとかそういうことから切り離されて、文章を書けるからインターネットが好きだった。私はたぶんブログというものに出会っていなければ詩を書き始めることもなかったし、こんな仕事にもついていなかっただろうと思う。どうしてこれを書いてしまったのか、とか、これは正しいのか間違っているのかだとか、読んだ人が納得できるのかどうかとか、そういうことで価値が決まる文章がすべてではないと無根拠に信じていて、だからこそ私は私を放り出すようにして文章を書くのが楽しかった。

 そういう人間もいるんですよというそれだけのことを伝えるためだけに私はここにいるのかもしれないし、洋服を自分で選んで、料理を作って食べて、それから文章を書いているのかもしれない。現実の世界でなら、アスファルトの上で立ちつくしていればそれだけでよかったのかもしれない。日差しによって足元には影ができるし、通りすがりの人すべての視界に私は入っているだろう。でも、インターネットだとなにかを作っていかなくちゃ存在自体が0になる。だから私は文章を書いた。ブログ。それでもそこに余計な価値はいらないと思った。知ってほしいことなんてないし溢れ出る感情もない。人が、立ち尽くしているだけの文章を書きたい。それが読む人にとって意味があるのかわからなかったけれど、私は当時ただの中学生だったし、そもそも書けるような経験も知識もなかったんだ。

 この本は私がブログに書いていた文章を中心にまとめたものです。日頃考えていることを記すというよりは、ブログに書くことで呼吸をするような感覚に近かった。だから思いもよらないことを書いていたり、あとで読んでもどうしてそんなことを書いたのかわからないものもある。私の中身がそこにあるというよりは、私が通過した痕跡がさざなみのように残るだけに思えた。それが、人に伝わってほしいとは思わなかったし、共感してほしいとも願わなかったけれど、言葉を読んでくれる人がいることはどうしてか私を幸福にしてくれた。

 友達と話したら、オチを求められるし、目上の人と話したら、情報価値を求められる。そこに本当は私という存在はいらなくて、おもしろいネタ帳がころがっていたらそれでいいのだろうと思う。自分という存在自体を認めてほしいというのはいつのまにかわがままなことになっていて、それでも、そうじゃなきゃ生き残らない部分が私の中にはたくさんあった。他人にも、あるんだろうと想像をした。詩を書くようになって、もっと曖昧なものを作るようになって、何言ってんのかわかんないって言われることも時々あったけれど、私はたぶんすべての人に対して何言ってんのかわかんないって思っている。むしろ何言ってんのかわかったら気持ち悪いな、吐いちゃうな、ときっとどこかで考えている。わかってもらえないことや、わかってあげられないことが、ちゃんと心地よいままでいたい。わかんない部分があるからあなたと私は他人なんです。そういう態度でいたかった。だから、交差点ですれ違っただけの人をなぜかずっと記憶している、なんて日があると、なんだかとても嬉しい。

 いつか自分の言葉で、誰かとすれ違ってふと目があった時のような、そんな瞬間が作れたらいいなと願っています。何も伝わらないかもしれないけれど、その代わり、そこにお互いがいたというそのことが瞳の奥に残ればいい。ただ私は生きていて、あなたも生きているんだということ。そんな当たり前のことが言葉の上にも描けたらいいな。その人がどんな人であるかなんて、「そこにいる」というその事実に比べたらやっぱりとてもちっぽけだな、と思います。

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本編は本書にて

\初のエッセイ集 待望の文庫化!/

きみの言い訳は最高の芸術最果タヒ
河出文庫●2019年9月発売

いま、もっとも注目の作家・最果タヒが贈る、初のエッセイ集! 
「友達はいらない」「宇多田ヒカルのこと」「不適切な言葉が入力されています」他、文庫版オリジナルエッセイも収録!

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著者

最果タヒ

1986年生まれ。詩人・小説家。2006年、現代詩手帖賞を受賞。07年、詩集『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。著書に『死んでしまう系のぼくらに』(詩集)、『星か獣になる季節』(小説)他多数。

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