文庫 - 随筆・エッセイ

よもや自分の娘がピンク星人になってしまうとは…『女の子は本当にピンクが好きなのか』試し読み公開中

女の子は本当にピンクが好きなのか

堀越英美

どうしてピンクを好きになる女の子が多いのか?
文庫化を記念して、「イントロダクション」を公開します。ぜひお読みください。

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イントロダクション

 よもや自分の娘がピンク星人になってしまうとは。

「『女の子の色はピンク』なんて押し付け。女の子が生まれたら、自由にいろいろなものを選べるようにしてあげたい」。そう思って育ててきたはずの長女が、三歳を前にピンクにしか興味を示さなくなった。「これからは女の子だって社会に出ていく時代なのだから、自主性を尊重してあげなくては」と好きなように服を選ばせたら最後、林家ペー&パー子のような全身ピンクの格好で意気揚々と街中を闊歩する娘を追いかけることになる。

 女の子のお母さんに聞いてみると、皆、同じような体験をしているようだ。海外の新聞サイトなどをのぞいてみても、幼い娘のピンク化を憂える声、声、声……。私の戸惑いはグローバルなものだったのか。その名もずばり、『ピンク・グローバリゼーション』と題された海外の書籍まである。

 洋の東西を問わず、女の子の多くは生まれて三〜四年もすると、ピンクに取り憑かれてしまう。お母さんが全身黒を愛するテクノマニアであっても、アースカラーしか身に着けないほっこりミセスであっても、娘たちはおかまいなしだ。確かに私の子供のころにも、女児向けのピンク製品が皆無だったわけではない。しかしこれほどピンクに取り巻かれていたことはなかったはずだ。サリーちゃん、ハローキティ、キャンディ・キャンディ……記憶にある女児文化は、たいてい赤と白に彩られている。

 娘を持って気付いたことだが、書店の幼児雑誌のコーナーは、もはや完全にピンク優勢である。「ぷっちぐみ」、「たの幼 ひめぐみ」、「おともだち♡ピンク」といった全面ピンクの女児向け雑誌は、いずれも二〇〇六〜二〇〇七年に創刊されたものだ。昔は幼児雑誌といえば特撮メインで、女児向けのコンテンツは申し訳程度だったと記憶している。娘にねだられて何度か購入したが、『プリキュア』のシールやパズル、リカちゃん人形のヘアカタログ、さらにはファッション&メイク情報まで、どのページを開いてもピンク、キラキラが飛び込んでくる。付録はというと、色付きリップが付属する「プリンセス☆メイクドレッサー」、プリンセスになりきれる「おひめさまヴェールつき ティアラカチューシャ&リング」、ロールオンタイプの香水「らぁらのはじめてフレグランス」……それぞれの付録には、こんな女性誌風のコピーがついている。「『ふろくで へんしん! プリキュアふう おしゃかわ メイク&ヘアカタログ』で、メイクやヘアアレンジに挑戦しましょ♪」。

 私が幼稚園のころなんて、いかに固い泥団子を作るか、高くブランコをこげるかということぐらいしか興味がなかったような気がする。二一世紀の女児は、小学校に入る前からピンクの雑誌で女子力アップに駆り立てられているらしい。

 ハロウィンともなると、保育園や幼稚園の女の子たちが皆ドレスでプリンセスになりきるのは、毎年恒例の行事となった。男の子は忍者や海賊、果ては大仏とバラエティ豊かなのに、と個性のなさを歯がゆく感じないでもない。女児のプリンセスブームのきっかけとなったのは、ディズニーが二〇〇〇年にお姫様キャラクターだけを集めて立ち上げた女児向けブランド〈ディズニープリンセス〉である。以来、世界中の女児が〈ディズニープリンセス〉の虜になってしまった。

 ご多分にもれず、我が家の長女もプリンセスに入れあげていた時期があり、毎晩のように「シンデレラ」を読み聞かせるように頼まれたものだ。シンデレラ? いじわるな姉たちを結婚式に呼んだらハトが目玉をくりぬいて復讐してくれるというリベンジまで人まかせ(というか、ハトまかせ)なお話でしょう? もっと、女の子が自力で戦うお話を読み聞かせなくちゃ。初めての子供で張りきっていた私は、女の子が知恵と勇気で悪者を欺き、とらわれた姉たちを救うグリム童話「フィッチャーの鳥」を読んであげた。長女の感想は「うそつきな女の子はダメ。次、シンデレラ読んで」。はい。

 玩具店の女児コーナーに足を踏み入れれば、ピンク、そして水色、ラベンダーというパステルカラーの大洪水だ。美容、おままごと、手芸、クッキング……と従来の女性役割を踏襲した玩具が多いことも、欧米の母親の悩みのタネになっている。あんなに抵抗して克服しつつあるはずの性別役割分担が復活するなんて、だ。とはいえ、「かわいい……」とうっとりする娘たちを前に、大人たちはなすすべもない。なにしろミッフィーを生んだオランダでも、ミッフィーを差し置いて近年ピンク化したハローキティが大人気なのだから。

 国を越えてこれほど多くの女児がピンク(やプリンセス、キラキラしたもの、妖精など)を好むのは、いったいどういうわけなのか。社会の影響? それとも女の子は生まれつきピンクが好きになるように脳が配線されている? 仮に生まれつきの性質なのだとしても、もやもやせずにはいられない。

 そもそも、なぜ自分はピンクにこんなにもやもやしてしまうのだろう。私は、ピンクから何を読み取っているのだろう。

 二女の母としてのこんな素朴な疑問が、本稿を書かせるきっかけとなった。一章ではまず、フランス、アメリカ、そして日本を中心に、ピンクが女の子の色となった歴史を概観する。二章では、ピンクまみれの女児玩具シーンに反撃ののろしをあげた二〇代アメリカ人女性考案の玩具ブランド〈ゴールディー・ブロックス〉および〈ルーミネイト〉の快進撃の事例とともに、欧米におけるアンチ・ピンク運動を取り上げる。三章では、〈ゴールディー・ブロックス〉の成功から始まった、現在進行形で広がりつつある女児玩具のSTEM(理系)化ブームを紹介する。四章では、女性の理系・社会進出が進まない日本社会においてピンクが何を意味するのかを考える。五章では、日本のインターネット上で盛り上がる「ダサピンク」批判から、客体としてのピンクと主体としてのピンクの違いを考察する。最終章となる六章では、ピンクが好きな男子に対する抑圧、そして「カワイイ」から疎外される男性の問題を取り上げる。

 あなたはピンクが好きですか? それとも、嫌い?

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本編は本書にて

『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美
河出文庫●2019年10月発売

どうしてピンクを好きになる女の子が多いのか? 一方で「女の子=ピンク」に居心地の悪さを感じるのはなぜ? 子供服から映画まで国内外の女児文化を徹底的に洗いだし、ピンクへの思いこみをときほぐす。

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著者

堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。著書に、『萌える日本文学』『不道徳お母さん講座』、翻訳書に、『世界と科学を変えた52人の女性たち』『ギークマム』がある。2女の母。

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