単行本 - 児童
絵本『きりみ』刊行記念! 作者・長嶋祐成さんインタビュー【前篇】
2018.07.25
大注目の魚譜画家・長嶋祐成さんインタビュー! 初めての絵本『きりみ』が刊行されたのを記念し、魚を描く画家になられるまでの経緯や、なぜ魚なのか、なぜ描くのかについて、お話しいただきました。
絵本作成中の様子をとらえた写真とともに、前篇と後篇の2回に分けてお届けします。
――長嶋さんは2010年頃から「魚譜画家」という魚を描く画家として活動を始められて、個展も何度も開かれています。今回、初めての絵本で、テーマは「きりみ」でしたが、描かれてみていかがでしたか?
長嶋 絵を描くときの気持ちは、絵本であるからといって、普段と特に違いはありませんでした。絵にストーリーや意味を含ませるタイプの絵本ではなかったので、対象そのものの魅力を描くといういつも通りの姿勢で臨めたのだと思います。
ただ、魚料理や解体図は、ほぼ初めて描いたので、新しいチャレンジでした。食べものを描こうとしたことは過去にもあったのですが、そのときはまだ自分の中でそれが「ぶれ」として感じられて、やめていたので。今回ようやくトライできました。
新しいチャレンジと言っても、これがもし例えば「植物の絵本にしましょう」だと僕にはハードルが高すぎるんですが、魚の料理と解体というのは絶妙だったと思います。チャレンジすることを楽しんで描くことができました。
――なぜ、魚を好きになったのでしょうか。
長嶋 子どもの頃は魚に限らずいろんないきものが好きだったのですが、「飼う」ことにおいて魚がいちばん楽しかったからだと思います。僕の場合、いきものを飼う楽しみは「野生の姿」をのぞき見ることでした。僕の知らないところで、いきものたちはどんなふうに過ごしているのか。とくに水の中は簡単には覗きこめないですから、水槽に入れて横から眺めたときの喜びが大きかったのだと思います。
また、魚の「線」、つまり体のラインに惹かれたのも大きいです。他のいきものと違って、魚は水中という空間の全方位に動く可能性をもっています。そして静止している時間が少ない。だから魚の体のラインはうんと自由で、しなやかで、次にどう動くかという緊張感をたっぷり含んでいるように感じるんです。
といっても、それを言葉にできるのは今だからであって、子どもの頃にそんなふうに意識していたわけではありませんが。
――どんな魚との出会いが始まりでしたか?
長嶋 子どもの頃、『怪獣のふしぎ――全国こども電話相談室』(小学館)という未確認生物を集めたまんが図鑑が好きだったのですが、その中に「チスイコウモリ」とか「ピラニア」とか、実在が分かっているいきものも一緒に入っていたんですね。
だから僕はこの本を読んで、ピラニアってどこか架空じみた、すごく怖い生き物だと思いこんでいたんです。人間が川に落ちたら最後、バーっとピラニアたちが寄ってきて食べられてしまう。と、思っていたところに、百貨店の屋上のペットショップで、ピラニアが売られていたんですね。「あのピラニアを普通に飼うことができるのか!」と興奮して、親にねだって買ってもらったんです。そうして飼い始めて、メダカや金魚に襲いかかる姿に夢中になりました。
それまでも、池ですくった魚や、空き地でとってきた虫を家で飼っていたんですけれども、本格的に魚にのめりこむきっかけはそのピラニアでしたね。小学校2年生くらいの頃でした。
――水槽から、海の中へと興味が移っていったのはどうしてなのでしょうか。
長嶋 水槽で魚を飼うようになったあと、釣りをするようになりました。僕が魚を好きだっていうことで、父親が連れて行ってくれたのが最初です。とはいえ、その時父親も釣りが初めてだったんですね。普通は、父親もしたことがあって連れていく、という感じだと思うんですけれど、二人して初めてという(笑)。それで海で魚を釣っては、それをやっぱり飼っていました。
自分の知らない野生の姿をのぞき見るのが、僕の「飼う楽しみ」です。海の中というのは、それまで魚をすくっていた池よりももっと遠い世界のようで、飼う楽しみも格別でした。ところが海の魚は飼うのが難しい。海の方が生き物たちの織りなすシステムみたいなものが複雑で、なかなか自然の姿どおりにはいかないし、長生きさせるのも大変でした。これは僕のセンスや技術や根気ではできないな、と思うようになっていきました。
その後、受験を機に長らく魚から遠ざかり、再び「魚に触れる生活をしたいな」と思ったのは就職してからです。で、子どもの頃とは違って自分の力で自分の時間を使って海へ行けるので、飼うかわりにどんどん海へ行こうと。
それで最初は堤防の上から釣りをしていたのが、もっと魚に会いたくて少しずつ波打ち際に近づいていく。次は足を浸けて釣りをする、海の中に入っていく……。そうすることによって海のエネルギーをこの身に感じて、もっと魅力にとりつかれたし、海を怖いと思う気持ちも出てきました。
そんな頃、縁あって東京から石垣島へ移住することになります。家の周りには砂浜とサンゴ礁とマングローブがあって、フィールドに出るには最高の環境です。これまでしてこなかったシュノーケリングもするようになり、とうとう全身水に入って魚を見るようになりました。魚との接し方がそうやって増えていくにつれ、絵も幅が広がってきたように思います。
(後篇に続きます)