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【著者インタビュー】ビジネスにも恋愛にも就活にも節約にも役立ちます!『いまさら聞けないマーケティングの基本のはなし』刊行記念【後篇】
2018.10.11
一橋大学経営管理研究科・松井剛教授による『いまさら聞けないマーケティングの基本のはなし』刊行記念インタビュー。後篇では、マーケティング力を高める「ことば」の身につけかたについて、伺いました。
―― 「女子力」「負け犬」「美魔女」……ことばは日々新たに生まれています。どういう視点でことばを見ていけばよいのでしょうか?
ぼくは、学生のことばには、結構気をつけています。最近ゼミ生から教えてもらったことばでいうと、「英弱」(英語弱者)や、「いい写」(良く撮れた写真)などは、広がりがありそうでおもしろいと思いました。
マーケティングに関わることばには、ふたつのレベルがあります。
ひとつは、本書でいうと各項のサブタイトルとして載せている、マーケティング用語としての「市場を語ることば」です。もうひとつは、本書の巻末「もっと楽しむためのキーワード」にも入れましたが、「市場を創ることば」です。
さきほど挙げた、「英弱」や「いい写」は、「市場を創ることば」にあたります。こちらは、アンテナを張って探していると、日々いろいろなところに転がっているものです。
こうした「市場を創ることば」は、実際にマーケットを作っています。
たとえば、ひとりで食事をすることを表す「ぼっちめし」や「おひとりさま」ということばが広まると、「一蘭」のカウンター席のように席ごとに仕切り板を付けてラーメンを食べてもらう新しいビジネスが生まれます。
ひとりで食事をすることを肯定するだけでなく、それにまつわるマーケットも生み出したわけです。
ことばがまさにサーチライトとして照らすことが、その先のビジネスにつながってくるということは、これからもどんどん起きるでしょう
―― 新しいことばを使って、マーケットを生み出すということですね。
ことばの効果には、マーケットをつくるということだけではなく、企業組織のメンバーたちの関心を揃えさせるという機能もあります。
少し古い例ですが、かつて液晶パネルをつくるには技術的な壁がいくつも立ちはだかっていて、本当に小さなものしか作れなかった時代がありました。より大きな液晶パネルを作るための技術革新を進めるために、シャープという会社は技術上の目標を「壁掛けテレビ」という端的な表現にまとめました。何を目指すべきか、すごくわかりやすい「ことば」だと思います。
液晶でテレビをつくれるなどとは思っていなかった時代に、組織でイノベーションを起こそうとするために、こういうわかりやすいことばを作る。そうすると社員が、それに向かっていくようになります。
もうひとつの例として、日本電産という会社の「回るもの、動くもの」ということばがあります。日本電産は、日本だけでなく海外の企業を買収して成長してきました。その際の指針となったのが「回るもの、動くもの」ということばでした。
このように目指すべきこと、なすべきことについての「ことば」を決めておくと、その都度、これがいいのか、あれがいいのか、と、いちいち議論をする必要がなくなり、話を素早く進めやすくなるのです。
―― 「ことば」を使いこなせるようになる必要がありそうですね。
本書を1回読むだけでは、なかなか「ことば」が読者の方自身のツールにはならないと思います。
「商店街の入り口出口理論」というのを知っていますか? 広告代理店の方に聞いたのですが、大阪のおばちゃんが商店街に買い物にいくと、1軒目のお店で「昨日うちの娘がこういうことがあって~」と話し始めるんですね。
最初に豆腐屋で話して、次の八百屋でまた話して、その次の肉屋でも話して……とやっていくうちに、商店街の出口にいくころには、すっかり面白い話に仕上がっている(笑)。
今回の本のツールも同じです。「なんで今日のランチはサラダだけなの? もしかして、それって印象管理してるの??」みたいに、とりあえず使ってみるのがいいんです。「印象管理っていうのはね……」とそのまま解説までしてしまう。
Teaching is learning.……まあ確実に面倒でうざい人になってしまうわけですが(笑)、口に出して語ることで、ことばが血となり肉となる瞬間があるはずです。
そもそも、我々は「ことば」を使いこなして説得する側だけでなくて、説得される立場でもあるわけです。人のふるまいを見て、どのように自分が説得されそうになっているのかを翻って見る力が手に入れば、賢い消費者にもなれるはず、なのです。
もちろん騙される楽しみもあります。そういう「騙されるのが楽しいのだ」と、自己正当化している自分も眺められる(笑)。
日々のちょっとしたこと、生きている瞬間ごとに、本書で挙げている53のツールのどれかが表れているはずなのです。ぜひ読んでみて、職場でもご家庭でも話題にしてください。
(本文イラスト:田渕正敏)
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