文庫 - 随筆・エッセイ
おいしい記憶が詰まったツレヅレハナコさんの初エッセイ&初文庫! 『食いしん坊な台所』はじめに 公開中
ツレヅレハナコ
2019.09.11
『食いしん坊な台所』
ツレヅレハナコ
人気フード編集者の台所愛に満ち溢れた初エッセイ! 文庫化を記念して、「はじめに」を公開します。ぜひお読みください。
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はじめに
わたしの台所に来た人は、たいてい周囲をぐるりと見まわしてこう言います。
「こんなに必要なの?」
うーん。正直に言えば、全然必要ではない。
十五本の木べらも、二十枚のバットも、六枚のフライパンも、百枚以上の皿も、二人暮らしのわが家がフルで使うことなどありません。
それでも置いておきたい。なぜなら、これらの台所道具が大好きだから!
わたしはレシピ記事をつくる雑誌編集者を経て、いまでは自分が食まわりの本を書いたりする身。だからおそらく平均よりは台所愛が深いのだと思う。家にいる時間の大半は台所にいるし、買い物をするのも台所回りのものばかり。おそらく洋服やメイク道具への関心の数倍は、台所道具ラブ!
わたしが手にするものに共通しているのは「使っていると楽しい道具」であること。それは、機能的であることへの喜びだったり、使う手間はかかるけど心が豊かになる時間だったり、名もなき海外の道具が持つ無骨さへの感動だったりします。これこそ、愛のない道具には宿らない楽しみであり、好きな台所道具に囲まれる最大の幸せ。
お気に入りの鉄フライパンで卵を焼きながらフォルムの美しさにうっとりするのは日常茶飯事だし、バウルーのサンドイッチトースターを開けてこんがり焼き目がついたホットサンドを取り出すワクワクは学生のときから変わらない。せいろから勢いよく出る湯気を浴びれば、些細な悩みは飛んでいく気さえします。タイで買ったベコベコのアルミ鍋を使えば屋台の激うま煮込みを思い出してよだれが出るし、モロッコのド派手な柄のお皿に料理を盛りながら「そろそろ旅に出たいな」と思う。そんなひとつひとつの衝動は、その道具と結びついた自分だけに与えられた特典のようなものなのかもしれません。
この本では、わたしの台所と台所道具についてご紹介していきます。でも、けして「ウズベキスタンにお皿を買いにいきましょう」という案内ではありません。わたしの台所道具との付き合い方、楽しみ方をお伝えするとともに、きっとあなたの生活を楽しくしてくれる道具たちがどこかに待っている、そんなことがお伝えできればうれしいです。
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本編は本書にて
『食いしん坊な台所』ツレヅレハナコ
河出文庫●2019年9月発売
私の人生は、おいしい記憶と結びついている――人気フード編集者の著者が、一番大切な自分の居場所である台所と、料理道具などについて語った、台所愛に満ち溢れた初エッセイ、待望の文庫化。