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座談会「12年経った今だからこそ、消化できたものがある」 坂元裕二『それでも、生きてゆく』刊行記念 巻末座談会公開!(抜粋・後編)

2023年5月、映画「怪物」(監督・是枝裕和)で第76回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞、11月に配信開始となったNetflix映画「クレイジークルーズ」が話題の脚本家・坂元裕二さん。

かつて坂元さんが「特別」なキャスト、スタッフと作り上げ、「愛着がある」作品と振り返る「それでも、生きてゆく」(2011年、フジテレビ)は、永山瑛太さん演じる7歳の妹を殺された兄・深見洋貴と、満島ひかりさん演じるその少女を殺害した文哉の妹・遠山(三崎)双葉が、事件から15年後に出会い、次第に惹かれあっていく姿を中心に展開する連続ドラマ。放送から12年経った今も視聴者の記憶に残り続ける傑作です。

 

本作のシナリオブック『それでも、生きてゆく』の発売を記念して、坂元裕二さん、プロデューサー・石井浩二さん、演出・永山耕三さん、主演の永山瑛太さん、満島ひかりさんが12年ぶりに集結し、特別座談会が実現しました(司会・上田智子さん)。

 

被害者遺族と加害者家族という難しいテーマを扱いながらも、自身の中ではラブストーリーとして描いたつもりという坂元さん。さらに、本作が放送から12年経った今でも多くの視聴者に愛されている理由に迫った座談会より、一部抜粋、再編集してお届けします。(座談会前編はコチラ

 

ドラマの寿命

上田智子(以降、上田):結末をイメージせずに書いていくうちに、「あれ、こんな風になっちゃった」とご自分でも驚かれたことはありましたか?

 

坂元裕二(以降、坂元):全部そうだったんですよ、だから愛着があるんだと思うんですけど。「それでも、生きてゆく」(以降、「それでも」)は僕の中では完全にラブストーリーとして残ってるんですけど、書き始める前は、企画の成り立ちとなった永山耕三さんから最初に聞いたコンセプト──少年Aによる殺人事件の人間模様を中心としたサスペンスをイメージしてたんですよね。

それとは全く違うものになったし。もちろんサスペンス要素もたくさんあるんですけど、それよりも洋貴(妹の亜季を殺された兄・演=永山瑛太)と双葉(亜季を殺した文哉の妹・演=満島ひかり)の他愛もないやり取り──みかんの落書きとか、そんなことばかりを思い返すんです。みなさんと一緒に作り上げた結果、そうなっていったんだなと思いますね。

 

上田:坂元さんはラブストーリーだとおっしゃっていますが、永山瑛太さん、満島ひかりさんはいかがですか?

 

永山瑛太(以降、瑛太):ラブストーリー……どうだろう。客観性というか、この作品をジャンル分けできない部分は、12年経った今でもあるんですよね。僕は洋貴という人間で、洋貴が見えているもの・感じるところだけで動いていたので。

でも、確かにラブストーリーといえばラブストーリーだったかな。

例えば待ち時間でも、双葉に対してどう話しかけたらいいんだろうって洋貴としてずっと考えていた。みなさんのお話を聞いたり、思い返してみると、ラブストーリーでもいいんじゃないかという気もしてきました。

 

坂元:もちろん、いろんな面があるんですけどね。

 

満島ひかり(以降、満島):誰かを想うって気持ちが、大切に、小さなことをこぼさないように描かれていたし、私たちもその壊れてしまいそうにパンパンな想いとかを、たまに行き場がなくなることも含めて大事にしてた気がします。

たかが一つの作品かもしれないけれど、一生のうちに何度も出会えないものだったなって私は思うし、今でも「それでも」のことを考えると胸が熱くなるし、究極のラブストーリーな感じもしますけどね。

坂元さんの脚本作品に何度か出演しているけど、「それでも」を好きな方の感じは、愛がものすごく深いし。

 

上田:街中で声をかけられて、泣かれてしまうぐらいですものね。

 

満島:そうなんです。

 

永山耕三(以降、永山):あのね、最近になってわかったんだけど、テレビの連ドラって寿命が30年なのよ。

それは、放送した時に生まれてなかった人が大人になってから見てみたらどう思うかっていうこと。30年経つと、ドラマはさすがに古く感じると思うんだよね。

例えば、「東京ラブストーリー」(1991年、フジテレビ)が放送から32年経つんですけど、今見ると、機材もアナログだし、セットもベコベコだなって気になるのと、コンプライアンス的にも「どこでもタバコ吸うんだな」「酔っ払い運転してる!」みたいな話が出ちゃうんですよね。本筋と関係ないところで笑っちゃって。

それでも、最後に面白かったねって言ってもらえるとまだ生きている作品だ、となるわけ。

 

一同:うん。

 

永山:その意味で言うと、今から20年後、「それでも」の放送当時生まれてなかった人が見たとしたも、この作品は絶対、一番通用すると思うのね。

「それでも」の寿命、50年はあると思う。……そう言っておきながら、私はおっかなくて見返せないけどね。宮本理江子さんの演出回とかだったら素晴らしいと思って見られるんだけど、自分の担当回はおっかなくて……。

 

石井浩二(以降、石井):僕もDVDは見返してないんですよ。

でもこの前、この座談会もあるしちょっとだけでも見ておこうと思ってFODの配信で久々に第1話を見たら、そのまま徹夜で全部見ちゃいました。

 

一同:へえ!

 

石井:続きが気になって(笑)。それで最後の二人の姿に感動して泣いてしまいました。

 

永山:おっかなくないんだ。

 

石井:そうなんです、それまでは怖さがあったんですよ、だからDVDも見なかったんですけど。でも見返したら、やっぱりいいなと思いました。

 

上田:満島さんは見返したりされますか。

 

満島:どうだったかな。「それでも」はどうやって見たらいいかドキドキしちゃうから。現場での永山さんの姿とかは覚えてるけど。

 

永山:だからさ、あと20年したら。

 

満島:あと20年、ですね。

 

 

みんなに愛されているドラマ

上田:被害者遺族と加害者家族を扱いながらラブストーリーでもあり、さらに少年Aの再犯までを描くという本当に難しい題材のドラマだったと思うのですが、最終回までを振り返って、最後に制作チームのみなさん、いかがですか?

 

永山:本当に真面目に作らなきゃいけないという思いでやってましたね。その一番の理由は、坂元さんがこの作品に取り掛かる時に「本当にヒリヒリするものが作りたいんだ」と言ったことなんです。ほわほわじゃなくてヒリヒリするもの。その思いに我々制作サイドは最初から乗ってるわけです。

会社側は「そこまでヒリヒリするものじゃなくても……」というニュアンスがどこかにあったんだけど、結局、最後までヒリヒリの方向で攻めきった。

12年経って思うんだけど、こんなヒリヒリするものを作ることなんて多分もうないと思うから、それをやりきった気持ち良さがあります。

いろんなセリフがあったけど、洋貴と双葉に関してだと、最終回で二人がハグをするシーンの終わりに双葉が言う「あと、足踏んでます」。過去にも未来にもいろんなものを抱えた二人の思いがどんどん溢れていくあのシーンで、「足踏んでます」っていうセリフを書くのはすごい!

 

満島:確かに! すごい。

 

上田:石井さんはいかがですか?

 

石井:まだ企画を通す前、「わかりやすいハッピーエンドにしなくてもいいので、ちょっとでも明るい未来の兆しが見えるところで終わるということさえ約束していただければ、僕は全力でこの企画を通します」と坂元さんにお話ししたことを覚えています。

映画だったらバンと突き放して終わってもいいと思うんです。例えば第10話で、双葉がお兄ちゃんを警察署の前で蹴って殴るシーンでスパンと終わってもいいんですけど、テレビドラマはテレビを点(つ)けさえすれば見られるしたくさんの視聴者を相手にしているメディアなので、ラストには明るい兆しが欲しいとお願いしました。

そして坂元さんは見事に最後まで書いてくださった。最終回の初稿を読んだ時に、本当に素晴らしいラストだなと思いました。

「それでも」を見て救われた方はたくさんいると思うんです。だから満島さんを見ると泣いちゃうという方が多くなるんでしょうけれど。

このドラマはヒリヒリしてはいたけど、突き放して絶望で終わるのではなく、見た人がタイトル通り「やっぱり生きていこうかな」と思えたドラマなんじゃないかなと。

あと、映画でも同様のテーマを扱うことはありますけれど、映画は大体2時間くらいの尺なので、その長さでは被害者遺族か加害者家族かどちらかしか描けないと思うんですよ。でも、テレビドラマは1時間×11話の長尺です。だからこそ坂元さんは、被害者遺族・加害者家族両方に寄り添って11話かけて書いてくださった。

一つの作品で両方をちゃんと丁寧に描けてよかったですし、プロデューサーとして本当にいい作品に恵まれたと心から思ってます。

 

上田:坂元さんはいかがですか?

 

坂元:例えば、テレビドラマの歴史の中では「それでも」って小さめだと思うんです。でも、直接お会いした人に「それでも」が好きなんですって言ってくださる方がとてもたくさんいて。僕も満島さんみたいに、話をしながら泣いてしまう方にもたくさんお会いしてきたし、そうやって直接会った人がこの作品の話をしてくれることがやっぱりすごく嬉しいことだし。

「それでも」ってヒットしたわけではないし、どこかで強く語られ続けているという様子でもないんだけど、大切に思ってくれてる人がたくさんいて、僕に伝えてくれる感じがすごく嬉しい。

それと、重い側面があるお話なのに、「あのドラマが好きなんです」という方はとても前向きにおっしゃってる感じがするんですよね。さっき満島さんが言っていたように、こういう題材なのに不思議とポップなところがあって、それがこの作品を愛(いと)おしいとか好きだと思ってもらえる要因なのかなと思います。

僕は他にも重いテーマの作品を書いてますけど、それとはちょっと違うんですよ、好きだと言ってくださるみなさんの感じが。愛してもらってるんですよね。それがすごく嬉しい。

やっぱり、緊張しながら、追い詰められながら、毎週毎週そのままやったら2時間を超える脚本を書いてたから(笑)。

 

一同:(笑)

 

坂元:心を込めて書いたらちゃんと誰かに届くんだなって思うんですよね。

(2023年10月5日収録)

 

『それでも、生きてゆく』
ディレクターズカット完全版
DVD-BOX: ¥25,080 (税込)
発売元: フジテレビジョン
販売元: ポニーキャニオン
(C)2012フジテレビ

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著者

坂元 裕二(さかもと・ゆうじ)

1967年、大阪府出身。脚本家。

フジテレビ系「東京ラブストーリー」「わたしたちの教科書」(第26回向田邦子賞)「それでも、生きてゆく」(芸術選奨新人賞)「最高の離婚」(日本民間放送連盟賞最優秀)「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」、日本テレビ系「Mother」(第19回橋田賞)、「Woman」(日本民間放送連盟賞最優秀)「anone」「初恋の悪魔」、TBS系「カルテット」(芸術選奨文部科学大臣賞)など、数多くのドラマ作品を手がける。2023年、映画「怪物」(監督・是枝裕和)の脚本で第76回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。ドラマ、映画のほか、朗読劇や舞台脚本などでも活躍。

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