ためし読み - 新書

私たちはどこへ向かうべきか? 現実を動かすための哲学対談。竹田青嗣/苫野一徳『伝授! 哲学の極意』

いま、私たちは、かつて経験したことのない問題に日々、直面しています。そのような、一見こたえの見えない問いに対して、「誰が考えてもそう考えるしかない」こたえを探しだす思考が、「哲学」です。
現代を代表する哲学者の師弟である竹田青嗣さんと苫野一徳さんが、紀元6世紀から現在にいたるまでリレーされてきた哲学の歴史を振り返りながら、「本質から考える技術」を伝授する本書。著者のお一人である苫野一徳さんによる「はじめに」をお読みください。

 

==「はじめに」ためし読みはこちらから==

伝授! 哲学の極意
竹田青嗣/苫野一徳

 

 

 

 哲学は思考のアートである。

 

 いまから三十年以上も前に、竹田青嗣先生が『自分を知るための哲学入門』(筑摩書房、現在はちくま学芸文庫)に書いた言葉です。

 本書は、このアート(技法)の中でも、特に哲学の”極意”とでもいうべきものを、二人の対話を通して読者のみなさんにお伝えするものです。

 もっとも、この”極意”については、竹田先生も私(苫野)も、それぞれの著作において、これまで存分に論じてきました。

 にもかかわらず、なぜ今回、二人の対談本を作ることにしたのか?

 それは、この二人の対談を通してでなければ、きっとできないこと、伝えられないことがあると考えたからです。

 哲学は”思考の原理”であるということ。そしてまた、その原理のバトンをつなぐ“思考のリレー”であるということ。

 本書で私たちは、このことをできるだけ明快に示したいと思っています。師弟対談という、まさに”思考のリレー”の実例を通して。

 竹田先生が、過去の偉大な哲学者たちから受け継いだバトンは、不肖の弟子の私を含め、次世代の多くの人たちに送られてきました。

 そのバトンを、さらに多くの人へとつないでいきたい。特に若い読者のみなさんに、本書を通して、山積する世界の課題を解決するための思考の方法を手に入れていただきたい。そんな思いが、私たちに本書を書かせることになりました。

 終わらない戦争、テロ、パンデミック、金融危機、経済格差……。現代社会の問題を挙げればきりがありません。地球環境問題はいうまでもなく、A I 技術やゲノムテクノロジーなどの進化がもたらすであろう未知の世界をめぐっては、時に人類存亡の危機さえ叫ばれるほどの騒がれようです。

 一〇〇年後にふり返ってみれば、これらの問題のいくつかは、ただの空騒ぎだったといわれておしまいの可能性もあります。しかしそれでも、現代を生きる私たちの多くは、いま、何か新しいことが進行中であることを感じ取っているはずです。人類がかつて経験したことのないような転換点に、私たちはひょっとしたら立っているのではないか。そんな感覚を、多くの人がもっているのではないかと思います。

 そんな時代にあって、私たちはこれから、一体どこへ向かうべきなのか?

 哲学は、こうした問いに正面から挑むものです。

「私たちはどこから来て、どこへ行くのか?」

 多くの科学者たちが、これまでこの問いを問うてきました。それは哲学者たちも同様です。しかし哲学は、この問いに加えて、私たちはどこへ行くべきなのかを考えます。どのような社会、世界を、私たちはめざしていくべきなのか? そのための思考の方法を、哲学は長い歴史を通して鍛え抜いてきたのです。

 哲学は”思考の原理”であるといいました。ここでいう”原理”とは、むろん、絶対に正しいこととか、真理とかいったものではありません。できるだけ誰もが納得できる、考え抜かれたものの”考え方”のこと。それが哲学の”原理”です。

 竹田先生は、主著『欲望論』(講談社)の中で、哲学二五〇〇年の歴史を総覧し、そのような原理のリレーを克明に描き出しました。そして、そのリレーの先端で、いま哲学がどんなデッドロックに行き当たってしまっているのか、また、どうすればそれを乗り越えていくことができるかについて、明らかにしました。

 この仕事を通して、竹田青嗣は、哲学のリレーを一番先頭で走る哲学者になった。私はそう考えているのですが、それはむろん、後世の人たちが判断することです。『欲望論』は現在、英訳プロジェクトが進行中です。大著のために、完成までにはまだ少し時間がかかりそうですが、世界の人々にちゃんと読まれるようになれば、右のことはきっと理解されるに違いないと私は確信しています。

 とまれ、この長い思考のリレーにおいて、人類は、どのような考え方が優れた原理的なもので、その反対に、どのような思考が、どこにも行きつかない悪手であるかといったことを、確実につかみ取ってきました。

 でも残念ながら、そのことは一般にほとんど知られていません。せっかく哲学者たちが、数々の失敗や成功を繰り返しながら原理的な思考を鍛えてきたのに、その成果は、十分に共有されているとはいいがたいのです。

 そこで本書では、竹田先生から私へと伝授された哲学の”極意”を、さらに読者のみなさんへとお届けしたいと考えています。またその過程で、私自身がそれらの”極意”をどう受け取り、またどう発展させようとしているかということについても、お話しできればと考えています。

 哲学の歴史は、弟子が師匠をボコボコにする歴史でもありました。そうやって、時代を重ねるごとに、哲学者たちは”原理”をさらに深いところへと押し進めてきたのです。

 竹田青嗣が積み上げてきた”原理”は、そう簡単にボコボコにすることはできないほど鍛えられたものです。でも少なくとも、もっとよいものへと、あるいは、もっと実践的に役に立つものへと発展させることは可能なはずです。

 私自身は、哲学者であると同時に教育学者として、竹田先生から受け継いだ思考の原理や方法を、教育の構想や実践へと展開する仕事もしてきました。

 教育は、きわめて泥臭い実践の世界です。信念や主義主張、時にほとんど趣味の次元での対立が渦巻く世界です。そんな泥臭い実践の世界においてこそ、”原理”の学である哲学の意義は際立ちます。教育とは何か? これからどうあるべきか? そのできるだけ誰もが納得できる原理を探究することこそが、哲学の役割だからです。

 むろん、哲学がいっそう展開されるべきは、教育の世界だけではありません。いま哲学に最も求められているのは、未来世界の、とりわけ、資本主義や民主主義の未来についてのビジョンを描き出すことです。

 二十一世紀、そして二十二世紀に向けて、哲学には何ができるか? 何をするべきなのか? その展望についてもまた、本書では大いに論じ合っていきたいと思います。

 

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続きは単行本伝授! 哲学の極意』にてお楽しみください

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著者

竹田 青嗣(たけだ・せいじ)

1947年大阪府生まれ。哲学者。早稲田大学名誉教授。著書に『哲学とは何か』『欲望論(全2巻)』『超解読!はじめてのフッサール『現象学の理念』』『自分を知るための哲学入門』『現象学入門』など多数。

苫野 一徳(とまの・いっとく)

1980年生まれ。専門は哲学、教育学。熊本大学教育学部准教授。著書に『教育の力』(講談社現代新書)『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)『勉強するのは何のため?』(日本評論社)他多数。

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