ためし読み - ビジネス
これまで給料に反映されなかった能力「人の気持ちに敏感」な人を入れたチームが最も成功──! マサチューセッツ工科大学のトマス・マローンらの実験
恩蔵絢子
2026.03.16
注目の脳科学者・恩蔵絢子さんの最新刊『感情労働の未来──脳はなぜ他者の“見えない心”を推しはかるのか?』が、メディアやSNSで話題になっています。
「感情労働は必ずしも悪いものではなく、自分も他人ももっと幸福にする感情の動かし方がある」と言う恩蔵さん。
“自意識と感情” を専門とする脳科学者が、現代の「感情労働」に迫った本書に対して、「これまで読んだ本のなかでも、ダントツよかった」「感情について、全く違う見方ができる」「今なぜ自分が息苦しさやもやもやを抱えているのかが、見えてくる」「脳科学の本ですが、感動しました。何度でも読み返したい」など、次々に感想が寄せられています。
大ヒットを記念して、本書より「3 脳はどのようにして人の心を理解するのか?」の一部を公開いたします。

『感情労働の未来──脳はなぜ他者の”見えない心”を推しはかるのか?』
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感情労働の能力が高い人がいるチームは、成果をあげる
私たちは実は、たった一人で能力を発揮しているとは限らない。高校や、大学までは、「偏差値」などが重要視され、個人が発揮するパフォーマンスが競われるが、社会に出ると、大勢 のさまざまな役割の人が関わって一緒に、例えば、どんな商品が出せるかと企業と企業で競われることになる。個人の能力ではなく、集団としての能力が大事になってくるのである。
一般的には、集団的知性といえば「3人よれば文殊の知恵」「群衆の知恵」というように、正解を知らない人たちが集まって、その人たちの言うことの平均を取ると、専門家の答えと同じになったり、良い解決法が見つかったりする、だとか、多くの人が集まると一人ひとりの足し合わせよりももっと強大な力になる、と言われてきた。ただ大勢集まるという数だけが問題なら、集団的知性に感情はいらないように見える。
集団的知性には個人の知性の足し合わせでは説明できない要因があるということが次のような研究で明らかになってきた。
たとえば数学ができる人は国語もできるが、社会では──
個人の知性を測るものさしについては、1904年イギリスの心理学者チャールズ・スピアマンが、一つの課題に優れている人は、意外なことに別の課題でも優れており、一見無関係に見える課題の成績が相関する(例えば数学ができる人は国語もできる)ことを発見した(*31)。この発見により、どんな課題をやらせても対応できる、どんな能力にも共通な要因、すなわち地頭の良さという意味の「汎用的知性( general intelligence )」があると考えられ、それが定量化されることになった。IQ(知能指数)である。実際IQが高い子どもは、その後中学校・高校と学年を上がっていっても、学術面ではある程度の成功をおさめることが多いと示されている(*32)。しかし、個人に限った話ではそのようにIQで成功がある程度までは予測できるとして、社会の中で、人と人とが協力して何かを作るという場合、その集団としての成果は何が決定しているのか。このような動機を持って、マサチューセッツ工科大学のトマス・マローンらは、視覚的なパズルを解く、ブレインストーミングをする、道徳的な判断を行う、限られた資源の分配について交渉するなどの多様な課題を用意し、チームごとにやらせて、どんなチームが一番安定して、成績が良くなるかを調べた(*33) 。
最初に想定されたのは、(1) さまざまなことに対応できる知性を持つ、すなわちIQの高い個人がチーム内に一人でもいれば、そのチームの成績は良くなるだろう、あるいは、 (2) チームにいる人たちみんなの知性、すなわち平均IQが高ければ、そのチームの成績は良くなるだろうという可能性だった。「地頭がいい人はなんでもできる」「だからどの課題をやるにしてもそういう人がいるチームのほうが有利」だとか、「全員地頭がいいのならば、チームとしてだって当然うまくいくだろう」というように、私たちは集団にも個人の論理を当てはめてしまうものである。
しかし実際には、(1)の個人の最高IQも、(2)の平均IQも、チームとしての成績には関係がなかった。チームとしてさまざまな課題に対して高い成果を出すために、一番関係があったのは、そのチーム内に、人の気持ちにどれだけ敏感かという「社会的感受性」が高い人がいるかどうかだった。
この研究では、社会的感受性を測るのにイギリスの発達心理学者サイモン・バロン・コーエンの開発した、目元の写真だけを見てその人がどんな感情を抱いているかを当てるテスト「目から心を読むテスト(*34)( RME: Reading the Mind in the Eyes Test )」が用いられた。すなわち、チーム内に、目の表情、必ずしも言葉にしない気持ちについて察知する能力が高い人がいると、そのチームの成績は良くなっていたのである。
その他にも、チーム内の会話のやりとりが詳細に調べられた。いつも特定の人だけがしゃべっているのではなく、全員に均等に発言の機会が与えられているようなチームは、成績が良かった。
そして、女性の数が多いチームほど成績が良くなっていた。女性は、平均的に見ると男性よりも共感能力が高いと言われている(*35)。つまり女性がいることでチームの成績が上がるのは、やはり社会的感受性が要因だと推測された。
男性女性はさておいて、チームメンバーに気を配り、一人ひとりが力を発揮できるように、やりにくそうにしている人がいたら声をかける。そんな存在こそ、チームとしての成績を上げる本当の要因になっていたということだ。感情面の努力が大事なのである。一人ひとりは別の個性を持っているのだから、それぞれの力が最大限に発揮されるのが一番良く、それぞれの人が力を発揮できる気持ちの良い場を作れることもまた、大事な才能なのだ。そしてIQという指標には、そのような能力は反映されていない。さらにこのような感情の働かせ方は、会社で言えば、その人のおかげで成果が上がるのにもかかわらず、給料には反映されてこなかった能力であろう。
31 Spearman, C. (1904) ‘General intelligence,’ objectively determined and measured. The American Journal of Psychology, 15, 201-293.
32 Fagan, J. F., Holland, C. R., & Wheeler, K. (2007) e prediction, from infancy, of adult IQ and achievement. Intelligence, 35, 225-231.
33 Woolley, A.W., Chabris, C. F., Pentland, A., Hashmi, N., & Malone, T.W. (2010) Evidence for a collective intelligence factor in the performance of human groups. Science, 330, 686-688.
34 Baron-Cohen, S., Wheelwright, S., Hill, J., Raste, Y., & Plumb, I. (2001) e “Reading the mind in the eyes” Test revised version: A studywith normal adults, and adults with Asperger syndrome or high-functioning autism. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 42, 241-251.
35 Singer, T., Seymour, B., O’Doherty, J. P., Stephan, K. E., Dolan, R. J., & Frith, C. D. (2006) Empathic neural responses are modulated by theperceived fairness of others. Nature, 439, 466-469.
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