ためし読み - 日本文学

157編全724ページ、原稿用紙1300枚分の鈍器本!! 32年分の原稿が詰め込まれた『阿部和重覚書』より、「序」無料公開

157編全724ページ、原稿用紙1300枚分の鈍器本!! 32年分の原稿が詰め込まれた『阿部和重覚書』より、「序」無料公開

 1994年「アメリカの夜」での作家デビュー以来、『シンセミア』(伊藤整文学賞・毎日出版文化賞)、『グランド・フィナーレ』(芥川龍之介賞)、『ピストルズ』(谷崎潤一郎賞)、『キャプテンサンダーボルト』(伊坂幸太郎との共著)、『オーガ(二)ズム』など、現代日本文学史上の金字塔的問題作を発表し続ける作家・阿部和重。

 デビューから32年にわたりあらゆる媒体で書かれたエッセイ・評論・日記etc. 157篇を1冊に集成した阿部和重覚書 1990年代-2020年代が、3月27日ついに発売!

 蓮實重彦、中上健次、ゴダール、あだち充、松浦亜弥、ヤンキー、ゾンビ……。

 あらゆる角度から真実の歪みを凝視し、警鐘を鳴らしつづけてきた作家による【質・量ともに超ド級】全724ページの発売を記念して、本書書き下ろしの「序」を無料公開いたします。

 

阿部和重覚書 1990年代-2020年代
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阿部和重

 

 タイトルが告げているとおり、本書は阿部和重なる氏名を有する個体が「1990年代-2020年代」に記した種々の文章を寄せあつめて一冊にまとめた書籍である——そしてその、阿部和重なる氏名を有する個体とは、本稿執筆者たるこのわたくし自身を指してもいる。

 内訳としては映画時評・作品論、漫画時評・作品論、文芸批評・作品論、自著解説・序跋類、追悼文、時事的随想、身辺雑記・回顧文、等々が収録されていることから、これは随筆集に分類される書物だと言えるが、ならばタイトルに批評でも随想でもなく「覚書」が選ばれたのはなぜなのか。

 それはすでに(ロベール・ブレッソンの著書『シネマトグラフ覚書——映画監督のノート』をまるごと真似た)『映画覚書vol.­ 1』なる自著があり、「映画覚書vol. 2」なる時評が現在『週刊文春CINEMA』にて連載中でもあり、さらには「音楽/映画覚書」なる映画コラム(本書所収)をウェブマガジン「ARBAN」で連載した過去などもあるため、阿部和重なる署名の確認できる批評・評論系の単著としての統一感ないしは連続性のニュアンスをこめたかった、というのがその理由にほかならない。

 阿部和重なる氏名を有する個体が新人文学賞を受賞し小説の第一作を世に問うたのは一九九四年五月だが、生年月日は一九六八年九月二三日だからデビュー当時の年齢は二五歳だったことになる。そして本稿執筆時点たる現在の日付は二〇二六年一月一一日ゆえ、当の個体は五七歳になっている。

 すなわち「1990年代‐2020年代」とは、阿部和重なる氏名を有する個体の寄稿歴にそのままあてはまり、同個体が二五歳から五七歳にわたる三二年間に記した種々の散文を網羅的に編集したのが本書のなりたちなのである。

 これはいささか異例なことではあるのかもしれない。というのも、ひとりの人間が三〇年超のさまざまな機会にめぐらせた思考の記録が一冊の本として刊行されることは、全集などをのぞけば近年ではめずらしい事実ではないかと思われるからだ。

 そのうえ本書は小説を本業とする個体が二五歳から五七歳のあいだに書きためた批評等々諸散文の単行本未収録分を書籍化したものだが、結果的に四〇〇字詰め原稿用紙にして一三〇〇枚もの分量に達してしまった——付言すれば、阿部和重なる署名の確認できる一〇〇〇枚超の書籍は本書で五冊目となり、六冊目も一年後くらいには生まれそうな状況にあるが、それは同業者のなかで少ないほうとは見なされまい。ふつうは分冊か原稿のセレクトという緊縮的措置・・・・・がとられるはずだが、われわれはつめこむだけつめこんだ一巻本を出すという不経済でむちゃな選択をしてしまった——本稿執筆中たる今でも、ほんとうに大丈夫なの? という気持ちがぬぐえずにいるのが正直なところだ。

 それゆえ著者としては、あえてこの場で二、三の読み方を提案するという禁じ手みたいな方策に打ってでて、当の不経済でむちゃな選択はじつは有意義な手段だったのだと読み手に錯覚させたい誘惑に駆られる。たとえば一個の主観を通してたどる三二年間の(世紀をまたぐ)同時代史として有用とか、阿部和重なる個体が二五歳から五七歳にいたるあいだに示した散文的エージングの定点観測とか、そんなぜんたいをつらぬく一本のストーリーをあらかじめさしだしておけば、一三〇〇枚もの原稿群を読みとおすうえでのガイドラインとなってどことなくフレンドリーな本に映り、不経済でむちゃな印象もいくらか薄らぐのではないかと願ったりもしている。

 そうだとしても、ひとつの個体が二五歳から五七歳までに書きためた原稿群に読者がなにを感じとるかは、執筆主体たる本人としてははかりしれない。長期間いろんな分野について記した文章があつまった割には案外と一貫性があるなと執筆主体たる本人は思ってしまったが、他人がまったく異なる感想を持ったとしても意外ではない。

 いろいろな分野をあつかったとはいえ、明確な傾向がいくつか認められることも本書の特徴として否定できない。追悼文が多いのも一傾向だが、むろんそれは偶然の産物だ——これほど何度も集中的に哀悼の意をつづらねばならなかったのはまことに不本意ななりゆきであり、そういう年齢をむかえたのだと理解はしつつも感情は追いつかないという経験をこの一〇年ほどのあいだかさねている。

 必然の結果もある。本書が最も言及し参照しているのは蓮實重彥の名とその著作だと思われるが、直接に触れている以外にも巨大な存在の明白なる影と響きが随所に見てとれるはずだ。それどころかこの本がはじめから終わりまで蓮實重彥論として読まれることへの期待もわたくしは隠さないが、しかしそんな著者自身の望みなど読者がいっさい無視するのも当然と受けとめる準備もできている。

 河出書房新社編集第二部の竹花進氏への感謝を述べて本稿を終わりたいと思う。つめこむだけつめこんだ一巻本を出すという不経済でむちゃな選択の共謀者だが、当初の希望をはるかにうわまわるかたちで企画を実現できたのは彼のおかげである。

 

 

 

『阿部和重覚書』 目次

創作について

誤謬と類似
映画と小説の狭間で
世界は愛を求めている
Are You Lonesome Tonight?
After Hours
作者の言葉
連載小説「ブラック・チェンバー・ミュージック」を終えて
Wonderful World

現代映画と疑似ドキュメンタリー問題

語りという媒介経路——アルノー・デプレシャン『そして僕は恋をする』
「ドキュメンタリー的」な仮構という「流行」
日本映画における「擬似ドキュメンタリー的」スタイルの行く末
ヨーロッパの極北、または「妥協せざる人々」——ジャン゠マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレ
「映画」と「私」と「リアリティー」の「現在」
アメリカ映画、ヴェンダース、ゴダール
真実へ向けて——『トゥルーマン・ショー』とテレビドラマについて

大江健三郎

( I Can’t Get No) Satisfaction——大江健三郎追悼
Across The Universe——大江健三郎追悼

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか——あだち充1

あだち充の宇宙
あだち充における無人の風景1

蓮實重彥

われわれのジェネレーションにとって極めて困難な時期
正体不明の「怪物」のためのデクパージュ——蓮實重彥『映画時評2009‐2011』論
Sign ‘O’ the Times——『伯爵夫人』を読む
蓮實重彥著『ジョン・フォード論』

中上健次

流血と清流——そして/あるいは失禁という「奇蹟」

大西巨人

『神聖喜劇』解説
明確性と論理性を求めて——大西巨人追悼
大西巨人追悼——あるいはパンフォーカス的記述の意義
『地獄変相奏鳴曲 第四楽章』解説

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか——『頭文字イニシャルD』

『頭文字D』、または単調なくりかえしの彼方に
頭文字イニシャルD』、または予告されたバトルの記録
頭文字イニシャルD』、または永劫回帰としての車輪

北野武

『ソナチネ』と『キッズ・リターン』——回転する二つの車輪
「HANA」と「BI」の間に何があるのか——北野武『HANA-BI』

ヴェンダース

「旅」の映画、あるいは「失われた」時間と距離
「距離と時間」の消失——『夢の涯てまでも』の「可能性」について
メディアと「暴力」——ヴィム・ヴェンダース『エンド・オブ・バイオレンス』
線上の運動——『さすらい』から『ベルリン・天使の詩』へ

ゴダール

『万事快調』——メディアが砕け散るとき
ジャン゠リュック・ゴダールの「部屋」

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか——あだち充2

あだち充における無人の風景2

アイドル

現実と幻像見せる「彼方の星」——松浦亜弥コンサート
奇跡のファンタジー

アディクション

結局のところ、彼の胃痛の原因は何だったのか?
嗜虐的スローモーション
唯一の授業
かいぶつたちのいた夏
『限りなく透明に近いブルー』

DIARY

小説家52人の2009年日記リレー
創る人52人の2011年日記リレー
読書日録1
読書日録2
読書日録3
創る人52人の「激動2017」日記リレー
テロと戦時下の2022‐2023日記リレー

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか——ヤンキー

ヤンキー狩りに抗して1
ヤンキー狩りに抗して2
ヤンキー狩りに抗して3
ヤンキー狩りに抗して4
ヤンキー狩りに抗して5
ヤンキー狩りに抗して(補遺)

黒沢清

Xを乗り越えるために——黒沢清『CURE キュア』
Invisible Touch——『岸辺の旅』論

青山真治

柔軟で不屈 あまりに険しいその軌跡——青山真治さんを悼む
You Can’t Always Get What You Want——青山真治追悼
See The Sky About To Rain——青山真治追悼
Break Up To Make Up——青山真治追悼

英雄と悪漢

ヒーローの資格があるのはだれか?
魅力的な悪役ほど悪ではない

ブルース・リー

バズビー・バークレーからブルース・リーへ。
紙と模倣

アメリカ

「アメリカ合衆国中枢同時テロ事件」を巡る映像とハリウッド映画について
まことしやかな噓、トランプの時代
Turn Of The Century

ハリウッド

「リアリティー」について——ジェームズ・キャメロン『タイタニック』
アメリカ(映画)は何を望んでいるのか——ローランド・エメリッヒ『ゴジラ』
竜巻の痕跡——ハーモニー・コリン『ガンモ』
絶対的な「任務」——スティーブン・スピルバーグ『プライベート・ライアン』
殺しのライセンス——『ゾンビ』における「大量殺戮」の意味

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか——あだち充3

あだち充における「不在」1
あだち充における「不在」2
あだち充における「不在」3
あだち充における「不在」4
あだち充における「不在」5
あだち充における「不在」6
あだち充における「不在」7
あだち充における「不在」8
あだち充における「不在」9
あだち充における「不在」10

災禍

地上にひとつの場を
This Will Be Our Year
Shameless

COVID-19

Word of Mouth
Brand-New-Life

公共性

すべての若き野郎ども
すべての(かつての)若き野郎ども

音楽/映画覚書

第1回 『おしゃれキャット』
第2回 『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』
第3回 『秋日和』
第4回 『フラッシュ・ゴードン』
第5回 『クリスチーネ・F』
第6回 『ヌーヴェルヴァーグ』
第7回 『プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン』
第8回 『戦場のメリークリスマス』
第9回 『モロ・ノ・ブラジル』
第10回 『ブッシュ』
第11回 『マイ・フェア・レディ』
第12回 『ジュラシック・パーク』
第13回 『ランブルフィッシュ』

ヒッチコック

アルフレッド・ヒッチコック試論

視覚的効果

「視覚的な効果」の行方——フランシス・フォード・コッポラ『レインメーカー』
ある時代の終焉——イエジー・スコリモフスキ『出発』
扉の開閉による覚醒
終わらない夜——神代辰巳『女地獄・森は濡れた』
小津安二郎について

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか——『監獄学園プリズンスクール

監獄学園プリズンスクール』試論1
『監獄学園』試論2
『監獄学園』試論3
『監獄学園』試論4
『監獄学園』試論5
『監獄学園』試論6
『監獄学園』試論7
『監獄学園』試論8
『監獄学園』試論9
『監獄学園』試論10
『監獄学園』試論11
『監獄学園』試論12
『監獄学園』試論13
『監獄学園』試論14
『監獄学園』試論15
『監獄学園』試論16
『監獄学園』試論17
『監獄学園』試論18
『監獄学園』試論19
『監獄学園』試論20
『監獄学園』試論21
『監獄学園』試論22
『監獄学園』試論23
『監獄学園』試論24
『監獄学園』試論25
『監獄学園』試論26
『監獄学園』試論27
『監獄学園』試論28
『監獄学園』試論29
『監獄学園』試論30

後藤明生

私の好きな谷崎賞受賞作品——後藤明生『吉野太夫』
Satisfaction

谷崎潤一郎

いくつかの影と響きのこと
盲目性その可能性の中心

キアロスタミ

ケン・ローチとアッバス・キアロスタミ——閉ざされる「まなざし」と「開かれた映画」
二つの道、二つのドライブ

イーストウッド

「不吉」な世界——クリント・イーストウッド『真夜中のサバナ』
クリス・カイルはなぜ、家に帰りたがらなかったのか

ツァイミンリャン

厳密さは何を退けているのか——蔡明亮『河』
蔡明亮監督作『郊遊〈ピクニック〉』

山形

ミート・ザ・イサカコウタロウ
All Summer Long
The Kids Are Alright

 初出一覧
 索引

 

阿部和重覚書 1990年代-2020年代

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著者

阿部和重

1968年、山形県生まれ。1994年「アメリカの夜」で群像新人文学賞を受賞しデビュー。1999年『無情の世界』で野間文芸新人賞、2004年『シンセミア』で伊藤整文学賞・毎日出版文化賞、2005年『グランド・フィナーレ』で芥川龍之介賞、2010年『ピストルズ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の著書に『アメリカの夜 インディヴィジュアル・プロジェクション 阿部和重初期代表作Ⅰ』『無情の世界 ニッポニアニッポン 阿部和重初期代表作Ⅱ』『ABC〈阿部和重初期作品集〉』『ミステリアスセッティング』『クエーサーと13番目の柱』『Deluxe Edition』『映画覚書vol. 1』『キャプテンサンダーボルト』(伊坂幸太郎との共著)『Orga(ni)sm』『ブラック・チェンバー・ミュージック』『ULTIMATE EDITION』などがある。

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