ためし読み - ノンフィクション
SNS総フォロワー数150万人!! セクシー女優で人気インフルエンサー・希島あいりのちょっとエッチな自分だけの物語、本文を公開!!
原作・希島あいり / 文・高井うしお
2023.10.06
『彼女のリアル ドラマチックじゃないなんて知ってた』
原作・希島あいり / 文・高井うしお
SNS総フォロワー数150万人!!!
セクシー女優で人気インフルエンサー・希島あいりの
初恋、初体験、AVデビュー…純粋でちょっとエッチな物語。
小説・グラビア・音声ファイルでみせる初作品!!
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なんにも知らなかったわたしへ。
わたしはわたしを生きているよ
「──小説?」
わたしの体験談を聞いて、それを小説にするのだという。
出版社からそんなオファーが来て、最初はピンとこなかった。
本当にわたしの話を小説にするの?
そんな状態のまま、わたしはインタビューのために出版社の会議室を訪れた。
向かい合わせに座った編集者は、今回作りたい本は単なる官能小説にしたくない、とわたしに言った。
「日々刻々と変わる現代の恋愛と性事情を希島さんの実体験を通して浮かび上がらせたい。わたしだけじゃなかったんだ、と共感できる物語を本にしたいんです」
「でもわたし、小説なんて書いたことありません」
正直言って、わたしに書けるわけがないと思う。
編集者はわたしの不安げな表情を見て、歯を見せて笑った。
「安心してください。こちらで作家さんにも声をかけて、二人三脚で書くことになります。希島さんはご自分の体験を率直に話していただければ」
それにしても、わたしの人生を語ることになるなんて想像もしていなかった。
だって、わたしはAV女優をしているといっても、誰かパパがいたとか、たくさんセフレがいたというわけじゃない。
そういう刺激的な話を求めているんだったら、わたしじゃないほうがいい、と思った。
だけど、そういう等身大の女性としてのわたしの話を聞きたいと言われて、わたしは気持ちを決めた。
世の中には、エッチな漫画や動画が溢れている。
でもそれらは、親が生活態度に厳しく、門限があるため学校と家を往復するだけの生活だった「なんにも知らなかったわたし」には届かなかった。
この仕事をしているからというわけじゃないけど、性の知識はないよりあったほうがいいと思う。
自分を守るために、そして誰かを傷つけないために。
人間として当然備わっている本能について知らないというのは不自然じゃないかと思うの。
だから、この機会を通じて、わたしの経験や感じたことを正直にお話ししよう。
そうしたら、かつてのわたしみたいな女の子に届くかもしれない。
……なんて。考えすぎかもしれないけど。
わたしは不安と期待がないまぜになった気持ちで、ぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
机の上のレモンジュースは、いつの間にかすっかり氷がとけていた。
「それから……あの……」
時折言葉が詰まったりもしたけれど、わたしは話している最中に、自分の性を目覚めさせてくれたきっかけを思い出していた。
今のわたしを生かしている「セックス」というものの、始まり。
それは小学校高学年くらいだったと思う。
手足がひょろりと伸び出して、体が曲線を持ち出した、子供から女性への変化を始めたあの季節。
わたしは歯医者の待合室で、雑誌『an・an』を立ち読みした。
わたしが読むにはまだまだお姉さん向けのその雑誌で目に入ったのは、「セックス特集」だった。
それはその雑誌の名物特集だったのだけれど、当然その頃のわたしはそんなこと知らなかった。シンプルな白いフォントのその文字は、そっけない印象で、本当に何気なくページをめくったのだった。
女性のために書かれたセックス特集は、変にいやらしく煽ることもなく、でも赤裸々に書かれていて。
性について興味を持ち始めたわたしの、覗き見たい気持ちを満たしてくれた。
その中でわたしの目を引いたのは「オナニーの頻度」という記事。それを読んで、わたしは〝これまでにしたことがある行為〟が「オナニー」という名前だということを知った。
そのときわたしは……多分安堵したのだと思う。
厳しい親のもとで育ったわたしは、性に関する知識が同年代の人に比べて乏しかった。
ただ、子供なりの性欲というか、興味そのものは普通にあった。
今までアソコが角に触れて軽く快感を覚えたり、なんとなく触ってはモヤモヤしていたものに名前がついた。
名前がついたことでわたしは一人ではなくなったのだ。
その名前で呼ばれていると言うことはそう呼んでる誰かがいるということ。
その誰かの存在に、わたしは救われたような気がした。
──わたしの性の目覚めはそんな感じだった。
その後に、本屋で官能小説っぽいような、エッチな本をこっそり買ったのを覚えている。
恥ずかしいから普通の本の下に隠して、レジに持って行った。
やらしい感じで胸がはだけている女性の表紙。
知らない単語。
ドキドキする擬音。
ページをめくるたびに目に飛び込んでくるさまざまな文字は、わたしにとってすごく刺激的だった。
それから何冊かそれ系を買ったかな。
BLもあったと思う。
ただ、その頃わたしはどちらかというと真面目な女の子で、スカートの丈も長かったし、派手な色の服も持ってなかった。
クラスの男の子に片思いしている平凡な女の子だった。
あの頃のわたしが今のわたしの職業を知ったらびっくりするだろうな。
──わたしは今、AV女優をしています。
「……ふう」
話し終えて帰宅し、カチャンと鍵を閉めた後、なんか変な日だったなと思った。
何時間も話していたから、喉がざらついている。
肩のあたりにいつもは感じない疲労感が乗っかっている。
それと同時に、妙にすっきりとした気分でもある。
ポンとバッグを放り投げ、着ていたジャケットを椅子にかけ、ソファの上に寝転がった。
スイスイと意味もなくスマホの画面をしばらく眺めていると、ほてった頭が静まっていくのを感じる。
「あんなんでよかったのかな」
今回に限ったことではないけれど、たくさん喋った日にはいつもこんな感じ。
変じゃなかったかな? とか、ちゃんとできてたかな? とか、後からじわじわと感情が湧き出てきて、考えても仕方ないのに思い返してしまう。
今日はデビュー前のことを含めた話だったから、なおさら。
部屋の鏡の前に立つと、困った顔をした自分が見えた。
「にっ」
鏡に向かって顔面の筋肉を全部使って笑いかける。
いろいろ、昔のことを思い出したからね。
切り替えないと。
カメラがそこにあるかのように、わたしはポーズを取りながら笑顔を何パターンか作った。
──大丈夫、笑えてる。
かつては全然、笑えなかった日もあった。
でも今は笑えている。
あの頃の自分より、今の自分のほうが断然好き。
それだけの努力と決断をわたしがしてきたから。
でも根っこには、相変わらずあの女の子がいるんだろう。
モノトーンの服を着た硬い表情のあの女の子。
……昔の自分。
自己肯定感の低さはわたしが一番わかっている。
だからこれは儀式のようなもの。
「ねぇ」
鏡の中の、灰色の女の子が顔を上げる。
垢抜けない、目ばかり大きな女の子。
「あなたのことを久しぶりに思い出した」
昔のわたしは、亀のように動かない。
そうやって、押し込められた日常と飲み込めない理不尽をやりすごしていたんだよね。
「本当はキレイな色も、リボンもフリルも好きなのにね」
華美な物は禁じられていた。
だからこそ、憧れた。
ソファから立ち上がり、クローゼットの扉を開ける。
奥にしまい込んでいたワンピースを取り出した。
ピンクの花柄にフリルのついたそれを胸元にあてて、鏡を覗き込む。
「こういうやつ」
もう年齢的に着られないかなと思って、最近は着てないけど。
こういうのが欲しかった。
お化粧もしたかった。
そういう憧れは人一倍強かったように思う。
かわいい。
キレイ。
そう言われたくて、いつも飢えていた。
わたしはワンピースをクローゼットにしまった。
なんにも知らなかったわたしへ。
あの日知った「セックス」がわたしの人生を変えるよ。
今はレールに縛り付けられて窮屈だろうけど、ある日、それを全て打ち捨てて、違う道を走ることになるの。
恋もするよ。
仕事もするよ。
わたしは精一杯生きるよ。
やりたいことをやるよ。
ままならないことも、嫌なことも当然あるけれど、後悔はない。
自分が選んで、自分で決めた道だから。
なんにも知らなかったわたしへ。
わたしはわたしを生きているよ。
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続きは単行本
『彼女のリアル ドラマチックじゃないなんて知ってた』で
お読みください。
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