ためし読み - ビジネス

“5月病”が気になる今こそ読みたい、心の健康を保つための指南書! 『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』、本文試し読み増量公開中!

全世界100万部突破の大ベストセラー。

誰もが日常で経験する心理状態への対処法を具体的かつ実践的に分かりやすく解説した、
『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』

昨年2月の刊行以降、日本でも多くの方から反響をいただいております。

今、コロナは5類に移行となり、世間はいわゆる“コロナ明け”で生活習慣の急激な変化が訪れています。そして1年の中でも特に5月は季節の変わり目でもあり、気分が優れず、疲れやだるさを感じやすくなる時節です。このような時こそ本書があればご自身の心の動きを深く理解することができ、それに対応する実用的で効果的なアドバイスを本書は与えてくれるはずです。

本書は、どんな時でもすぐに診てもらえる自分専属のセラピストです。

 

昨年の刊行時には、本書の「はじめに」を試し読みとして公開しました。
https://web.kawade.co.jp/tameshiyomi/57895/

 

そして今回は、本書の本文第1章「気分が落ち込むとき」より、第1項「気分について、まず知っておきたいこと」を丸ごと特別公開します。

本書の冒頭となる第1章第1項では、まず、気分の落ち込みに向き合うための大前提を解説します。気分の浮き沈みについて理解しようとするときには、その原因は常に脳だけにあるわけではないことや、感情は、体の状態、思考、行動と密接に関わり合っていることを紹介。そして、自分で感情を変えるための第一歩として、気分の落ち込みの原因を知るための「ツール」を提示します。具体的で実践的な複数の問いに答えていくことで、自己認識力が高まり、自分の状況を何が好転させて、何が悪化させるのかに気づきやすくなります。

本書はじまりの重要なセクションであり、本書『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』ならではの分かりやすさ、実用性をご理解いただけるページです。

 

===ためし読みはこちらから↓===

一番大切なのに誰も教えてくれない
 メンタルマネジメント大全

 

 

 01 ┃ 気分について、まず知っておきたいこと

 誰にでも、気分が落ち込む日はある。
 誰にでも。
 しかし、落ち込みの頻度や程度は人によって違う。
 臨床心理士として長年働いてきてわかったのは、人は気分の落ち込みに苦しんでいながら、それを誰にも言わないということだ。友人にも家族にも、決して明かそうとしない。落ち込みを隠し、目をそらし、周囲の期待に応えようとする。そのようなことを何年も続けた末に、セラピーを受けに来る人もいる。
 彼らは、自分はどこかおかしいのではないかと感じている。そして、何もかもうまくいっているように見える人たちと自分を比べる。そう、いつも笑顔を浮かべ、元気いっぱいに見える人たちと。
 確かに世の中にはそういう幸せそうな人がいるので、そうなれない彼らは、幸せはある種の性格のようなものだと考える。幸せな性格か、そうでないか、なのだと。
 気分の落ち込みを脳の欠陥と見なす人は、それを変えることはできないと思い込み、隠そうとする。日々、するべき仕事をこなし、そうすべき相手には笑顔を見せるが、いつも気分は少々むなしく、楽しめるはずのことを楽しめない。
 ここで少し、体温について考えてみよう。今、皆さんは、暑い、寒い、あるいはちょうどいいと感じているかもしれない。暑いとか寒いとか感じるのは感染症や病気の兆候かもしれないが、その時の状況の反映にすぎない場合もある。たとえば暖かな上着を着忘れたとか、急に雨が降りだしたといったことだ。もしかすると空腹や脱水状態のせいかもしれない。また、発車しそうなバスに駆け込むと、体温は上がるだろう。このように体温は体の外と内から影響を受け、わたしたちは体温をいくらか上げたり下げたりできる。
 気分もそれと同じだ。気分の落ち込みには内外のさまざまな要因が影響しているので、その要因がわかれば、望む方向に気分を変えることができる。原因は服を一枚多く着てバスに乗るために走ったことかもしれないし、他にあるのかもしれない。
 科学的に確認され、多くの人がセラピーを通して学ぶ通り、わたしたちは自分が思う以上に、感情に影響を及ぼすことができる。
 それが意味するのは、自らの幸福感に働きかけ、情緒を健全にできるということだ。つまり気分は変えられないものではなく、自分がどんな人間かを定義するものでもなく、一時的に経験する感覚にすぎないのだ。
 だからと言って、落ち込みや憂うつな気分を容易に解消できるわけではない。人生は依然として苦難や苦痛や喪失をもたらし、それらは常に心身の健康に反映される。むしろ、それが意味するのは、ツールによって感情をコントロールできるということだ。ツールを使う練習をすればするほど、使い方はうまくなる。そうなれば、気分を叩きのめすような問題を人生が投げつけてきても、跳ね返すことができる。
 この本で扱うコンセプトとスキルは万人向けのものだ。研究によって、うつ病の人々に役立つことがわかっているが、処方箋が必要な医薬品ではない。生きていくためのスキル、すなわち、人生において大なり小なり気分が揺らいだときに誰もが使うことのできるツールなのだ。永続的で重い精神疾患を患う人が新たなスキルを試すときには、専門家のサポートを受けることをお勧めする。

 

 

感情は脳だけの産物ではない

 睡眠時間は至福のひとときだ。しかし目覚まし時計がそれを妨害する。いきなり騒々しい音が衝撃をもたらす。わたしはスヌーズボタンを押して再び横になる。頭が痛み、イライラする。もう一度スヌーズボタンを押す。でも、そろそろ起きないと、子どもたちが学校に遅刻する。わたし自身、会議の準備をしなければならない。目を閉じてオフィスの机の上にあるやることリストを思い浮かべる。恐怖。いらだち。極度の疲労。今日は何もしたくない。
 これは気分の落ち込みだろうか。この落ち込みは脳から生まれたのだろうか。なぜこんなふうに目覚めたのか、時間をさかのぼってみよう。昨夜は遅くまで仕事をした。ベッドに入る頃にはくたくたで、階下に降りてグラス一杯の水を飲む気力もなかった。その上、夜中に二度、赤ん坊が泣いて、起こされた。つまり、わたしは睡眠不足で脱水状態だったのだ。そこへもってきて、目覚まし時計のけたたましいアラームに起こされたので、ストレスホルモンが全身を駆け巡り、心臓がドキドキしてストレスを感じた。
 これらの信号のひとつひとつが脳に情報を送る。たいへんだ、たいへんだ、と。脳はその理由を探し、見つける。睡眠不足と脱水状態による不快感が気分の落ち込みの原因の一部だったのだ、と。
 気分の落ち込みがすべて脱水状態のせいだというわけではないが、気分について語るときには、原因が常に脳にあるわけではないことを覚えておこう。原因は体の状態、人間関係、過去と現在、生活状態、ライフスタイルにもある。食事、考え、行動、記憶など、わたしたちがすること、しないことのすべてにある。気分は脳だけの産物ではないのだ。
 脳は絶えず働き、何が起きているかを理解しようとしている。しかし、その手がかりになる情報は限られている。心拍数、呼吸、血圧、ホルモンといった体からの情報。見たり、聞いたり、触れたり、味わったり、嗅いだりという五感からの情報。それに行動や考えだ。脳はこれらの情報のすべてと、過去に同じような状況でどう感じたかという記憶をつなぎ合わせて、今何が起きていて、それにどう対処すればいいかを推測する。その推測が時には感情や気分として感じられる。その感情をわたしたちがどう解釈し、どう反応するかが、次に何をすべきかという情報を体と心に送り返す(Feldman Barrett, 2017)。つまり気分に関しても、入ってきた情報によって出てくる結果が決まるのだ。

 

図1:気分の落ち込みの下方スパイラル。気分の落ち込みが数日続くだけでうつ状態に陥る仕組み。
それに早く気づいて対処すれば悪循環を断ちやすい。
出典:Gilbert(1997)

 

 

思考・体の状態・行動と影響しあう

 多くの自己啓発本は、正しい考え方をしなさい、と説く。それらの本は、「どう考えるかによって、感じ方は変わる」と言うが、往々にして肝心な点を見逃している。それはこの関係が双方向に働くことだ。どう感じるかによって考え方は変わり、悪くすると、否定的で自己批判的な考えを抱きやすくなる。気分が落ち込んでいると、思考パターンが良くないとわかっていても、別の考え方をするのは難しい。ましてやソーシャルメディアでよく提唱される「常にポジティブに考える」というルールに従うのは、いっそう難しくなる。つまり、ネガティブな思考はネガティブな感情の原因ではなく、結果かもしれないのだ。だから、「考え方を変える」というのは、落ち込みを解消する唯一の答えにはならないだろう。
 どのように考えるかがすべてではない。わたしたちがすること、しないことのすべてが気分に影響する。誰でも落ち込んでいるときには、人前に出たくないだろう。普段なら楽しめることも、したいと思えない。けれども、長い間そうやって引きこもっていると、ますます気分は落ち込む。体に関しても同じ悪循環が起きる。あまりに忙しくて数週間、運動ができなかったとしよう。疲れていて気分も落ち込んでいるので、運動をする気になれない。こうして運動をしない期間が長くなると、無気力でエネルギー不足になる。エネルギーが不足すると、ますます運動から遠ざかり、気分はさらに落ち込む。つまり、気分の落ち込みは、さらに気分を落ち込ませる行動を招くのだ。
 このような悪循環に陥りやすいのは、経験のさまざまな側面が互いに影響しあうからだ。しかし、それは、わたしたちがいかに悪循環に陥りやすいかを示す一方で、そこから抜け出す方法も示している。
 思考、身体的感覚、感情、行動のすべてが影響しあって経験を生み出しているが、人はそれをひとまとめに経験する。そして、バスケットに編み込まれた籘づるの一本一本を認識するのが難しいのと同じで、経験を個々の要素に分解するのは難しい。それには練習が必要だ。そうすれば、自分がどのような変化を起こせるかを理解しやすくなるだろう。次ページの図2は、経験を分解するための簡単な方法を示している。

 

図2:ネガティブなことを考えながら時間を過ごすと、気分が落ち込む可能性が高い。
気分が落ち込むと、ますますネガティブな考えを抱きやすくなる。
この図は、わたしたちがどのように気分の落ち込みの悪循環にはまり込むかを示している。
しかし、そこから抜け出す方法も教えている。
出典:Greenberger & Padesky (2016)

 

 このように物事を分解すれば、自分を行き詰まらせる行動だけでなく、自分の助けになる行動も見えてくるだろう。
 セラピーに来る人の大半は、感情を変えたいと思っている。自分が抱える不快な(ときには耐えがたい)感情から解放されて、喜びや高揚感といった豊かな感情を抱きたいと思っているのだ。セラピーでは、彼らが望む感情をボタン一つで作り出せるわけではない。けれども、感情は体の状態、思考、行動と密接に絡みあっていることを彼らは学ぶ。それらの要素は、自分で変えることができる。脳と体と環境の間では常にフィードバックが起きているので、それを利用して感情に影響を与えることができるのだ。

 

 

自分で感情を変えるための第一歩

 気分の落ち込みを理解するための最初の一歩は、経験の各側面を認識すること、つまりひとつひとつの側面に気づくことだ。この気づきは振り返ることから始まる。その日を振り返り、ある瞬間の経験を分解してみよう。時間をかけ、練習を重ねるうちに、リアルタイムでそれらの側面に気づけるようになる。そこに状況を変えるチャンスがある。
 セラピーでは、気分が落ち込んでいる人に、どのような形で不調を感じるかを尋ねる。すると彼らは、疲労感、無気力、食欲不振に気づく。「今日は何もする気になれない。わたしは怠け者だ。成功するはずがない。だめな人間だ」と考えていることに気づくこともある。あるいは、仕事中にしばらくの間トイレに隠れてソーシャルメディアをスクロールしたくなることに気づく人もいる。
 こうして自分の体と心で何が起きているかがわかるようになれば、さらに視野を広げて、周囲の環境や人間関係に何が起きているか、それが自分の感情や思考や行動にどのような影響を与えているかに目を向けられるようになる。時間をかけて細かなことを理解するようにしよう。──こんなふうに感じるとき、わたしは何について考えているのだろう? 体はどんな状態にあるのだろう? こんな気分になる前の数日間や数時間、わたしは自分をどのように扱っていただろう? これは感情なのか、それとも体の不調の現れにすぎないのだろうか?──問いは多くある。答えが明らかな場合もあれば、複雑すぎてわからない場合もあるだろう。それはそれでいい。自分の経験を掘り下げ、書き留めていけば、自己認識力が高まり、自分の状況を何が好転させ、何が悪化させるかに気づきやすくなるはずだ。

 

 ツール 

クロスセクション分析:落ち込みの原因を知る

 クロスセクション分析27ページの図2)を利用して、経験の肯定的な側面と否定的な側面について理解を深めよう。3​5​0ページに空白のクロスセクション分析図が載っているので、それに書き込んでもいい。10分かけて、その日の中から振り返るべき一瞬を選び出そう。他の欄より書き込みやすい欄があることに気づくかもしれない。
気分が落ち込んだ瞬間について後からじっくり考える習慣を身につければ、経験のどのような側面が気分を落ち込ませるかに気づきやすくなる。

 

 試してみよう 

 クロスセクション分析図を埋めるときには、以下の問いが役に立つ。日記を書くためのガイドにもなるだろう。

・気分が落ち込む瞬間の前には、何が起きたか?
・新しい感情に気づく直前に何が起きていたか?
・そのとき、何を考えていたか?
・何に注意を向けていたか?
・どんな気持ちだったか?
・それを体のどこで感じたか?
・その他に、どのような身体的感覚に気づいたか?
・どのような衝動が現れたか?
・その衝動に従ったか?
・従わなかった場合、代わりにどのような行動をとったか?
・その行動は感情にどのように影響したか?
・その行動は、状況に対する考えや信念にどのように影響したか?

 

 

 まとめ 

・気分の変動は正常なことだ。常に幸せな人はいない。けれども気分に翻弄される必要もない。そのためにできることはある。
・気分の落ち込みは脳の欠陥によるものではない。それは要求が満たされないことの反映である可能性が高い。
・人生のある瞬間の経験はさまざまな側面に分解できる。
・それらは皆、互いに影響しあっている。気分の落ち込みの悪循環から抜け出せず、うつにさえなるのはそのためだ。
・感情は多くの要素からなり、それらの要素にわたしたちは影響を与えることができる。
・感情を直接切り替えることはできないが、自分がコントロールできるものを介して、感じ方を変えることはできる。
・クロスセクション分析を活用すれば、何が自分の気分に影響を及ぼし、身動きできなくさせているかがわかる。

 

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昨年公開いたしました「動画&はじめに」ためし読みはこちらから!

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続きは単行本
一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全」にて
お楽しみください。

関連本

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著者

ジュリー・スミス

心理学者・臨床心理士。オンラインでの発信やカウンセリングが人気を博し300万以上のSNSフォロワーを持つ。心理学・精神医学に基づく適切な知識を動画でわかりやすく届ける活動はBBC等にも取り上げられる。

野中香方子(のなか・きょうこ)訳

翻訳家。お茶の水女子大学卒業。 訳書に『脳を鍛えるには運動しかない!』『心の傷は遺伝する』『シリコンバレー式 よい休息』『Humankind 希望の歴史』『ネアンデルタール人は私たちと交配した』他多数

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