単行本 - その他
本読み河出スタッフが選んだ、2018年の本(他社本もあるよ!)
2018.12.30
本年も河出書房新社の本をお読みいただき、誠にありがとうございました。
本の会社の人は、やっぱりみんな本が好き。
昨年に引き続き、「今年どんな本読んだ?」と聞いてみたら、
いろんな本が熱いレビューつきでどっさり届きました。
年の瀬に、自社・他社問わず、河出のスタッフが大いに感銘を受けた今年の本をご紹介いたします。
来年も張り切って、皆さんに手に取っていただけるような本をつくってまいりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
【河出スタッフが選ぶ2018年の本】
『生理ちゃん』小山健(KADOKAWA)
全世界の女子、共感間違いなし。突然現れ腹パンくらわす生理ちゃん。
女性に寄り添い痛みを分け合う生理ちゃん。これこそリアルな女の現実。
和み、笑い、そして感動に涙する。男子も必読のコミックです。
『楽器の音色がすぐ聴ける 世界の民族楽器図鑑』
民音音楽博物館監修(河出書房新社)
世界にはまだ見た事も聴いた事もない楽器がたくさんある!
朝のラッシュで、疲れた帰り道に、QRコードで音色を聴けば異国の情緒に癒されます。
思わず旅に出たくなる、画期的かつ楽しい1冊。
http://amzn.asia/d/2cAs7oB
(営業部・N)
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『〈モータウン〉のデザイン』堀田典裕(名古屋大学出版会)
自動車の発展・拡大によって生み出された都市計画や建築についての本。
かつてのヘンテコな自動車都市構想から揶揄されがちな現代の国道沿いの風景に至るまで
全てのデザインに著者のリスペクトが感じられる。
『アメリカの大学スポーツ 腐敗の構図と改革への道』
ジェラルド・ガーニー/ドナ・ロピアノ/
アンドリュー・ジンバリスト
宮田由紀夫訳(玉川大学出版部)
大学スポーツの商業化と大学本来の目的である高等教育は両立しない。
データを用いた詳細な分析もさることながら、
書き手たちの明確な意志と教育者としての情熱が
これほどまでに伝わってくる文章に感動さえ覚えた。
『タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源』
ピーター・ゴドフリー=スミス/夏目大訳(みすず書房)
タコには犬にも匹敵する約5億個のニューロンがある。
複雑な神経系は哺乳類に多く見られるが、
タコはそれとは全く違う形で知性や心のようなものを発達させた。
ではタコたちはどのように世界を感じているのだろうか。
(長尾)
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『わたしたちが火の中で失くしたもの』
マリアーナ・エンリケス著 安藤哲行訳(河出書房新社)
出来事は残酷、世界は退廃、なぜか、いや、それ故になのか、少女的で繊細な感覚を受け取りました。
不思議な読み味の幻想ホラー小説。「少しだけずれた世界」にトリップできる一冊です。
『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』藤田祥平(早川書房)
文芸とディープなサブカルチャーの両方に浸かっている人の文には、突き刺される読者です。
PCゲームに耽溺した思春期の体験と文学的想像力が融合した、奇妙なテンション。
同著者のコラム集『電遊奇譚』もお勧め。
『君の話』三秋縋(早川書房)
泣ける思春期ボーイ・ミーツ・ガールもの、にとどまらない捻りのある、喪失とわずかな希望の物語。
SF設定もシンプルながら惹き付けられる。「無かった」筈の青春の感傷を体験しました。
(編集部事務F)
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『メタモルフォーゼの縁側(1)』鶴谷香央理(KADOKAWA)
浮世に暮らせば、歳やら性別やら立場やら、厄介なものにとらわれて
ただ素直に人と仲良くなることさえも難しかったりしますが、これは
BLを通じて、おばあさんと女子高生が交流を深める話です。
社会的なアレコレを飛び越えて、素朴に、つまりは本来的に
人と人が「つながる」ことを思い出させてくれる、とびきり素敵な作品。
二人のことを、ずっと見守っていたい気持ちになります。
『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』藤田祥平(早川書房)
『メタモルフォーゼの縁側』とは対照的に、超徹底“男の子目線”ですが久しぶりに正面突破の、ガッツある「私小説」を食らった感じがしました。
著者の特異な経歴や、内容の紹介は数多のレビューに譲るとして
とにかく突き抜けている。書き切って、突き抜けていました。
実体験を元に、ひとりの青年の内面をとことん描いて、文学に昇華するという身を切るような難題に挑んだ著者に、惜しみない賛辞を送りたい。
『アメリカ死にかけ物語』
リン・ディン 小澤身和子訳(河出書房新社)
アメリカ中を渡り歩き、市井の人々とひたすらバーやカフェで絡む、絡む絡む。
そこで漏れてくるのは愚痴や諦め、後悔、社会が抱える矛盾。
あるいはそれらを撥ねつけて、なお泰然とした「生活」が垣間見えたりもする。
目の前の話し相手には、徹底的に寄り添い、あたたかく、対等に。
背後にある社会や時代は、徹底的に突き放し、冷静に、俯瞰して。
アメリカにとどまらない、普遍的な「凄み」を湛えたまなざしと筆致。
稀代の傑作ノンフィクション。
(営業部 片山郁)
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『一億円のさようなら』白石一文(徳間書店)
「夫婦とはいえ他人なんだ」と著者は言いたいのだと読み進めていただけに、ラストで愕然とし、胸が、目頭が熱くなりました。
こんな小説を待っていました。
そして来年『火口の二人』映画化。白石さんのこれからに大注目!
『青春と変態』会田誠(ちくま文庫)
『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に会いそうな本をすすめまくった1年間のこと』は
本をすすめまくる快作ですが、その中に登場するものすごい輝きを放つ一冊。
何がすごいかは読んでのお楽しみ。強烈な青春小説。
『源氏物語(中)』角田光代(河出書房新社)
夏休みに『ホモ・デウス』と『源氏物語(中)』のゲラを持って旅に出ました。
タイプの違う両方がともにスケールの大きな著作でわくわくしながら読了。
本作では平安の世にどっぷり浸ることができ角田光代の文章力に脱帽でした。完結が待ち遠しい!!
(営業部 S)
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『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』
ドニー・アイカー 安原和見訳(河出書房新社)
極寒の雪山やわざわざ月に行く人の気持ちがわからない。
私なら絶対死ぬ自信がある。
そんな人に極限を追体験させてくれるのが「本」ですね。冒険小説のように楽しく読めます。
『黙約(上下)』ドナ・タート 吉浦澄子訳(新潮文庫)
弊社刊『ゴールド・フィンチ』でドナ・タートを知りました。
耽美な香気が魅力の重厚なサスペンス。
難解なようで読みやすくうっかり一気読みしてしまいそうになるのを
ぐっと我慢して少しずつ味読するのがおすすめ。
『水中翼船炎上中』穂村弘(講談社)
装丁がおしゃれ。たまーにてきとーにページを開いて見る。
たいていmicrocosmos(やMacrocosmos)なことが描いてあります。
(営業女)
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『最強の経営者 アサヒビールを再生させた男』高杉良(講談社)
夕日ビールと蔑まれたアサヒビール。そのアサヒビールを立て直した樋口廣太郎の物語。
本当にあった話なので大変、迫力がある。
既成概念にとらわれず、柔軟な発想、即断即決、即行動、社員を束ね、ブルトーザーのごとく前進し、ビール業界1位になるストーリーは、感涙もの。
真のリーダーとは何か、本当の決断力とは何か、勇気とは、色々考えさせられ大変参考になった。
以下の心得2つは特に心に響いた。
「「先例がない」「だからやる」のが管理職ではないか。」(アサヒビール管理職10則)
「口先やアタマの中で商売をするな。心で商売せよ。」(アサヒビール仕事10則)
『明治維新とは何だったのか 世界史から考える』
半藤一利、出口治明(祥伝社)
言わずと知れた知の巨匠の半藤さんと出口さんとの対談。勉強不足を自覚し読んでみたらなんと!
幕末から近代日本に変換していく様を二人の対談を通してとても分かりやすく面白く読むことが出来ました。
幕末から明治維新にかけて、日本にとって最大功労者は老中・阿部正弘だというお話は必読。
『Lily ――日々のカケラ――』石田ゆり子(文藝春秋)
石田ゆり子のフォト&エッセイ。読んでみて、改めて彼女の魅力を再認識。
河出で企画できないものか。同居している猫、犬たちへのあふれる愛情も伝わり、ますます好きになる。
「綺麗なお姉さんは好きですか?」
(菊池真治)
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シリーズ〈韓国文学のオクリモノ〉(晶文社)
『鯨』チョン ミョングァン 斎藤真理子訳
『あまりにも真昼の恋愛』キム・グミ すんみ訳
『誰でもない』ファン・ジョンウン 斉藤真理子訳
今の韓国の書き手たちの、なんと活きのいいことか!
すばらしいシリーズですので、今年出た最後の3点を。
ごくごく想像できる日常的な風景に、ファンタジックな魔法がふっとまぶされていて、その塩梅がたまりません。
最終巻となった『鯨』は怪物女性の3代記、嘘ばっかり!と突っ込みつつ楽しめました。
NHKあさイチで紹介された、ハン・ガン『ギリシア語の時間』もこのシリーズです。
(H.N)
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『「身体を売る彼女たち」の事情――自立と依存の性風俗』
坂爪真吾(ちくま新書)
現場を熟知する著者だからこそ書ける、真っ当な性風俗事情。
「ほかに売れるものがないから身体を売る」という彼女たちの行為は、
理不尽な事態であれ不合理な選択ではない。
道徳的言論や浄化制度の無用さに気付く。
『カラス学のすすめ』杉田昭栄(緑書房)
カラスなぜ啼くの。童謡や物語、神社など、人間様と縁深い鳥、カラス。
都市部では邪魔者扱いされがちだが、実は可愛くて興味深いじゃないカァ〜。
専門の解剖学を中心に、古今東西めくるめくカラスの世界へ誘う一冊。
『地球星人』村田沙耶香(新潮社)
幼少期のピンク嫌い、幸せ家族CMへの違和感、花嫁SNSやキラキラ結婚式での痒さ。
あれもこれも全部、私、ポハピピンポボピア星人だったから?
恋愛→結婚→生殖を課せられた地球星人に切り込む、爽快クレイジー小説。
(製作部・森)
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『師弟』野澤亘伸(光文社)
将棋棋士は小学生から修行に入るため、師匠は指導者というより身元引受人に近い。だからこそ決まった作法がなく、描かれる6師弟もそれぞれ全く違う関係性。
けれど、弟子を案じまくりだすのは全く同じ。師匠が、相手が子どもでも、同じ道を歩くと決めた才能を同志と尊重しているからこその特別さだ。
特に谷川都成の運命的な師弟関係と、メッチャ反抗的な増田六段が、知らないところで師匠に褒められていたことを知り思わず落涙する2編は号泣。
よく「エモ本教えてー」と言われるが、今年後半はこの本一択で貸しまくった。(そして3冊くらい返ってこない!)
『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』
鈴木智彦(小学館)
ヤクザのインサイダー取材が得意な著者会心の一撃。一撃されたのはヤクザではなくむしろ我々。
密漁は悪、ヤクザには近寄らない、そんな綺麗事は通じないほど
自分も恩恵を受け続けた共犯者であることを突きつけられる。
日本の特殊な漁業慣習や日露関係も、密漁に影響していたとは…。
それぞれの場所で生きるための工夫が、罪を生んでしまうのは胸に痛い。丹念なファクトの積み上げを重ねた最後の最後、「密漁なんて些末」と言われるくらいの問題に辿り着くのも衝撃だった。
『出会い系サイトで70人と実際に会って
その人に会いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
花田菜々子(河出書房新社)
初著書の「全部ここに込めた!」という熱量が好きで今年も何冊か読んだが、エナジーは初著書ながら「初めてなんて嘘…」と手練のような完成度に驚いたのがこれ。
「2013年1月のある夜。
私は横浜郊外のファミレスでひとり、2時が来るのをうつろな気持ちで待っていた。
こんなときは本を開く気にもなれなかった。
とりあえずの着替えと生活用品をスーツケースに詰めて職場に持ち込み、家のない生活をはじめてから1週間になる。」
どうですこの状況説明、自己紹介、フックすべて含んだムダのない文章。この出だし4文だけで本を閉じられなくなった。
(N)
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『試験に出る哲学』斎藤哲也(NHK出版新書)
知る人ぞ知る驚異のベストセラー『読解 評論文キーワード』の著者による哲学入門であれば
それだけで「まちがいない」のだが、センター試験問題を枕に、
あれこれ要所を押さえた後で(こちらが本論)、解答が提示されるという枠組みを推進力にする趣向に、
人文系編集者として「やられた感」ハンパない。
『教養主義のリハビリテーション』大澤聡(筑摩選書)
のっけから教養新書の「絶滅」が語られて、教養新書準備中だった身がのけぞったが(笑)、問題意識から対話相手の人選、言及される固有名のどれもが当方の感覚にもしっくり来る。
「だよねー」と。この道でいいのだと逆に背中を押された気分で、勝手に高揚した。
『文字渦』円城塔(新潮社)
かの中島敦の名短篇と見紛う題名からすでにその渦に巻き込まれ、
四六判天地切りの思わず撫で回してしまう造本、
開けば別丁扉から目次への展開だけでにんまりさせられ、その先に待つめくるめく圧巻、
怒涛の作品世界、用字、ルビ、文字組み……
書物というものが積み重ねてきた人間の身体との相性が心地よく引き出されていく。
折に触れ取り出して何度でも没入したくなる、コンセプトアルバムの名盤のような一冊。
(編集部・藤崎寛之)
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『ファミリー・ライフ』アキール・シャルマ 小野正嗣訳(新潮社)
たった3分の間に起こった事故で、意識不明となってしまった兄。
インドからアメリカへ移住したひと家族の中心が、その事件をきっかけに変わる様子を描き出す。
救いとは何か、共感や信頼とは何なのか。著者の体験をもとにした自伝的長編。
『山の上の家』庄野潤三ほか(夏葉社)
丘の上での大浦一家の暮らしが描かれた『夕べの雲』。
モデルとなった著者、庄野潤三を家族らが振り返る。
今このときを「先でどんな風に思い出すだろうか」という一文に集約された、
平凡な暮らしのもつ輝き。作家の姿がそこにある、のびのびとした作家案内。
『何があってもおかしくない』
エリザベス・ストラウト 小川高義訳(早川書房)
町を出て作家になったルーシー、嘲笑されながらも少女の未来に寄り添う進路指導係。
アメリカの田舎町アムギャッシュを中心に描かれる物語は、人間の多面性を鮮やかに映す。
哀しみのなかの小さな光に救われる連作短編集。
(電子書籍開発室 村上陽子)
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『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』
有元葉子(SBクリエイティブ)
ネット上で無料レシピがたくさん溢れている時代に、
料理本はどうあるべきかについて完璧な形で答えを出した本。
今年一番嫉妬しました。写真も文章も素晴らしかったです。
『津波の霊たち』
リチャード・ロイド・パリー 濱野大道訳(早川書房)
津波が小学校を襲った時に何があったかに加えて、
霊という扱いにくいテーマを通して震災の知られざる一面を読み物として成立させた
凄いノンフィクションでした。
『このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』
北野唯我(ダイヤモンド社)
転職意思の有無に関係なく、組織に所属し、組織に傷ついた人を救う本でした。
「いつでも転職できるような人間がそれでも転職しない会社。それが最強」
「自分が信じていないものを売る。これほど人の心を殺す行為はない」
など胸に刺さるフレーズが満載です。
本のつくり方についても大変勉強になりました。
(匿名希望)
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『90年代のこと ― 僕の修業時代』堀部篤史(夏葉社)
今年の「本の日」に買った、たまらなく愛らしい造本のエッセイ集。
あの頃のことを思い出して、これ程まで楽しめるようになった喜びとサウダージはさておき、ただの懐古趣味とは呼ばせない、眩い輝きを持った一冊です。
『悲しくてかっこいい人』イ・ラン(リトル・モア)
この自意識を持て余す感じの痛さ、寒々しさ。
目をそらせたくなる程に、剥き出しの人間は醜く、
美しいことを、改めて隣人の独り言に教わりました。
新曲『よく聞いていますよ』も痛くて最高です。
『電話・睡眠・音楽』川勝徳重(リイド社)
表題作のサバービア感、その他収録作のガロ感、そこはかとなく漂うアシッド感。
四十路に入った元サブカル男子の止まり木であり、紛れもないヌーヴェル・ヴァーグ。
ちなみに、2018年“極私的”造本装幀大賞は『私のティーアガルテン行』平出隆(紀伊國屋書店)です。
兎角今年もニヤリとさせられる本が多く世に出て、喜ばしくも歯がゆい一年でありました。
(営業部 中山喬介)
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社内で読書トークするときは「あー私もそれ読んだー」と盛り上がることが多いので
けっこう被るのかな、と思ったら、なんと被りは1冊だけ!
イチオシとなるとこんなにバラエティが出るのかと
各人の顔を思い浮かべ、にこにこしてしまいます。
そして熱い推しについ、未読本をガンガン買ってしまった……楽しい正月になりそうだな!
本を作ってお知らせして売る、忙しい毎日のなかで、
余暇も本に夢中な同僚たちを誇りに思います。
来年も皆様に、良い本との出会いがありますように。
河出書房新社がそのお手伝いができますように。
良いお年をお迎えください。
2019年もどうぞよろしくお願いします。
河出書房新社