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本読み河出スタッフが選んだ、2019年の本(他社本もあるよ!)

本年も河出書房新社の本をお読みいただき誠にありがとうございました。普段は職業意識(?)と愛社精神(??)により自社刊行物普及に努める我々が、自らの楔を解き放ち心から語りたい本をオススメする恒例企画「本読み河出スタッフが選んだ今年の本(他社本もあるよ!)」2019年版を今年もお届けします。

河出書房新社1F 「茶房ふみくら」にて撮影
 
 本が好きすぎて出版社に迷い込み、日々の大半、本のことばかり考えている我々。他社本もあるよ!と言いながら、大半は他社の「やられた!!!」という本たち(編集部長・談)です。それにしても、やられた本、いっぱいあるな…。
 今回は総勢20人が参加。まずは、年末の忘年会に次ぐ忘年会になにか思うところありそうな方からの推薦書からどうぞ。
 
絲山秋子『妻の超然』新潮社
この本に収録されている短編のひとつ、「下戸の超然」を激しく推薦します(ほかの2編も素晴らしいです)。が、日ごろ飲み会で何を思い、酔っ払いたちをどういう気持ちで見つめているか知られたくないので、酒飲みの皆さんは絶対に読まないでください。
 
(営業部の下戸の人)
 
嵯峨景子『氷室冴子とその時代』小鳥遊書房
鮮やかに生き切った小説家の軌跡を丹念に追った労作。青春時代に氷室冴子の作品を好きだった全員、必読。
 
市川安紀『加藤武 芝居語り』筑摩書房
2015年に亡くなった名優加藤武が語る芝居道。豪快で明るい声が響いてくる。新劇と映画の青春。
 

生誕125年没後40年記念展覧会の図録。多彩なスタイルの日本画を描き、収集家・風俗史研究者として映画や舞台、祭礼の考証を務めるなど、八面六臂の活躍を見せた吉川観方。ただただ圧倒された。

I
 
東畑開人『居るのはつらいよ』医学書院
どうして「居るのはつらい」のか、居場所とはいったい何なのか。
沖縄のデイケアの日常をとおして、著者は「ケア」と「セラピー」のあいだに隠された、ひとつの罠に気がついていきます。
抜群におもしろかったです!
 
小野不由美『白銀の墟 玄の月 第一~四巻 十二国記』新潮文庫
あらゆる手を尽くし、台風直撃の発売当日に手に入れ、そのまま一気に読み通しました。
待望の待望の最新作は、期待をはるかに超える神的なおもしろさと批評性……!
これから十二国記シリーズをゼロから読めるひとがうらやましい!です。
 
ルーシー・ワーズリー序文 ホーリー・ハールバート他監修
戸矢理衣奈日本語版監修
WOMEN 女性たちの世界史大図鑑』河出書房新社
先史から現代まで、女性たちの世界史をヴィジュアルで紹介する決定版。
各国・各時代からみたバランスのよい女性史です。これがメチャクチャおもしろい。
必須の教養書としてもおすすめしますが、「世界初のプログラマは女性」など、先入観をバンバン覆されるのが痛快でした。
営業 K

 

マルク=ウヴェ・クリング 森内薫訳
クオリティランド』河出書房新社
レコメンド機能が定着して久しい今、想像できる未来なものの、さすがドイツ(?)、作り込みが徹底してます。恋人や趣味もアルゴリズムで決定される社会で、ペーターに届いたのは大人のおもちゃ。返品しても「それはあなたの望んでいるもの」と受け付けてもらえず社会に戦いを挑むのですが…とにかく風刺小説の真骨頂。『ホモ・デウス』とセットでぜひ。あとこの国、公式サイトがあります。クオリティランド今日の天気も毎日更新されてる。ドイツ人ほんとすごい。

 

本田『ほしとんで』ジーンLINEコミックス
勝手にゼミを決められちゃう方式の大学で「俳句ゼミ」に所属することになった俳句超初心者新入生たちを描いた作品。そもそも句会は誰もが誰をも否定しない、純粋に作品を評価される、というしくみを持っています(ステキ)。そのしくみが作品全体にも通底し、句会の場面以外でも、人が人を(理解できなくても)尊重するというあらまほしき人間関係に身悶えしました。こうなるといいなー世界。

 

桑島智輝『我我』青幻舎
妻の女優 安達祐実さんを撮影した写真集。安達さんは最近以前にも増して魅力的だけど、「どう見られたい」という鎧がなくなったから魅力的なんだ!と気付かされました。代わりに女優さんとして作家、作品を十全に表現されている。この作品でも写真家の気持ちや二人の関係性の変化を写すうつわとして写っていて、完全にミューズでした。続きも見たいなあ。

 

事前プロモーションされる本が増え、興味がある本ほど「あーあの本出たんだー」状態のこの数年。まさしく『クオリティランド』の世界(がもうすぐそこまで来てる!!!)。
そんな時代にあって何度も「撃たれた!」と思う出会いをくれた書店、今野書店titleに感謝を。今回おすすめした本も載せるか最後まで脳内会議にかけた本も、印象に残った本ほとんどこの2店での購入でした。

nmkt

 

カルロ・ロヴェッリ 冨永星訳
時間は存在しない』NHK出版
あると信じて疑ったことのない時間について、とてもわかりやすく説明してくれる語り口が柔らかく硬質。
専門的な説明を極力しない方針のようだが、たった一つだけ、申し訳ないとばかりに数式が出てくる。
それが「エントロピー増大の法則」というところ、なるほど、元ヒッピーだという著者に魅了されました。
 
 
ウィリアム・ギャディス 木原善彦訳
JR』国書刊行会
登場人物(100人くらい)を把握して、なんとか読み進むことが出来、場面転換(解説で確認)を把握して、なんとか読み進むことが出来ましたが、普通に読めるようになるとパズルが解けたようで気分爽快。2019年に日本翻訳大賞を受賞した、持ち歩けないほど分厚くて、エントロピーが増大しまくる小説。
 
 
デイビッド・モントゴメリー 片岡夏実訳
土・牛・微生物』築地書店
海洋プラスチックはウミガメの映像が流れ、ストローの使用をやめる動きがあるけれど、それ以上に危機的なことが地球全体に起こっていること、それは普段の食べ物に直結している、ということに気づいている人はどれだけいるのだろうか。土は人間の腸内細菌と食べ物で繋がり、海や空気にも影響する。温暖化も含め本書ではその解決策が実践されていることを教えてくれる希望の書であり、健康に生きていくために必要な知識だ。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが活躍している今こそ読まれるべき本。

N
 

オルガ・トカルチェク『逃亡派』白水社
ひとが夜見る夢の話のような旅の断片的な小説と書くと難解な本かと勘違いされそうですが読み出すと夢中になる文体で贅沢な時間が得られます。

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ訳
なにかが首のまわりに』河出文庫
単行本の時『アメリカにいる、きみ』というタイトルで出たこの作家の初邦訳を読んで、これは出た本すべて読んじゃう作家だと思いました。

 

大澤真幸『社会学史』講談社現代新書
 
年末にその一年を振り返ってみると、刊行時に「やられた」感を抱いた本が特に印象に残っていることが多いようです。著者と編集者への敬意と賞賛と感謝に若干の嫉妬が混じる独特の感覚は、編集者なら誰もが経験のあることでしょう。今年一年を通じてユヴァル・ノア・ハラリの仕事に触れてきたせいか、「大きな話」を成し遂げた本に「やられた」感を抱き続けた気がします。そうした企画を三点(四冊)挙げさせていただきます。時代は大きな見取図を求めているとひしひしと感じます。それに応えたこれらの仕事に、改めて敬意と賞賛と感謝を捧げます。若干の嫉妬を込めて。
もしも「大きな話」から距離をとりたい時には、春日武彦『猫と偶然』(作品社)をお薦めします。ただし、終盤に「猫占い」という編集者には恐ろしすぎる件が出てきますのでご注意を。
編集部・藤崎
 

奥田英朗『罪の轍』新潮社
ここ二~三十年の直木賞受賞作はすべて読むようにしているけれど、あれほど笑えた作品はなかったなぁ『空中ブランコ』。恥ずかしくて電車の中で読むのをやめたくらい。以降大ファンの著者最新刊。角田光代さんの「私は涙を拭うのも洟をかむのも忘れるほどのめりこみ、小説に食らいつくように読みふけった」という帯文で即買い。まさにこの言葉そのままの感動作!!

 

村田紗耶香『生命式』河出書房新社
自社の本をここに挙げるのは無粋と思いつつ、でも薦めずにはいられない一冊。村田さんの作品は『コンビニ人間』も『殺人出産』も『消滅世界』もいいけれど、私が推すのは、強く推すのはこの本です。12編の短編、すべて良し。文学作品だからこそできる狂気、極上の作品集!!

 

森絵都『カザアナ』朝日新聞出版
身内の本をここに挙げるのは無粋と思いつつ、でも薦めずにはいられない一冊。一気読みの冒険譚にして、痛快な近未来エンターテイメント小説。返す刀で現代人に突きつけられているテーマや憂いも扱い、さらりと描く。市井が高らかに声をあげられるのであれば…生きていくのも悪くない明日。

営業部S

 

自社
入江麻木「さあ、熱いうちに食べましょう」河出書房新社
美しい文章から立ち上る未知の料理の匂いに想像力をかきたてられつつ、厳しい時代にも生活を楽しもうとする著者の知性とたくましさに元気をもらいました。

 

生命式」河出書房新社
人間の脳は10%ほどしか使われていないそうですが、この本のおかげでプラス10%覚醒しました。
一篇ごとに強烈に揺さぶられ、読後は不思議な多幸感に包まれる、帯文通りの「最も危険な短篇集」です。

 

他社
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」新潮社
子どもの目線を通してこそ大人が学べることの大きさ、深さ。こんなふうに子どもと話ができる大人でありたい。
親として、人間として、自分のありかたを考えさせられる、素晴らしい本です。

 

エトセトラ vol. 1 コンビニからエロ本がなくなる日
エトセトラブックス
これを読むまで、コンビニのエロ本コーナーからこんなに自分がストレスを受けていたことに気が付けなかった。
様々な立場や視点からの意見もとても興味深く、考え方の幅を広げてくれた一冊です。

編集部N

 

大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』岩波新書
来年2020年は第二次世界大戦終戦から75年。生存者も少なくなり、記憶が薄れていく中、日本から遠いヨーロッパ戦線で、実際に何が起きていたのかを把握する上で、貴重な一冊。

 

大木毅『「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨』岩波新書
推薦理由は上の「独ソ戦」同様なのですが、私は今春本書を読んで、夏休みにイギリスのボービントン戦車博物館まで行きました。ある意味、自分の世界を変えた一冊です。

 

山之内克子『物語オーストリアの歴史』中公新書
オーストリアの歴史を州史から読み解くという新たな試み。州それぞれの風土の描写も、ガイドブックを読みつつ旅しているようで楽しかった。

編集部S・W

 
kemio
ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』KADOKAWA
生きる上で大切なことが、今の若い人に伝わる言葉で書かれていて腰を抜かすほど感動しました。きっと今の若い人たちはこの本に救われただろうし、自分の10代の頃にもkemioさんみたいな人がほしかったです。

和山やま
夢中さ、きみに』ビームコミックス
おいも三兄弟さんと仮釈放さんが登場する話が死ぬほど好きで、100回は読み返しています。

東畑開人『居るのはつらいよ』医学書院
「ただその場にいること」を巡る感動的なドキュメント。
体験したことを相対化してユーモアあふれる文章にできるところが本当に凄い。前作の『野の医者は笑う』も大変面白かったのですが、今作も大変面白かったです!

豆しばの大群
 

増田久雄『栄光へのノーサイド』河出書房新社
ラグビーW杯の年にふさわしい1冊。実在した日系人のラガーマン、ブロウ・イデを主人公に戦前から終戦までを舞台にして反戦と人間の絆を描くノンフィクション小説です。中高生にもおすすめです。あまりにも素晴らしい内容なので落語家の立川志の八師匠が落語にしてしまったぐらいです。

片山恭一『世界が僕らを嫌っても』河出書房新社
あの社会現象にもなった『セカチュー』の片山恭一がおくる衝撃作。主人公3人それぞれが持つ運命が絡みあって物語はすすんでいく。とにかく引き込まれます。本物の小説家が書く文章ってこういうことを言うんだとも思いました。いわゆる『ロス疑惑』を連想させる場面はとにかくすごい。還暦を迎えた片山さんの気合がそのまま伝わってくる1冊。必読です。

ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳
21Lessons』河出書房新社
この1冊は即効性があって、読み始めた次の日から役立ちます。『サピエンス全史』では人類が農耕を選択したのは間違いだった、『ホモ・デウス』では現代人のほとんどが近い将来『無用者階級』となるなど、衝撃のテーマを放ってきたハラリさんが今回は『いま何が起きているのか』を取り上げます。漠然たる不安を抱える現代人にとっての『聖書』になるかもしれません。家庭に1冊です。

田丸

 
フレデリック・ベグベデ『世界不死計画』河出書房新社
お金は持ってるけど人間的にはダメダメなおっさんが本気で不老不死を求めて、最先端のバイオテクノロジーの先駆者に会いに行き、体を張って自らを改造していく…ってこれ、実話?というか著者自身の話? 結末はネタバレになるなので言いませんが、読後感は今年のNo.1! 通勤の往復であっという間に読了です。
 
元本は知る人ぞ知る名著らしく、食文好きな書店員さん複数名に「これが文庫化したのは衝撃」とまで言わしめるほど。とにかく今すぐあんこを食べに京都に行きたくなる危険な本です。あんこ好きにはたまらない!
PN 営業部新人M
 

吉田恭大『光と私語』いぬのせなか座
ふとしたときにひらいてぽつぽつ読んでこの言葉この表現いいなあと思ったりしたのち、そのまま読んだりやめたりして、詩はたのしい。装丁もすてきなので目につく傍に置いておきたくなる本!

 

植本一子『家族最初の日』ちくま文庫
    『うれしい生活』河出書房新社
今まさに読んでいる途中なのですけれどもページをめくる手がとまらないVSゆっくり読みたい(おわらないで〜)の気持ちでうれしい読書。

2010年7月6日(火)–86p、
「ー途中、商店街でシャーベットをひとつ買ってみんなで食べた。アイスの美味しさもあいまって、家族四人でこうしていることが本当に幸せであり、奇跡のように思えた。」もうびっくり急に日常のなかのワンシーンがわたしの頭の中で映像として再生されてうわ〜〜〜って泣いた。かなわない。そして12月に発売された写真集『うれしい生活』。
読んでいる真っ最中にこちらも手にしたため、勝手に頭の中で再生された映像がまた視覚から流れ込んできておいおいおいおい〜〜最高〜〜〜〜!涙涙、にっこりとなり。

来年も本に揺さぶられまくっていきたいです。

広報ひき

 

アルフォンソ・リンギス『暴力と輝き』水声社
砂漠や辺境とよばれる場所を彷徨しながら生と死、自然と文明の境界を問い続けるリンギス、その文章を読むことは至上の歓びです。この世界の果てを見極めたがゆえの輝きと深みにあふれた一冊でした。

 

ジョアオ・ビール『ヴィータ 遺棄されたものの生』みすず書房
ブラジルの行き場のない者が集められた施設「ヴィータ」で著者はカタリナという女性と出あい、彼女の生の軌跡をたどることで人々を底辺においやる社会や医療の現実に直面します。しかしそれをこえてカタリナがみつけた新たな生と言葉は読む者をはげしく揺さぶります。

 

江川隆男『スピノザ『エチカ』講義』法政大学出版局
世界で最もラディカルな哲学者によるスピノザ講義。いままでのスピノザとは違う過激な哲学者としてスピノザが立ち現れます。それは上にあげたリンギスやカタリナがもとめ、見つけた世界と別のものではありません。

編集部H・A

 
junaida『』福音館書店

絵も、タイトルのインパクトも好みすぎて、思わずジャケ買いした絵本。 

一頁一頁の絵が繊細で美しく、「の」という助詞の魔力でぐいぐい物語にひきこまれる…最後まで読むと、ぐるっと世界が反転して、もう一度最初から丁寧にページをめくりたくなる。
 
ロマナ・ロマニーシン/アンドリー・レシヴ 広松由希子訳
うるさく、しずかに、ひそひそと』河出書房新社

この本を開いたとたん、本当に音が聞こえてくる!
小説を読みながら、映像が浮かぶことはよくあるけれど、少しずつクレッシェンドして、音の洪水→急に静か、とひとつの音楽を聴き終えたかのような満足感に浸れる壮大な絵本。
 
山崎ナオコーラ・文 ささめやゆき・絵
かわいいおとうさん』こぐま社

大好きな作家・ナオコーラさんの初めての絵本は、“ただただお父さんがかわいい”と愛でるこどもの話。私が本を好きなのは、人生に役立つからではなくて、ただ読むことが楽しいからだ、ということに改めて気づかせてくれた、シンプルで愛おしい絵本。

営業部S
 
 

ピーター・P・マラ クリス・サンテラ 岡 奈理子他訳
ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する』築地書館
道徳的ジレンマの代表例にトロッコ問題というものがある。5人死ぬか自分がレバーを動かして1人死ぬかというアレである。しかしこれに引け劣らない問題が現実に進行している。それはネコが生態系に及ぼす悪影響である。私たちはネコの野生動物殺傷の深刻さに気付いてもいない。気付いたとして人間はネコに殺処分のレバーを引けるのだろうか。今年一番の問題作!

 

ターリ・シャーロット 上原 直子訳
事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』白揚社
人を説得するとき、私たちはどうしてもデータや事実を提示して理詰めで畳みかけようとしてしまう。しかし、事実の羅列は時に人の主体性を失わせてしまう。大切なことは考える余地をつくること。全体のメッセージがポジティブなのもポイント!

 

アラン・ムーア  J・H・ウィリアムズ画/柳下 毅一郎訳
プロメテア 3』小学館集英社プロダクション
アラン・ムーアの魔法少女もの完結編。前作の死界巡礼編がグラフィックノベルとして最高点に達した感はあるものの、今回も章ごとに全く異なるデザインを並べることで私たちの想像こそ現実というテーマを見事に描ききった。物語は理想の世界の終末へ……。

YN

 

川上未映子『夏物語』文藝春秋
おへその周辺がドキドキした。「生きる」は能動でも「生まれる」は受動で、しかし「生む」はやはり能動である。そんな複雑さを、作中人物たちの交錯から鈍く突きつけられる。装幀を包むやわらかい黄は、初夏や卵のイメージか。書店では空想的に見えたその色が、読後にはやけに生々しく映るから不思議だ。

 

デイヴィッド・マイケリス 古屋 美登里訳
スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』亜紀書房
スヌーピー大国・ニッポン生れの私は、例に漏れず幼少期から白黒の犬に惚れ込んだ。その生みの親を、一人息子を世につかわした神のように思ってさえいた。だから小学校のときシュルツ氏の死を新聞で見て、本当に驚いた。神は生身の人間だったのだ! 本書は、人間・シュルツ氏を知るのに最高の一冊だ。『完全版 ピーナッツ全集』と共にバイブルとなろう。

 

佐々木敦『アートートロジー 「芸術」の同語反復』フィルムアート社
厄介なトートロジーとしてのアートを、様々な展示や作品を通じて考察する時評集。「芸術」でないような作品をつくることができようか――目次裏に置かれたデュシャンの言葉を、改めて噛みしめる。アートにとって受難の年であったいまこそ、問い直し続けたい。

 
ピーター ビルズ  西川 知佐 訳
ALL BLACKS 勝者の系譜』東洋館出版社 
今回のRWCでは惜しくも3連覇を逃したが、世界最強のチーム、オールブラックスがいかにしてつくられたか。綿密な取材を経た秀逸なノンフィクション。組織論としても大変参考になる。
 
 
パティ・マッコード 櫻井祐子 訳
DVDの郵送レンタル業から始まり、オリジナル・コンテンツ制作会社にビジネスを変化させ、現在の時価総額は1700億ドル以上に成長したNETFLIX社。その最高人事責任者の戦略は、大変ユニークであり、ハッとさせられる。
常識にとらわれない型破りな人事制度は大変興味深い。成長する企業の瞬発力と柔軟性も参考になる。
 
 
池井戸潤『ノーサイドゲーム』ダイヤモンド社
ドラマもいいが、書籍にはかなわない。406頁一気読み。
 
佐藤義典『ドリルを売るには穴を売れ
青春出版社モノを売るすべての人に向けたマーケティングの入門書。タイトルの意味=「商品を売るには、顧客にとっての『価値』から考えよ」という意味です。ストーリー仕立てになっているので大変読みやすい。おさらいに最適。
菊池

 

伊丹十三『伊丹十三選集 一・二・三』 岩波書店
晩冬の頃、八重洲ブックセンター八重洲本店にて購入。返礼品としていただいた図書カードの使い途を散々悩んだ末、親父譲りのシックな本書に決めました。ずっと大切にします。

 

武藤良子『銭湯断片日記』龜鳴屋
池之端へ移転した、古書ほうろうにて購入。ネットで買うのも何だか、と思っていた矢先に偶々遭遇。僕は銭湯へは行かないけれど、こういう本を待っていたとしか言いようのない本。

 

安田謙一・辻井タカヒロ『書をステディー 町へレディゴー』誠光社
待ちきれなくて、誠光社通信販売で購入。著者たちのライフワークがこれなら、こういう本を買い続けることが自分のライフワークなのでしょう。

 

その他、『わたくしのビートルズ』、『90年代の若者たち』、『ミニコミ「英国音楽」とあのころの話』等々、一部の四十路にはたまらない本の多く出た2019年。
2020年はどんな本に出会えるやら。

経営戦略部 中山喬介

 
 出版社のカラーというものは、なんとなーくありますが、中にはそれぞれぜんぜん違ういろんな趣味嗜好の本好きたちがいて、誰にも制約されることなく好きな本を読んでいます。来年もそんなてんで勝手な会社から、バラエティ豊かな本をお届けしていく所存です。2020年も河出書房新社をどうぞよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。

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