単行本 - その他

本読み河出スタッフが選んだ、2021年の本(他社本もあるよ!)

今年もまるまる1年、大変な年でした。
河出書房新社は幸運なことに、困難はありつつも、例年通りの出版活動に勤しむことができましたが、「本なんか読む余裕ないよ」という方も多くいらしたことでしょう。
年末年始くらい、一人でも多くの方が、穏やかにお過ごしになれますように。

 

もし、一息つけるひとときに、「本でも読むか」という気になったら、このページもぜひお供に。毎日本のことばかり考えながら働き、休憩中も本を読み、お休みの日は本屋に出かけるような有志たちがこぞって書く毎年恒例企画「本読み河出スタッフが選んだ今年の本(他社本もあるよ!)」2021年版です。普段は自社刊行物普及に努める我々が、心の軛を外し、忖度ナシに心から語りたい本をオススメしました。ジャンルがバラバラですが、あえて整理せず、各自の勢いのまま掲載しました。
誰かの心にぐうぜんフィットし、あーこの本なら読んでみたい、と思える本が見つかれば幸いです。

 

女の園の星』2巻
和山やま(祥伝社)

自習時間を描いた10話が凄すぎて鳥肌が立ちました。誰の記憶にも残らないような些細な教室の雑談をこんな切り取り方で作品として成立させて、しかもそれがヒットしているという現実にただただ打ちのめされました。

往復書簡 限界から始まる
上野千鶴子/鈴木涼美(幻冬舎)

第三者が読んでいいのかと思うようなエピソードを連発しながら、女性が抱える問題を通じて、今まで気づかなかったことが次々と言語化されていく展開がスリリングでした。往復書簡という形式をとったことにより、上野千鶴子さんの凄まじさがより伝わります。

臨床人類学
アーサー・クラインマン著
大橋英寿/遠山宜哉/作道信介/川村邦光訳(河出書房新社)

こういうところで自社本を挙げたくないのですが、今年最も感動した本なので挙げざるを得ませんでした。様々な医療が混在する1970年頃の台湾を舞台に、西洋医では治せなかった患者がシャーマンによって癒される現場を目撃した著者によるフィールドワークです。

江口重幸さんの書評(https://web.kawade.co.jp/bungei/25357/)と、東畑開人さんの書評(https://bunshun.jp/articles/-/49720)も素晴らしいです。

まーごめ

 

 

赤い魚の夫婦
グアダルーペ・ネッテル著 宇野和美訳(現代書館)

日常の中で人間と動物の境界が曖昧になって行く様を、淡々としたモノローグでこともなげに描いた短編集です。不気味さと暖かい共感の同居する不思議な読後感でした。メキシコの作家ネッテルの作品は未翻訳のものが多く、彼女の他作品の翻訳がとても期待させられる作品で、現代ラテン・アメリカ文学の広大な可能性も感じさせられました。

営業部M

 

自転車泥棒
呉明益(文春文庫)
外文好き書店員さんから熱烈に勧められ購入。
昔父親が乗っていた古い自転車を探す主人公、探す過程で自転車に関わった人々の過去の話をつなぎ合わせて何かが見えてくる・・・。
久々に何度も読み返したいと思う本となりました。
 
営業村川
 
 

わたしたちがこの世界を信じる理由 「シネマ」からのドゥルーズ入門
築地正明(河出書房新社)

「とても読みやすいドゥルーズ入門だよ」とお薦めされた一冊。自分の頭がどれだけ内容を理解できたか心もとないものの、引き込まれてぐいぐいと読むうちに不思議と元気が出て、ドゥルーズの作品自体にも取り組んでみようと思わされました。

だいちょうことばめぐり
朝吹真理子・花代(河出書房新社)

「書いているあいだ、思い出の薄い幕を何度もめくりつづけているような気がしていた」(「あとがき」より)という朝吹さんの文章と花代さんの淡い写真を眺めるうちに、自分自身の幼い記憶も呼び起こされるような気がした。和菓子を思わせる繊細な装丁も素敵で、ずっと手元に置いて大切にしたい一冊です。

戦争とバスタオル
安田浩一・金井真紀(亜紀書房)

ジャーナリストと絵ッセイストの著者2人が、アジアや日本各地の温泉・銭湯を訪ねながらその土地の戦争の記憶を取材する本。風呂エッセイとしての読みやすさと、戦争体験者の重厚な物語が同居している。修学旅行で行った広島の大久野島(うさぎで有名。かつて日本軍の毒ガス工場があった)が登場し、懐かしさとともに「忘れてはいけない」という気持ちを新たにした。

編集部TH

 

サワー・ハート
ジェニー・ザン 小澤身和子訳(河出書房新社)

中国からアメリカへ移住した作家の、ダーティでビューティフルな自伝的短編集。何と言っても文章の勢い、キレの良さが素晴らしく、描かれている状況が悲惨に見えれば見えるほど、世界は美しく紡がれていくようです。

ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年
ショーン・バイセル 矢倉尚子訳(白水社)

「幸福」をあたえてくれる本です。2段組でページ数が多いことも読書の多幸感を高めてくれます。パンデミックのおかげで話題に上ることが多くなった『デカメロン』をめぐるエピソードなど読むと、世の中には描かれていない奇跡(大げさ)がきっともっとあるのだろうと、感じ入ったりします。

戦時の愛
マシュー・シャープ 柴田元幸訳(スイッチパブリッシング)

こんなに奇妙な短編集は久しぶりに読みました。正確には、読んでる途中。なんとなく、読み終えるのがもったいないような、文章を、味わっているうちに読み終えて不思議な余韻に浸る本です。

(-o-)

 
 
リサ・フェルドマン・バレット 高橋洋訳(紀伊國屋書店)
 
チゴズィエ オビオマ 粟飯原文子訳(早川書房)
 
和田靜香 小川淳也(取材協力) (‎左右社)
 
科学の世界はこれまでの常識が次々と上書きされていて本当に面白い。とても偏った視点で世界が動いていたことに気づかされ愕然とするのだが、細切れの研究で行き詰っていたことが全体の連携で見えてくる風通しのよさが存分に味わえる。女性の視点であることが大きいのかもしれない。文学ではピンチョンの新作では盛り上がったけれど、ナイジェリア出身の著者によるこちらに一票。アフリカの精霊による重層的な語りには惹きこまれた。コロナで政治的対応の不満ばかりが聞こえてくるのに、なぜたいして変わらないのか。政治にひとつの正解はないけれど、はじめは何が問題かも定かでなかった一人の女性が、全力でもんどりうって考え、ぶつかっていく姿がとにかく印象的。
 
営業H・N
 

非色
有吉佐和子(河出書房新社)

読み終わったあとで、この作品の主題がじんわりと心の芯に訴えかけてくる、そんな作品だと思います。
意識したくはないけれど、人間の奥深くに確かに存在してしまう性質。
自分の存在を肯定したいがために、自分よりも恵まれていない人、下に見る人を探してしまうこと。
「差別をテーマにした作品」というひと言では言い表せないくらい、鮮やかでリアルな表現。
普段は自分の中の奥の方に隠してあるものを言い当てられるような緊張感もあり、とても半世紀以上前に書かれたものとは思えないほど響きました。
復刊され、出会うことができて良かった。文学の力を改めて噛みしめました!

S.Sugiyama

 

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか
鈴木 忠平 (著) 文藝春秋

自分のことをほとんど語らない落合氏の哲学や人間性が垣間見れる。彼の奥底にあるマグマのようなプロ魂をひしひしと感じ、組織のリーダーとはどのようにあるべきか、その覚悟についても考えさせられました。

闇の盾 政界・警察・芸能界の守り神と呼ばれた男
寺尾 文孝(講談社)

こういう人って本当にいたんだというのが正直な感想。
実名がバンバン出てくる日本リスクコントロール社長寺尾文孝氏の自叙伝。

 

トッカイ 不良債権特別回収部
清武英利 (講談社)

バブル崩壊後、銀行も、そして政府もたじろいだ巨額の不良債権。その回収を任された中坊公平率いる住宅金融債権管理機構、のちの整理回収機構。泥沼の債権回収に奮闘した、男たちの物語。―知られざる「20年戦争」驚愕と感動の物語。

ノンフィクションの傑作です!

営業部SK

 

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた
和田靜香 小川淳也(取材協力)(左右社)

知らないことを逆手にとって、素人感覚そのままに進む筆。向こう見ずな著者の姿勢に若干引いたが、ページをめくるごとにその情熱があらわになる。政治家・小川淳也との問答。白熱した議論。ほぼ本能的におこなわれただろう取材で、現実的な問題がより明らかになった。

仏教の誕生
佐々木閑(河出新書)

ブッダは何を伝えたかったのか。その果てしない問いを、明瞭な言葉で解き明かす。神仏は特に信じていないが、仏教に親しみをおぼえた。釈迦の教えが2500年にわたって残った理由がよくわかる。知り合いの住職に薦めてみるつもりだが、釈迦に説法というやつか。

 

ウンコはどこから来て、どこに行くのか
――人糞地理学ことはじめ
湯澤規子(ちくま新書)

すべてウンコ視点なのだ。ウンコから経済を読み取り、歴史を語る。都市文明で人類は大量に排泄するようになり、近代社会はウンコまみれだ。トイレットペーパーの普及から公衆衛生まで、ウンコを連呼する本書で尻は拭けない。黄金の書だ。本棚に飾ってある。

 

編集D.T

 

往復書簡 限界から始まる
上野千鶴子×鈴木涼美(幻冬舎)

不特定多数への発信より、目の前にいる具体的なだれかに向けて、真摯に紡いだ言葉のほうがぐっと胸に沁みるという、当たり前だけれども忘れがちになってしまうことを思いながら読みました。同世代の友人らに配って歩きたい1冊。

 

家族の味
平野レミ(ポプラ社)

ぜんぶ良いのですが、巻末収録の清水ミチコさん・阿川佐和子さんとの鼎談がとにかく良いです。一筋縄ではいかなかった自分の人生を振り返りながら、あけすけに言い合ってワハハと笑える友人がいる…本当に憧れます。

営業部Y

 

東京の生活史
岸政彦(筑摩書房)
この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた
高橋源一郎/斎藤美奈子(河出新書)
生涯弁護人
弘中惇一郎(講談社)

ネットで読める名文・名作が増えた昨今、「本にする意味とは!?」を考えすぎてしまう日々。この3作は「1冊にまとめたからこそ!」と思える名著たちでした。

 それぞれ「東京」「小説」「事件」という視点から、長い長い観測を続けてきた記録(『東京〜』は150人の人生を150人が丁寧にインタビューするという少し特殊な観測の仕方で、またそこが素晴らしいのですが)。
1作に閉じ込めたことで、3作とも、意図した・しないに関わらず、時代の「感じ」が見えてきます。出来事や事件は覚えていても「感じ」って失ってしまいがち。この時代物心ついてたのに、と思うことしきり。
そして、時代の空気は、私達ひとりひとりが「とっさにどう感じてしまうか」によって醸成されてしまうものだということを痛感します。
たくさんの自分の知らない、違う考えを読んで、少しでもやさしい空気をつくる助けになりたいものです。

nmkt

 

ニール・ヤング 全公式音源攻略ガイド
和久井光司責任編集(河出書房新社)

バッファロー・スプリングフィールド、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング、そしてソロに至るまでのニール・ヤングの軌跡を網羅した完全ディスク・ガイド。サブスクリプション時代にはうってつけの本。

 

嫌われた監督
鈴木忠平(文藝春秋)

8年間中日の監督を務め、全てAクラス、4度のリーグ優勝、そして1度の日本シリーズ制覇を果たした落合博満。名将と言われる実績を残しながら、なぜ彼は世間からも球界からも嫌われるのか。落合博満の真実とは。

 

1974年のサマークリスマス
柳澤健(集英社)

ラジオの深夜放送華やかりし頃、TBSラジオで「パックインミュージック」のDJを担当していた林美雄。あのユーミンこと荒井由実(現・松任谷由実)を見出し、さまざまなサブ・カルチャーを若者に伝えた。時代と共に駆け抜けた男の評伝。

花房出雲

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三体Ⅲ 死神永生
劉慈欣(早川書房)
 
「前巻でほぼ完結してたでしょ?」と思って読んだら想像をはるかに超える面白さ。宇宙の果てまで連れて行かれてしまいました。
 
言葉を失ったあとで
信田さよ子 上間陽子(筑摩書房)
 
素晴らしい本でした。言葉は政治であり、説明しないのは暴力である。本書を読み、改めて自らを省みています。
 
問題=物質となる身体
ジュディス・バトラー(以文社)
 
ついに完訳ということで、出てすぐに買いました。力作。根性入れて読みました。
 
by あんこう鍋が食べたいです
 
 

 

レディメイド未来の音楽シリーズ CDブック篇
(オールデイズ・レコード)

今年1月から5月までの毎月と、11月に第6弾が発売された当シリーズのおかげで、この厄災の一年を乗り切ることができたと言ったら言い過ぎだろうか。

私にとっては各号60頁のブックレットが本編で、飽きたり、心躍ったりを繰り返しながら、まだまだ続くらしい人生のことを思い知らされる、さしずめ十数年ぶりの『うたとことば。』。勿論付録(?)のCDも全て最高に楽しい。

 

喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
山下賢二(夏葉社)

昨年大晦日にKBS京都でこの二人によるラジオの生放送があったと知り、少し経って出た本書。頁を開くにつけ、ラジオを聴けなかった悔しさに地団太する。120頁、素晴らしい佇まいの小品。

 

ファッション・クライミング
ビル・カニンガム著/渡辺佐智江訳(朝日新聞出版)

映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」を観て以来、その魅力の虜になったビル・カニンガムの自伝。映画を観た人なら一度は欲しくなった筈の青いフランス製ワークジャケットをついに購入し、一度だけ着た。

 

私にとっての「推し」とも言うべき存在に関する本が多く世に出た一年。

筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』(文春新書)や、『ツボちゃんの話』(新潮社)を通じ、旅立ってしまった私のアイドルのことを改めて考え、その在りし日の姿に思いを馳せたのも今年のことでした。

 

ぼちぼち再開し出した古書市で手にした二冊、いずれも1981年文藝春秋刊、いずれも後に河出文庫となった(現在品切れ)『セバスチャン』(松浦理英子著)、『父が消えた』(尾辻克彦著)の凛として美しい造本に心を奪われた2021年初冬。

40年の年月は私たちに何をもたらし、私たちは何を失ったのだろうかと考える。

2022年はどんな本と出会えるのやら。

 

経営戦略部 中山喬介

 

今年も長い記事にお付き合いいただきありがとうございました。
来年はますます張り切って、良い本をお届けできるよう、社員一同努めてまいります。

来年が今年より、あなたにとって良い年になりますように。心よりお祈り申し上げます。

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