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若さを武器にした作品を作れなくなっても――吉田恵里香さん寄稿・大前粟生『物語じゃないただの傷』ご推薦コメント全文

映画化もされた『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』でジェンダー差別に傷つく男性の姿を繊細に描き、話題を呼んだ作家・大前粟生さん。待望の新作『物語じゃないただの傷』は、「差別への抵抗・告発すらも金稼ぎの道具になってしまう」ことへの苦しみまでも捉える超衝撃作です。吉田恵里香さん(脚本家・NHK連続テレビ小説『虎に翼』アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』他)にお寄せいただいたご推薦コメントを特別に全文公開します。

 

 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の劇場映画公開に合わせて対談させていただいた時に、大前さんが仰っていたことが妙に記憶に残っています。それは『自身が歳を重ねて、若さを武器にした作品を作れなくなる』という一瞬の不安のものでした。今回、本作を拝読させていただき、やっぱりあの時話されていたことは杞憂に過ぎなかったじゃないかとニヤニヤしながら安堵してしまいました。

 だって『物語じゃないただの傷』は今の時代を生きる、今の大前さんだからこそ書けた物語だから。

 残念ながら、今の社会は、男性性への問題提起さえも批判や中傷を受けてしまいがちです。だから声をあげることは非常に重要であることは間違いありません。それが分かったうえで本作は問題提起のその先にある根っこの暗い部分に、疑問を投げかけていきます。その姿勢に大前さんの社会への怒りと自戒の念のようなものを感じました。減らないどころか増幅していく差別と偏見と、対話すらままならない相手への絶望を受け止めた先に、この物語が導き出した答えが全ての人の正解かは……正直分かりません。でも前向きで明るい一筋の希望の光のようなものが胸の奥に差した気が、私はしました。

  吉田恵里香

 

***
大前粟生『物語じゃないただの傷』は、2025年3月21日刊行です。

 

大前粟生『物語じゃないただの傷

“ポリコレ系”文化人×”弱者男性”芸人
自らの”傷”を利用する二人の男。歪な同居生活の行く末は――

 

「増幅していく差別と偏見と絶望を受け止めた先に、大前さんは一筋の光を見出す。」吉田恵里香(脚本家)
「この物語が届かない時代なら、もう本当に手遅れだ。」大島育宙(芸人)

 

「男の僕が有害な男性性を告発することが僕の大義なのだと、本気で思った。どこで間違った?」
“男のくせにフェミニストやポリコレにおもねった”発信でメディアに引っ張りだこの後藤。ある日、職も金もなく“報われない男”・白瀬が、後藤の秘密を盾に「お前の家に住ませてくれや」と脅迫してきて……。

 

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