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なぜ怖い? 人気作家陣の新作ホラーにジャンル解説がついた最恐アンソロジー 『ジャンル特化型 ホラーの扉』(株式会社闇・編著) 「はじめに」&解説パートを試し読み!

 

ジャンル特化型 ホラーの扉』は、心霊、オカルト、サスペンス……などホラーをジャンルで分類し、「なぜ怖いのか」を考察しながら、その抗いがたい魅力を紐解くアンソロジー集です。

 

ホラーの世界で素晴らしい作品を生み出し、活躍している作家陣が各ジャンルに特化した恐ろしい短篇を新規に書き下ろしました。

 

 

それぞれのジャンルの魅力解説によって、ホラー好きはもちろん、「ホラーが苦手」「興味はあるけど怖くて読めない」と感じているホラー初心者から楽しんでいただける入門書にもなっています。

 

「ところで‟ホラーを解説”ってどういうこと?」と思われている方も多いかと思います。本書より編著者の株式会社闇による「はじめに」およびジャンル解説の一部を公開します。

 

 

ジャンル特化型 ホラーの扉

===試し読みはこちら===

 

 

はじめに

 

お化け屋敷の入り口で通行人の行動を観察していると、興味深いことがわかります。
入り口の前を通る人の多くは、お化け屋敷に気づくと強い興味を示します。ですが、関心はあっても大半の方は体験することなく別の場所へ去って行ってしまいます。友人同士でもカップルでも概ね反応はこのようなものです。
「あ、お化け屋敷あるよ」「うわ、ホントだ」「どうする?」「えー、辞めとこう」

 

興味はある、だけど体験するのは躊躇われる、このような反応はお化け屋敷に限らず、ホラー映画やホラーゲームなどホラーにまつわる表現の前ではよく見られる光景です。
ホラーは興味と行動の比率が他のエンターテイメントと圧倒的に異なるようです。

 

私は、ホラー専門の会社「株式会社闇」代表の頓花聖太郎と申します。
ホラー好きが高じてホラーだけを業務とする会社を2015年に設立しました。私たちはお化け屋敷やホラーイベントを数多くプロデュースしたり、ホラー映画やホラーゲームなどを宣伝する仕事をしています。そういった中で、さまざまなメディアでホラーの魅力を伝える活動をしてきました。ですがその活動を通じてホラーの課題が浮き彫りになってきました。
それは冒頭にお伝えした通り「ホラーは強い関心を持たれながらも、体験してもらえないケースが多すぎる」ということです。ホラーに携わる者としてなんとも悔しい思いをしています。

 

なぜ、このようなことが起こるのか。その原因の一つとして、ホラーがその言葉の中に多種多様なジャンルを包括しており、自分に合ったホラーと出会いにくいからではないかと考えました。

 

多種多様の例として、私がぱっと思いつくホラーのジャンルを並べてみることにしましょう。
心霊ホラー、サイコホラー、オカルトホラー、モンスターホラー、アニマルホラー、サスペンスホラー、パニックホラー、因習村、SFホラー、コズミックホラー、シチュエーションホラー、ゴシックホラー、デスゲーム、スプラッター、モキュメンタリーホラー、怪談……

 

キリがありませんね。このように多くのジャンルを挙げることができます。
そして、驚くべきことに同じホラーでもジャンルごとにその魅力や楽しみ方が全く異なります。ホラー好きの方でも「幽霊は好きだけどグロは駄目だ」という人もいます。
また逆のケースもよく聞きます。ホラーの魅力は一括りにできないジャンルごとの壁があるようです。

 

複雑に入り乱れるジャンルごとの楽しみ方を語り尽くすのは至難の業です。そこで本書では代表的なジャンルに特化し、それぞれの入り口を用意してみることにしました。
ただしジャンル分けというのも定義や境目が難しい問題を抱えています。そこで「何が恐怖の根源か」という判断基準を設け、「5W1H」を基準に分類することにしました。
恐怖の対象が「人」なら「Who型」、恐怖の対象が「理由」なら「Why型」、恐怖の「表現方法」がポイントなら「How型」といった分け方です。
そのような形で分類すると、カオス状態だったホラージャンルも少し整理ができます。
 ■Who型(恐怖の根源が「人や幽霊」):心霊ホラー、サイコホラー
 ■What型(恐怖の根源が「人以外」):オカルトホラー、パニックホラー、モンスターホラー、アニマルホラー
 ■Why型(恐怖の根源が「理由」):サスペンスホラー
 ■Where型(恐怖の根源が「場所」):シチュエーションホラー、デスゲーム、コズミックホラー、因習村
 ■When型(恐怖の根源が「時」):SFホラー、ゴシックホラー
 ■How型(恐怖の根源が「表現方法」):モキュメンタリーホラー、怪談、スプラッター
 ※ただし、あくまでこれは一つの解釈であり、作品によっては複数のカテゴリにまたがることがある点に注意してください。

 

これから代表的なジャンルをいくつかピックアップし「このジャンルにおける恐怖の根源とはなにか」、また「その魅力や楽しみ方」を深掘りして解説していきます。
そして本書の特筆すべき点は、それぞれのジャンルごとに、日本を代表するホラー小説家や気鋭のホラー小説家による書き下ろし短編小説をジャンル解説前に収録していることです。彼らの素晴らしいホラー作品によって、各ジャンルの魅力と特徴がより深く掘り下げられ、ホラー理解の助けとなることでしょう。

 

本書はホラーの解説書でありながら、良質のジャンル特化型ホラー小説アンソロジーになっています。順番通り読み進めるのはもちろん、自分の興味あるジャンルから読み始めるのも良いでしょう。また今まで興味がなかったジャンルにあえて挑戦するのも、新たなホラーの魅力に気づく良いきっかけになるかもしれません。怖がりな方はジャンル解説を読んでから、短編小説を読むという楽しみ方もアリです。ホラーの楽しみ方は自由ですから。

 

それでは、どうぞ扉を開けてみてください。

 

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【心霊ホラー】解説前半を試し読み

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ホラーの代表的なジャンルである「心霊ホラー」。わかりやすく定義すると「幽霊」がもたらすホラーのジャンルです。みなさんにとって一番わかりやすいホラージャンルかもしれません。5W1H型で分類するホラーの枠組みとしては「Who型」にあたります。
「恐怖を作り出すものは何?」という問いに対し「幽霊が恐怖を作り出す」のだと言えるでしょう。死者の霊がもたらす心霊現象、そこから生じるドラマを楽しむ物語構造となっています。

 

■日本人の感性に合う心霊ホラー

心霊ホラーはホラージャンルの中でも特に人気を博しています。では心霊ホラーはなぜ読者を惹きつけるのでしょうか。
一言で言えば「純粋に怖いから」です。このジャンルにおいて恐怖をもたらす存在は、肉体を持たない死者の霊です。ホラーに登場する多くの幽霊は、強い恨みを胸に秘めており、その呪いの力が精神的な攻撃となって登場人物を襲います。幽霊は肉体を持たないため、彼らは物理法則に縛られることなく行動し、襲いかかってきます。幽霊がいつ襲ってくるのか、どのように防げば良いのかがわからないという不確実性が恐怖を増幅させます。

 

また心霊ホラーは日本の怪談文化と深いつながりがあります。日本の怪談では「力強いモンスター」より「弱者がゆえに恨みを持った幽霊」が数多く登場します。
伝統的な怪談「四谷怪談」や「皿屋敷」でも幽霊の正体はか弱い女性です。彼女らは強い怨念を抱いており、また恨む理由が明確です。どうやら私たちは昔から「物理的な暴力」よりも「精神的に恐怖を与あたえる幽霊」を怖がってきたようです。そして、「言葉の通じない暴力」より「共感ができる恐怖」の方により怖さを感じるようです。日本は島国ゆえに、異文化からの侵略よりも同族同士の争いが多かったので、その歴史背景に影響を受けているのかもしれません。日本では心霊ホラーがはるか昔から愛されてきたのです。

 

心霊ホラーには死者の霊が描かれることから、死にまつわる人間ドラマが織り交ぜられることが多く、これにより物語はさらに深みを増します。幽霊の願望は、生者の罪を暴くことや復讐することであり、物語には悲しみや苦しみといったドラマティックな要素が盛り込まれます。読者は心霊ホラーを通じて、悲劇や愛憎劇、復讐劇など濃密な物語を味わうことができます。心霊ホラーと一口に言ってもその設定や筋書きは多様で、それぞれ独自の魅力を備えていますが、いずれも根底には「幽霊」がもたらす恐怖というものが横たわっており、それが読者を惹きつけて止まないのです。

 

「心霊ホラー」の書き下ろし作品は……
澤村伊智 『みてるよ』
⇒誰もいない廊下で教室を覗き込む不気味な男子。
その正体をめぐる噂はどこまでも広がり、学校中を恐怖に巻き込んでいって――。
(解説後半および作品本編は本書でお楽しみください)

 

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【オカルトホラー】解説前半を試し読み

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「オカルトホラー」を定義することは、なかなか難しい課題です。オカルトという言葉自体はラテン語の「occulta(隠されたもの)」を語源としていますが、オカルトホラーにおけるオカルトが具体的に何を指すのかについては多種多様な解釈が存在しています。
ここでは心霊ホラーなど他の類似ジャンルと明確に区分しつつ、比較的広めの解釈として「神や悪魔や宗教的な存在が恐怖の源泉となるホラージャンル」としてオカルトホラーを定義しましょう。一個人が影響を及ぼす「Who型」よりも広範囲な影響力を持つ「What型」と言えるでしょう。

 

■未知なるものへの恐れと好奇心

このジャンルの特徴は、人智を超越した存在が物語に大きな影響を及ぼし、非現実的で恐ろしい事象が展開されることです。ここで描かれる超自然的な存在は、人間由来の幽霊よりも規模が大きく、自然災害に対するような畏怖の念を引き起こします。もともと私たちは本能として「未知のもの」への恐怖を根底に持っています。
オカルトホラーではその未知なるもののスケールが大きく描かれ、結果として読者に圧倒的な恐怖を与えます。
さらにオカルトホラーでは現実世界を舞台にした物語では描くことの難しい、未知なるものに翻弄されながらも必死に抗う人間のドラマを描くことが可能です。立ち向かう存在のスケールの大きさゆえに、壮大な仕掛けや演出を駆使できるわけです。
私自身も少年時代からオカルトに魅了された一人です。オカルトには未知への畏怖だけでなく人間の根源的な好奇心を搔き立てる力があることを実感しています。
オカルトホラーは純粋な恐怖だけでなく、人間の内に秘められた好奇心をも刺激する物語を紡ぎ出します。

 

「オカルトホラー」の書き下ろし作品は……
芦花公園 『終わった町』
⇒皐月が死んだのは七月の頭だった。
閉塞感漂う「どん詰まり」の町は、ある出来事を境に徐々におかしくなっていく。
(解説後半および作品本編は本書でお楽しみください)

 

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【怪談】解説前半を試し読み

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「怪談」とは一般的に怖い話の総称ですが、ここでは日本古来から続く恐怖話芸や、口承された恐怖譚をジャンルとしての「怪談」と呼ぶことにしましょう。またここでは最近特に注目を集める「実話怪談」と呼ばれるジャンルをより深く解説していこうと思います。恐怖は物語から生まれますが、その「語り方」からも生まれるものです。5W1H型で分類するホラーの枠組みとしては、恐怖を「どのように表現するか」から発生するため怪談を「How型」として分類します。

 

■リアルな語りが聴き手を恐怖に引き込む

江戸の昔から「四谷怪談」や「皿屋敷」、「牡丹灯籠」など数多くの有名な怪談が存在します。怪談は日本において夏の風物詩であり、涼を感じる粋なイベントとして愛されてきました。夏になると仲間同士が集まって怪談を語り合う光景は今でも当たり前に見られます。怪談の面白い要因の一つは、同じ内容の怪談でも、語り手によって怖さが大きく異なることです。「どう語るか」が重要なのです。

 

近年では、怪談の中でも実話怪談というスタイルが特に注目を集めています。語り手自身が体験した話や、誰かの体験談を実際に取材し、そのまま語るものです。
徹底的に実話にこだわる姿勢が特徴で、これがリアルな恐怖感とともに信頼性を創り出し、聴き手に強い印象を与えます。
 実話怪談は、当たり前ですが実際にあったエピソードを元にしているため、内容に劇的な展開がない場合もありえます。そのため、興味を持って聴いてもらうために語り手の技術が強く求められます。声色を使い分け擬音を駆使し、その場の空気をありありと再現することで聴き手をその世界に引き込まなければなりません。

 

「怪談」の語り下ろし作品は……
田中俊行 『学校の怖い話』
⇒「実話怪談」界隈で頭角をあらわす怪談師が臨場感たっぷりに披露するほんとうにあった怖い話。
(解説後半および作品本編は本書でお楽しみください。また本書から実際の語りをダウンロードして聴くことができます)

 

―――――

 

【『ジャンル特化型 ホラーの扉』もくじ】

 

はじめに

 

■Who

『みてるよ』 澤村伊智 

【作品を読み解く】心霊ホラー

 

■What

『終わった町』 芦花公園 

【作品を読み解く】オカルトホラー

 

『さよならブンブン』 平山夢明

【作品を読み解く】モンスターホラー

 

■Why

『告発者』 雨穴

【作品を読み解く】サスペンスホラー

 

■Where

『とざし念仏』 五味弘文

【作品を読み解く】シチュエーションホラー

 

■When

『一一分間』 瀬名秀明

【作品を読み解く】SFホラー

 

■How

『学校の怖い話』 田中俊行

【作品を読み解く】怪談

 

『民法第961条』 梨

【作品を読み解く】モキュメンタリ―ホラー

 

おわりに

 

もっとホラーを楽しむためのブックガイド

 

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続きは単行本
ジャンル特化型 ホラーの扉お楽しみください
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著者

株式会社闇 編著

ホラー×テクノロジー「ホラテク」で、新しい恐怖体験をつくりだすホラーカンパニー。「怖いは楽しい」で“世界中の好奇心を満たす” をミッションとして、お化け屋敷など様々な場所でホラーをプロデュースする。

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