ためし読み - 日本文学

最果タヒさんの最新エッセイ集『恋できみが死なない理由』刊行記念・試し読み第1弾!

 

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恋できみが死なない理由
最果 タヒ

 

マイ・スイート・派手

 私は感情の起伏が激しくてなんでも気持ちが強まりやすく深まりやすいのだけど、最近これは「心が派手」ということなんだなと思うようになった。ド派手なハート。心が派手なので詩人をやっている。思い詰める、とか、思い込みが激しいとか、よくある言葉をこれまでは使っていたけれど、詰めてるつもりも込めてるつもりもなくて、私の心の中はいつももっと花火大会なのだ。好きも嫌いもはっきりあって、嬉しいも悲しいも大きくあって、私の人生が、私の感情によっていろどられていると思う。私は静かに淡々とすべてを乗り越えていけるようなそんな人にはなれなかったし、そういう人に心底憧れているけれど、同時に自分の心の、この、「派手」としか言えない扱いづらさが大好きだった。込めたり詰めたりしてないで花火なのも大好きだった。それは恵まれているからかもしれない、それなりに平穏に生きていられるから、花火が明るい気持ちもたくさん打ち上げていて、派手さに苦しんでばかりの24時じゃないからかもしれないけど。そしてだからこそ、悩んで頭がぐるぐるすることさえ好きなのだ。私はなんでこんなに一つのことに集中して、いちいち考え込んで苦しむんだろう、とは思うが、もっと悩まない人間になりたい、と願ったことがそういえばない。悩み切った果てで急にケロッとしてしまうところがあるからかもしれないな。私は悩み過ぎて一気に発火する自分も好き。突破するように言葉を書く自分も好き。全てが発熱していて、今にも光の速度に突入しそうな感情が大好き。どんなにつらくても、自分の考え過ぎなところに苦しんでも、私は前向きになりたいわけでも明るい人になりたいわけでもなく(というか私は明るいつもりだ!)、自分の性格は今のままでOKで、暗くなるような要因が起きなければいいのに……としか思わない。派手なおかげなんだと思います。思い切り自分の気持ちに「たまや~!」と言えるから、悲しみや怒りそのものにはゲンナリしても、私は私を嫌いにはそんなにならない。
 人間生活を堪能している。

 

 自分がなんにもうまくやれないことに反省することも多いけれど(人生は感情を味わうためだけにあるわけでないので、花火なんて打ち上げてる場合ではないことの方が多いから)、自分のことをいちいち「どうして」と思うことは減った。私は私をやってなかなか長いし、いい加減もう「どうして」と思ってもいられないというか「またか~」と思うことの方が多い。私はそういうシステムエラーが出る人間なのだとちゃんとわかってきている。そう、理解してしまえば、私は私を愛せるのだ。
 派手! と言えてから、だいぶ私を素直に好きになれたよ。
 自分を愛せないのは、自分を見る時間が人は一番少ないからかもしれないな。鏡を見る時間しか顔を見る時間がないくらい、人は自分の内面のこともちゃんと、「理解」という視点で見る機会を持てないのだろう。私はずっと自分のこのすぐ怒ったり喜んだり悲しんだり悩んだり楽しんだり全部極端なところが怖かったのだが、あっという間に終わる花火だとわかってからは面白い人間だなと自分に思うようになってしまった。他人には迷惑かけてしまうことは(できるだけ抑えてるけど)きっとあるだろうし、反省はいるんだけど。でも、それでも私は派手さを恥じなくていいとは思うようになった。気遣いは他で必要だが。
 わかる、なんて簡単には言えないのが人間だけれど、わからないと見捨ててしまわないで、「わかったかも」と一旦思ってみて見つめてみるのはたぶん愛の第一歩で、やってしまった時に「またやってる」と言えるだけで愛になったりする。心が派手。そう思えただけで、私の人生はだいぶ変わった。私は私であることに躊躇ちゆうちよがなくていいな。あとは、もっと優しくなれたらいいね。

 

===続きは単行本『恋できみが死なない理由』でお読みください===

 

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著者

最果 タヒ(さいはて・たひ)

詩人。中原中也賞・現代詩花椿賞などを受賞。主な詩集は『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』。詩集の他に小説、エッセイ、絵本(『ここは』絵=及川賢治)など著書多数。

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