文庫 - 外国文学
小説の予言通り…!? 5/7フランス大統領選最終決戦へ。ウエルベックとともに、終わったはずの小説は不敵な笑みを浮かべつつ蘇るーー
野崎歓
2017.04.26
『服 従』
ミシェル・ウエルベック 大塚桃訳 佐藤優解説
世界を揺るがす衝撃のベストセラー、緊急文庫化!
2022年6月、極右・国民戦線マリーヌ・ル・ペンと穏健イスラーム政党党首がフランス大統領選の決選に挑む。しかし各地の投票所でテロが発生。国全体に報道管制が敷かれ、パリ第三大学教員で19世紀の文学者を研究するぼくは、若く美しい恋人と別れてパリを後にする。テロと移民にあえぐ国家を舞台に、個人と自由の果てを描き、世界の激動を予言する問題作。
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極右の台頭は事を少しばかり興味深くはした。討論の中に、忘れられていたファシズムの恐怖が滑り込んできたからだ。しかし、はっきりと変化が訪れたのは2017年の大統領選の決選投票だった。(…中略)投票に続く何週間かの間、奇妙に抑圧的な雰囲気が国内に広がった。それはまるで、叛乱のほのかな希望が現れては消える、息詰まるラディカルな絶望にも似ていた。(本文より)
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刊行に際し、野崎歓さんよりいただいたコメントを特別公開いたします。
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小説の生命力
野崎歓(フランス文学者)
終わりの始まりを描く。それがウエルベックの自らに課してきた使命である。だがフランス共和国のイスラーム化という大胆きわまる設定のもと、ヨーロッパ文明の終焉──ないしは「安楽死」?──を悲痛に物語るかに見えて、実は小説という、まさしく西欧的な産物の健在ぶりを示すところに作者の凄腕を感じる。なるほど、もはや政治にも宗教にも社会を束ねる力は残っておらず、主人公の文学部教授が示すとおり、学問にも知性にも期待はできないのかもしれない。だがそうした苦境を一見鬱々と、しかしユーモアもにじませて描き出すことで、小説は自らのしぶとく、しなやかな生命力を証しだてる。ウエルベックはプルーストでも、サルトルでもなければ、もちろんロブ=グリエでもない。ウエルベックは現代のバルザックなのであり、十九世紀以来の形式に焦眉の社会問題を激突させることでロマンを鍛え直す。ウエルベックとともに、終わったはずの小説は不敵な笑みを浮かべつつ蘇るのだ。
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★本書収録の佐藤優さん解説も Web河出で近日公開予定です!