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いま話題の『戦力外捜査官』連続文庫化&新作刊行! 第1弾試し読みを公開

いま話題の『戦力外捜査官』連続文庫化&新作刊行! 第1弾試し読みを公開

テレビドラマ化もした人気の警察小説シリーズ!
推理だけは超一流のドジっ娘メガネ美少女警部とお守役の設楽刑事の凸凹コンビが難事件に挑む!

戦力外捜査官 姫デカ・海月千波

第1弾の試し読みはこちらから↓

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(今なら第1回〜4回まで無料で読めます!)

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プロローグ

 

強い雨が降っている。大粒のしずくが無数の線になって垂直に落ち、車の屋根ではじけ、黒く濡れたアスファルトに飛び散り、水溜まりに絶え間なく波紋を作る。高宮たかみやはわずかに体を曲げて、車窓越しに外の空を見上げた。空はべったりとした鼠色一色で、濃淡がないため雨雲が動いているかどうかも分からない。この先何時間経っても何日経っても空はこのままで、雨が上がる日など永遠に来ないのではないか。そう思える空模様だ。やまないまでも、もう少し雨脚が弱くなってはくれないものだろうか。

高宮は視線だけ車内を巡らせ、隣の運転席にいる若い刑事と、後部座席にいる古森ふるもり主任刑事を一瞥した。この二人も、できれば行動開始の前に雨がやんでほしい、という思いは同じはずだった。雨が好きな警察官などいない。雨はあらゆる証拠を無慈悲に流してしまう。足跡も、血痕も、事故車両の塗料片も。それだけではない。要人の警護から交差点での交通整理まで、あらゆる場面で雨は警察官の邪魔をする。持ち場を動くことができない人間に容赦なく打ちつけ、熱と体力を奪い続ける。高宮自身、機動隊時代に大盾をかつぎながら雨の中を移動することになり、顔のしぶきを拭うこともできないまま細目を開けて一時間以上歩き続けた経験があった。キャリアである管理官たちはどうだか知らないが、少なくともこの車に乗っている三名はどこかで似たような経験をしているはずだった。だから警察官は本能的に雨を憎み、忌み嫌う。

「……この雨、やんでくれませんかね」

やはり同じことを考えていたらしく、運転席の刑事が誰に言うでもなく呟いた。

「この雨のおかげで堂々と路上駐車できる」後部座席の古森がいつも通りの、感情を込めない声音で言う。「そう恨みなさんな」

事実、古森の言う通りではあるのだ。高宮は視線を空から目の前のマンションに移し、小さく息を吐いた。午後三時過ぎという時間帯だが、朝から降り続くこの雨のおかげで周囲には通行人の姿がなく、そのため周辺住民に注目されることなく捜査対象者マルタイ宅付近に駐車できている。捜査車両が長時間路上駐車していたため、周辺住民に不審がられて捜査に支障をきたす、という間抜けな事例もないわけではないのだが、少なくとも今、ここでは御免こうむりたかった。

今から十八日前の早朝、東京都青梅おうめ市の郊外で、ジョギング中の男性が六、七歳ぐらいの少女の遺体を発見した。少女は手で首を絞められて殺され、河原の草の中に倒れていた。強姦された形跡はなかったが、下半身が裸にされており、遺体の横に捨てられていた下着の一部が破れていたことから、何者かにわいせつ行為をされ、その過程で抵抗したため殺害されたものと推測された。

青梅西署に特捜本部ができ、刑事部長及び捜査一課長の指揮の下、大規模な捜査態勢がとられた。被害者が少女であること、わいせつ目的の犯行とみられたことなどから、事件は大きく報道された。警察にも相応のプレッシャーがかかったが、これまでのところ捜査は順調に進んできている。

被害者の特定はすぐにできた。同市内に住む石田莉亜いしだりあちゃん七歳。夕刻、近所の英会話教室を出たまま家に帰らず、両親が捜索願を出していた。明らかにわいせつ目的という事案だったため、警察はすぐさま近隣の性犯罪前科者や女児に対する声かけ事案等を照会し、周辺地域の聞き込みから、事件発生時、現場付近から逃げ出すように走り去る若い男の情報を掴んでいた。また犯人のD N Aは採取できなかったものの、遺留品として人気アニメーション「魔装天使まそうてんしクラン」のキャラクターがプリントされたハンドタオルが発見されており、これが犯人像を絞り込む有力な手がかりとなった。

遺留品のハンドタオルはネット通販等で不特定多数に販売されていた上、現場周辺に前科所持者や声かけ事案等が出てこなかったため、すぐに容疑者特定というわけにはいかなかった。だが、警視庁捜査一課、青梅西署刑事課の他に近隣署の刑事課員から地域課員まで動員しての大規模かつ地道な聞き込みが功を奏し、犯人とみられる男の「顔にあざのようなものがあった」という重要な証言が出た。捜査は一気に進展し、容疑者として五十畑健太いそはたけんた(一七)が捜査線上に浮上した。五十畑には事件発生時のアリバイがない上、現場付近を手ぶらで歩いていたところを目撃されており、また、アトピーのため顔に大きな湿疹ができていた。被害者と同じ英会話教室に通う子供が、公園内で子供たちを見ている五十畑を目撃したという証言もあった。警察は五十畑を西青梅少女殺害事件の重要参考人に指定した。

現在、高宮たちは五十畑健太の身柄を押さえるべく、彼の自宅周辺に配置されていた。住所ははっきりしており、非力な少年であることも分かっていたが、未成年であるため、ことは慎重に進められている。五十畑健太の氏名その他を公表しないことはもちろん、いきなり逮捕という手段に出ず、まずは任意同行という形で事情聴取、という選択がされた。もちろん、これから数分のうちに高宮たちが五十畑宅に行き、彼の任意同行を求めることは、マスコミに対し秘匿されている。

「ベランダ班、遅いですね」

「焦るな。どうせ逃げられやせんさ」

運転席の刑事が焦れた様子で言うのに対し、古森が落ち着いて彼をなだめた。実のところ高宮も、窓の外を見ながらまだか、早くしろ、と念じているのだが、口には出さない。

マンションの玄関及び非常口にはすでに係員が配置され、万一の逃亡に備えていたが、事件の性質と、対象が未成年であることから、さらに慎重な配置がなされた。五十畑宅は六階だったが、警察が来たことによりパニックになった彼がベランダ方向から逃走しようとすることも考えられた。警察の動きはマスコミが鵜の目鷹の目で見ているから、重参が六階のベランダから文字通り飛んで確保失敗、などということになったら大問題になる。何か対策をとる必要があったのだが、幸い、先行した係員が管理人に確認した結果、五十畑宅の隣が空室であることが分かったため、本部にいる捜査一課長は、係員二名をあらかじめ隣室のベランダに待機させることにしていた。だが、その班からの「配置完了」の連絡がまだない。

外の雨脚は相変わらずだった。運転席の刑事は苛々しているのか、ハンドルをこつこつと指で叩き、古森が苦笑しながらそれを見ている。高宮もずっと落ち着かなかった。任意同行とはいえ、大々的に報道され特捜本部が立つ事件の被疑者。こんな大物の身柄を確保するという重大な役を任されたのは初めてだった。

ジャケットのポケットに入れている無線機が、がっ、と鳴って音声を伝えた。高宮のしているイヤホンにも音声が入る。〈ベランダ班、配置完了〉

高宮の体に緊張が走る。一瞬のうちに、他の二人の表情も厳しいものになった。無線には続けて、少し離れた場所に停めた車両から現場指揮をしている係長の声が入った。〈こちら現場。配置完了〉

〈了解〉本部で総指揮をとる捜査一課長の声がそれに続く。〈行動開始。確保しろ〉

高宮は窓から周囲をうかがって通行人がいないことを確かめた。見られてもどうということはないが、できる限り穏便にという指示だ。後部座席の古森と頷きあい、車両のドアを開ける。

運転席の刑事が言う。「頑張ってください」

「了解」

なんとも可愛らしい応援の言葉だが、高宮にもそれをからかうほどの余裕はない。「移動してもらうかもしれないから、無線から耳、離すなよ」

「はい」

傘を開いて外に出ると、雨脚は車内で感じていた以上に強かった。ざあっ、という音が耳を覆い、雫の当たる振動がさした傘から伝わってくる。高宮と古森は自然と早足になった。マンションのオートロックは管理人の手で解錠されている。エレベーターを待ちながら、ひどい雨ですね、と囁きあう余裕ぐらいはあった。大の男が二人、目を血走らせて押し黙っていたら、それだけで住民に不審がられてしまう。

エレベーターで六階に着き、古森の「これから接触する」という声にベランダ班が〈了解〉と答えるのを聞きながら廊下を歩く。五十畑の表札を確かめ、古森がインターフォンを押した。

「ごめんください。警察の者ですが、少しお話を伺えないでしょうか」

本当のところは警察官だと名乗りたくはなかった。実際、逮捕の時ならば、集金人や宅配業者を装ってドアを開けさせる手があるのだが、任意同行でその手は使えない。一方で、「警察だ」と素直に名乗った場合、応対に出た人間が素直に長男を差し出すとは思えない。高宮たちには、任意同行ゆえのジレンマがあった。

そこで、捜査一課長が狙ったのが今日のこの時間帯だった。日曜のこの時間、父親はスポーツクラブに、弟は習い事に、母親もパートにそれぞれ出かけているはずであり、家には五十畑健太一人しかいないはずだった。親を介入させずに直接接触することさえできれば、相手は所詮、少年だ。少し威圧するだけで、いくらでも言うことを聞かせられる。

無論、口うるさい人権派が知ったら捜査の適法性を問題にしかねないやり方である。だから少なくとも、ドアを開けさせるところまでは穏便にやる。この家にもすでに一度、係員が聞き込みに来ているから、ただの聞き込みだと思って姿を見せてくれれば万々歳、そうでなくとも靴先を挟める程度にドアを開けさせることはできるだろう──という、捜査一課長のぎりぎりの判断だった。

ドア越しに近づいてくる足音が聞こえ、少し間があった。魚眼レンズから覗いているのだろう。さて、どう出るか──高宮は意図的に表情を緩めながらも緊張していたが、ドアはすんなりと開いた。

「どういう御用件でしょうか」

だが、出てきたのは五十畑健太本人でなく、その父親だった。高宮はとっさに隣の古森と視線を合わせる。──どういうことだ。いないはずじゃなかったのか。

高宮は心の中で舌打ちした。おそらく、雨のせいで予定を変えたのだろう。

こうなれば父親を説得するしかなかった。古森が切り出す。「お休み中のところすみません。青梅西署の者です。少しお話を伺いたいんですが、健太君は御在宅でしょうか?」

「おりますが」スウェット姿の父親は眉をひそめた。「健太が、何か」

「いえ、少しお話を伺いたいのですが」

「話って」そこまで言った父親の表情が変わった。「まさかこの間の事件のことですか。うちの健太を疑ってるんですか」

「いえ、お話を伺うだけです。息子さん、事件について何か見たようなことを言っておりませんでしたかね?」

古森は表情を崩さずに応答していたが、明らかにまずい雰囲気になっているのは高宮にも分かった。ここで任意同行を拒否されてしまえば、逮捕状が下りるのを待ってからあらためて来なくてはならない。だがその前に父親は五十畑健太に、警察が来たことを話すだろう。それを聞いた五十畑健太がどう反応するか。何しろ未成年なのだ。どんな行動に出るか分からない。

やっぱり最初から逮捕にしときゃよかったんだ。これだからキャリアの判断ってやつは──今更のように高宮は、任意同行という形を選択した捜査一課長を恨んだ。

古森はまだ粘っていたが、父親の反応はすでに攻撃的なものになっていて、こちらの話は全く聞いてもらえそうになかった。出直しますか、と問うつもりで目配せしたが、古森はそれにも気付かないようだ。

父親の声が聞こえたのだろう。廊下の奥から五十畑健太が出てきた。

想像通り、繊細でひ弱そうな少年だった。顔のアトピーはそう派手ではなかったが、これなら確かに「痣のようなもの」と見られてもおかしくはない。

五十畑健太は高宮たちの姿をみとめると目を見開き、さっと体を強張こわばらせた。刑事たちが何の用件で訪ねてきたのか、察知できている人間の反応だということはすぐに分かった。父親を相手に粘っている古森にも、同じことが分かっただろう。

だがそれでも、今は任意同行を「お願い」することしかできない。

「なんだか知らないが、任意なら行く義務はないんでしょう。健太は──」

父親が古森に強い調子で言っている。このままでは無理だな、と判断した高宮はとっさに、奥の五十畑健太本人に向けて言っていた。

「健太君だね。お父さんと一緒に、警察署まで来てくれるかな?」

古森が高宮を見た。

──おい、親父まで連れてこいとは言われてないぞ。

──仕方ありませんよ。このままじゃらちがあかない。

高宮は視線でそう返し、それからあらためて五十畑健太を見た。もう一度目を、正面からまっすぐに。

五十畑健太は恐れたようにすぐ目をそらしたが、父親がそちらを振り返って「健太、部屋にいなさい」と言うのを聞くと、顔を上げた。

「分かりました。今行きます」

父親も古森も黙った。五十畑健太は明らかに青ざめた顔をしていたが、はっきりと父親に言った。「大丈夫。一人で行く」

古森が横目で高宮を見て、ひゅう、と口を尖らせてみせた。

親の前で、自分を訪ねてきた刑事から事件のことをあれこれ訊かれるのは、五十畑健太も望まないはずだ。そう考えて本人に直接訊いた高宮の判断は、どうやら当たったらしかった。

着替えてきます、と言って五十畑健太が廊下の奥に姿を消すと、古森が高宮の脇腹に肘打ひじうちを入れてきた。人を褒める時の古森の、やや乱暴ないつもの癖だった。「うまくやったじゃないか。確保の第一声はお前にくれてやる」

「はい」

高宮は頷いた。マスコミを騒がせている重大事件。その被疑者の身柄を「確保した」という報告を、この自分がするのだ。月面に降りたアームストロング船長になった気分だった。

古森は付け加えた。「まだ分からん。途中で気が変わるかもしれんから、油断するなよ」

出てきた五十畑健太は青ざめた顔をしていたが、いきなり逃亡するようなおそれはなさそうだった。ただ、やはり相当動揺しているようで、父親を振りきってマンションの玄関まで来たところで、初めて傘を持ってきていないことに気付いた。

今、戻らせると気持ちが揺らぐかもしれない。高宮は黙って彼の頭上に傘をさしかけた。反対側では古森が、外から見えないように体を密着させながらも、がっちりと五十畑健太のベルトを掴んでいる。高宮は無線機に向けて「確保」の一声を吐きたいのをこらえた。隣にいる被疑者本人に聞かせたい言葉ではない。

雨はまだ強く降っていた。二つの傘に三人の人間が入り、背中を丸めて小走りになる。後部座席に古森と五十畑健太を押し込み、高宮は車の外で、ポケットから無線機を出し送信モードにする。ドアが閉まっていることを確認してから、ようやく本部に向けて、待ちわびた一声を言えた。

捜査対象者マルタイ確保」

応答したのは捜査一課長だった。〈よくやった。様子はどうだ〉

「落ち着いた様子です。これより本部に移送します」

高宮のような平刑事にとって、本部の捜査一課長などほとんど雲の上の人だ。それが直接、よくやった、と褒めてくれた。

今夜は祝杯だな。車の反対側に回り込みながら、高宮は高揚した気分で顔を上げた。

車から少し離れた所に、赤い傘をさした少女が立っていた。

高校生だろうか。可愛らしい少女だった。ちょっと買い物にでも出てきた、という恰好だから、この近所の子なのだろう。

だが、彼女はこちらを凝視したまま、呆然としたような表情で突っ立っている。彼女の視線は車内に注がれていた。

──五十畑健太を見ているのだろうか?

連れてくる時から見ていたのだろうか。確保時、周囲には誰もいないと思っていたが、車の陰になっていたのかもしれない。まさか、関係者か? どうする。声をかけようか。

高宮は一瞬だけそう思ったが、車内から「早くしろ」と言われてすぐに我に返り、濡れた体を後部座席に押し込んだ。

古森は体をねじり、リアウィンドウ越しに後ろを見た。

「あの女の子、どうかしたか」

「いえ」高宮は首を振った。「行きましょう」

運転席の刑事が「お疲れ様です」とささやき、車を発進させた。高宮がなんとなく振り返ると、少女はまだそこに立ったまま、こちらを見ていた。

車が速度を上げ、赤い傘が離れていく。角を曲がり、少女の姿が見えなくなった。

 

だがこの後、警察は詰めを誤った。

五十畑健太は潔く任意同行に応じたが、両親の求めに応じて一時帰宅が認められるまでの間、すべての問いかけに対して「知りません」の一点張りで通した。任意であり、特に逃亡するようなそぶりを見せていない以上、青梅西署に留置することはできなかった。翌日再び取調をすることとして一旦自宅に帰し、五十畑宅には監視が付けられたが、監視はマスコミに嗅ぎつけられることがないよう、目立たない形でしなければならなかった。

それが災いした。任意の形で取調が始まってから三日後の深夜、西青梅少女殺害事件の重要参考人である五十畑健太は自宅に帰された後、自室でボールペンを頸動脈けいどうみゃく に突き刺し、搬送された病院で死亡が確認された。

被疑者の自殺は大きく報じられた。幸いなことに、マスコミの論調は「警察の態勢の不備」よりも「責任を何一つ取らないまま死んだ犯人の身勝手さ」を責めるものだった。五十畑健太の部屋から遺留品と同じ「魔装天使クラン」の関連商品が出てきたことが報じられ、青少年の心の闇だの、マンガ・アニメの悪影響だのといった話題がひと通り出尽くす頃には、大衆はこの事件への関心を失い、報道の中心も次の事件に移っていた。マスコミを騒がせた西青梅少女殺害事件は被疑者少年の自殺という、後味の悪い形で終結した。

この時点では、皆がそう思っていた。

* * * * * * * * * *

 

桜田門にある警視庁本部庁舎はまことに不恰好である。地上十八階建ての絶壁のようなビルなのだが、一部がくびれた妙なVの字型をしており、正面玄関も特に立派というわけではなく、コンクリート一色で装飾が一切ない。その上屋上にヘリポートと通信用の巨大アンテナをどかんと載せていて、遠目には幼児が何も考えずにつなげたレゴブロックのようである。この不恰好さは半ば意図されたもので、つまりは恰好より機能、花より団子、粋無粋と言っておれるか警察には必要な装備が山ほどあるのだ、という職務上の本音がそのまま表れた結果なのだ。ごてごてして実用性一点張りのこうした「警察的なデザイン」は制服から特殊車両の外装まで随所に見られる。そのこと自体は悪くないし、むしろこういう「甘くない感じ」を市民に対しアピールすることは警察活動においてプラスであると言える。

問題は、いざ中に入ってみるとこのビルはいささかややこしい構造をしているということである。何しろ建物そのものがA棟B棟総合庁舎と三つに分かれている上、低層階はロの字型に廊下が巡っている複雑な構造で、捜査課一つとっても二課はB棟三課はA棟、科捜研は総合庁舎、とてんでんばらばらに散っているのである。一体どうしてこうなったのかは現庁舎建設当時を知る古老にでも訊くしかないが、「親しみやすい警察」をことあるごとに強調する警視庁にあって、本部庁舎のこのややこしさは見事なまでに「一見さんお断り」の雰囲気を醸成しておりはなはだ敷居が高い。なんとかならんのか。

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続きは本書にてお楽しみください。

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著者

似鳥鶏

81年千葉県生。鮎川哲也賞佳作入選『理由あって冬に出る』でデビュー。魅力的な人物や精緻な物語で注目を集めている。『ダチョウは軽車両に該当します』『パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から』等多数。

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