コンダクター

『コンダクター』10

 10 谷岡は叫びながら右拳を振り上げ、矢萩に殴りかかった。矢萩は両腕を軽く上げて構えた。谷岡が矢萩の前で足を止め、固く握った拳を突き出す。矢萩は左前腕で谷岡の右腕の内側を弾いた。谷岡の体が開く。「オレなら殺れると思ったのか? ナメられたもんだな」右ストレートを放った。拳が谷岡の

『コンダクター』9

5 永福町で複数の犯人を追っていた捜査員の一班が、逃走した犯人の一人を捕まえ、三笠邸に戻ってきた。野村は屋敷の八畳間の和室を借り、臨時の取調室を設置した。捜査員の一人に犯人を連れてこさせた。猫脚机を挟んで差し向かいに犯人を座らせる。右の角には東原もいた。「ありがとう。ここはいいから、捜査に

『コンダクター』8

第4章 1 病院に運ばれた野村は、治療を受け、一時間後に目を覚ました。顎は多少腫れているが、深い外傷は負っていなかった。野村は、今日一日は安静にという医師の助言も聞かず、三笠邸に戻った。本部はいまだ、永福町に現われた複数の犯人を検挙することに追われていた。東原を中心に、話しかける

『コンダクター』7

 13 三笠と野村を乗せた急行電車が吉祥寺に着いた。三笠が降りる。野村も三笠と共に下車した。三笠はそのまま足早に改札へ向かう。「待ってください」野村が声をかける。が、三笠は足を止めない。右耳に差したイヤホンからは、三千万円を奪った犯人たちを追跡する捜査員たちからの報告が次々と入っ

『コンダクター』 6

第3章 1 六月九日午前八時を回った頃、吉祥寺の三笠邸には、野村、東原に加え、誘拐事案を専門に扱う刑事部捜査一課第一特殊班捜査係の捜査員たちが集結していた。野村は、犯人から具体的な要求が入ったとの報を受け、第一特殊班の投入を瀬田に進言した。瀬田もここに至ってはやむを得ず、三笠を説

『コンダクター』 5

7三笠は、本社ビル最上階にある社長室にいた。デスクには、犯人が連絡用に使っているプライベート携帯を置いていた。パソコンのモニターで仕事をしつつも、時折、携帯に目を向ける。千尋が誘拐されて以降、社長室に通すのは秘書の澪だけにしていた。用事がある時は澪を通すようにし、面談しなければならない場合は自ら出向

『コンダクター』 4

4 気がつけば、五月も末日となっていた。 松川たちの家では、誘拐した者たちとされた者が普通に暮らすという奇妙な生活が続いていた。 拘束を解かれた千尋は、食事の後テレビを観たり、ゲームをしたりと、気ままに過ごしていた。 その様子は、女子高生の休日そのものだ。 上田とは相変わらず言葉を交わさな

『コンダクター』 3

第2章 1 午後二時を回った頃、野村は一週間ぶりに、本庁に顔を出した。瀬田に呼ばれたからだ。捜査状況を報告してほしいという。庁舎へ入った野村は、副総監室へ足を運んだ。すぐさま中へ通された。応接用のソファーで瀬田と向かい合う。「ご苦労様です。久しぶりの現場はどうですか?」瀬田は挨拶

『コンダクター』 2

3松川が自室に使っている部屋のドアがノックされた。ドアが開き、谷岡が顔を出す。「尚ちゃん。夕飯の買い出しに行ってくるから、代わってもらってもいいかな?」「僕が行ってくるよ」「ちょっと、外の空気も吸いたくて」「そっか。なら、代わるよ。洋介は?」「出かけたままで、まだ帰ってない」「どこに行ったんだろうか

コンダクター

プロローグ五月の連休が明け、桜花や新緑を楽しんでいた人々の賑わいもひと段落し、井の頭恩賜公園一帯はいつもの静けさを取り戻していた。午後四時を回った頃、松川尚人は万助橋東側にある駐車場に白いワゴンを停めた。「急げ」後部座席にいる上田洋介と谷岡晋に声をかける。二人は車を降りてバックドアを開け、竹ぼうきや

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