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担当編集者が語る、『皇室の祭祀と生きて――内掌典57年の日々』

9784309415185「内掌典」という人たちをご存知でしょうか。皇居二重橋を渡り、右手に新宮殿をのぞみながら、深い森の中に分け入った先に宮中三殿という建物が存在します。そこに住み込み、皇室の祭祀を内から支える未婚の女性たちです。

 

 

 

 

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くしくも今上陛下の退位問題で国内世論は揺れています。生前退位について法的根拠がないためさまざまなハードルがある一方、80代半ばを迎えた陛下の健康を考えると、急いで議論を深める必要に迫られています。

「天皇の仕事」といって国民が思い描くのは、被災地への慰問や叙勲、春と秋に催される園遊会など、ニュースに取り上げられる機会が多いものでしょう。

しかし、時代により差はあるものの、中世の順徳天皇が『禁秘抄』の中で「禁中作法先神事」と述べたように、天皇は「宮中祭祀」を大切にしてきました。

これは年中休む間もなく執り行われます。ときには真冬の深夜に、暖房機器などないなかで何時間もかかるものもあります。しかし「政教分離」のたてまえから、これらは「私的行為」とされ、ニュースなどで扱われることはあまりありませんでした。内掌典を含む「掌典職」は天皇の私費で雇われた人たちです。これらに加え、口伝でのみ伝えられてきた門外不出の行事だけに、一般人が知らなくても当然でしょう。

しかし生前退位の問題がクローズアップされる中で、多くの力を注ぐ「宮中祭祀」を知らずに、この問題を論じるわけにはいかないはずです。

本書は、そんなベールに包まれた「宮中祭祀」に57年間かかわり、戦中から戦後、激動の昭和と平成を、皇居の内から眺めてきた女性の一代記です。

これまで学者やジャーナリストが「宮中祭祀」について扱った本は複数刊行されてきました。とはいえ「外部」の人間が描けることには限界があります。長く「秘伝」とされてきた伝統を破ることを快く思わない人たちも多かったでしょう。

しかし内掌典は戦後交替制となり、人生を皇居の中で暮らした最後の存在が本書の著者・髙谷朝子さんです。この機に残しておかなければ、今後同様の書籍を刊行できるチャンスはありません。そんな著者の想いから実現したのが本書なのです。

本書中では、戦中に19歳で拝命してからのさまざまな出来事が時系列で語られています。静謐な森の中で先輩から指導を受け、著者は徐々に内掌典として成長していきます。「穢れ」を嫌う祭祀にとっての「次」と「清」とは? 食べ物のこと、着物のこと、限られた内掌典しか担うことのできない重儀「御鈴」とは? そして昭和天皇皇后両陛下との思い出、皇太子ご成婚(今上陛下)、即位の礼、退官まで…… 十代だった一人の女性が成長していく過程で、お堀の内側から祈り続けた半世紀の想いを、生き生きとした文章で綴っています。

 

「宮中祭祀」を知り、生涯を捧げた内掌典を知るうえで最上の書です。

「雅」「煌びやか」なだけではない、深遠な「祈り」の世界をこの機会にぜひのぞいてみてください。

 

(編集担当TN)

 

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