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まえがき公開! オリンピック直前メッセージ&名言録『向かい風がいちばんいい』より――レジェンド葛西紀明選手、「45歳で世界一を目指す」今の思いとは。
葛西紀明
2017.12.19
はじめに
2014年2月にソチオリンピックで銀メダルを獲得したあと、「平昌オリンピックで金メダルを目指します」と宣言してから、4年近くが過ぎました。
ソチオリンピックのとき、僕は41歳8カ月でしたが、いまは45歳になりました。ソチで宣言したあと、ワールドカップで成績を残し続け、日本代表としてオリンピックを狙えるところにいます。
みなさんには「オリンピック、頑張って」と言っていただくのですが、まだ日本代表に選ばれたわけでも、平昌オリンピックに出ることが決まったわけでもありません。
心の中は、本当に日本代表に選ばれるのか? という不安でいっぱいです。
僕はこれまで7回連続でオリンピックに出場してきました。しかし、これまで一度も家族を連れていったことがありません。
しかし、今回はソチオリンピック後に結婚した妻と、1歳の娘を連れていきたいと考えています。家族の目の前で、悲願の、僕にとって初めてのオリンピック金メダルを獲ることがいちばんの目標です。
僕がスキージャンプを始めたのは、小学三年生のとき。1998年12月に、16歳でワールドカップ(札幌大会)に初めて出場し、1982年に19歳でオリンピック初出場(アルベールビル)を果たしました。
日本代表として世界で戦うようになって、もう30年近くが経とうとしています。ソチオリンピックまで6回のオリンピックに出場しましたが、手にしたメダルは1994年リレハンメルオリンピックのラージヒル団体銀メダルだけでした。
「葛西はオリンピックで勝てない」
「葛西はメンタルが弱い」
そう言われ続けてきました。
メダル獲得の期待が高かっただけに、そういう批判も甘んじて受けるしかありませんでした。
しかし、自分の弱さに向き合いながら、競技を続けてきました。ワールドカップには500試合以上出場し、17回の優勝を果たしています。最年長優勝記録も、最年長表彰台記録も僕が持っています。7回目の挑戦となったソチオリンピックでは金メダルにあと一歩のところまで行きました。40歳を過ぎてからも、重力と時間に逆らいながら、オリンピックの金メダルを目指して戦い続けています。
自分の競技生活を振り返ってみると、絶好調のときも、絶望を感じたときもありました。いろいろな場面で、さまざまな方がかけてくれた言葉に助けられてきました。
スランプや故障に苦しんだときには、母からの手紙に励まされました。
「絶対におまえは世界一になれる」
そう言ってくれたのは、僕をいちばん支えてくれた母でした。
「逆境こそ天が自分に与えた最大のチャンスである」
「もののみかた、考え方を変えると人生が変わる」
土屋ホームに所属するようになって、これらの言葉に心を動かされました。
第一章は、僕が「世界一の男」になるためにしていることについて書きました。第二章では、これまでの競技人生を振り返っています。
第三章で、不安や恐怖に打ち勝つ方法、第四章で「葛西紀明の生き方」について書いています。
各章の後半についている「葛西語録」は、僕がこれまで試合のあとや取材の際に残した言葉を編集スタッフにピックアップしてもらったものです。洗練された言葉でも、うまい表現でもないかもしれませんが、僕の本心が詰まっています。これまでずっとスキージャンプひと筋に生きてきた男の思いを感じてください。
もし、本書を読んで「明日も頑張ろう」と思っていただければ、これほどうれしいことはありません。
2017年11月 葛西紀明
***
<目次より>
第一章 世界一の男になる
世界一の男になる
マイナスの感情を持たずいつもポジティブに!
喜びよりも悔しさを感じた表彰台
銀メダルを獲っても満足していない
競技をあきらめる理由が僕にはない
「レジェンド」と呼ばれるには何かが足りない
好きなことを仕事にすることの喜びと責任
ひらめきに従うとものごとが好転する
願望でなく目標を手帳に書く
習慣づけることで日々の行動が変わる
実績を忘れて新しいやり方を試す
オンとオフのスイッチを自分で入れる
変えることと絶対に変えないこと
葛西語録集 その1:新しい自分をつくる
第二章 天才ジャンパーの快進撃と挫折
「素質がある」と言われてジャンプに取り組む
器用で、コツをつかむのがうまい子ども
ジャンプは怖いから、楽しい
偉大な先輩のおかげでいつも謙虚に
岡部さんから競技に対する姿勢と技術を学んだ
うまくいかない理由を探せば出てくる
誘惑や刺激はあきらめればそれで済む
スランプのときに届いた母からの手紙
いつも「世界標準」でモノを考える
マスコミは嫌いだけど目立ちたい
泣く泣くV字に変えて……
V字をマスターして感じた新しい感覚
葛西語録集 その2:アスリートであり続ける
第三章 不安や恐怖に打ち勝つ方法
空中回転して同じ箇所を二度骨折
恐怖心は振り払っても残り続ける
ハードな環境で戦い続けたから克服できた
悔しさを忘れないためにしたこと
疲れていてはいいパフォーマンスはできない
イメージ通りに体が動けばいい結果が出る
負けた悔しさを見つめることで心が強くなる
不安や恐怖を取り除くためにすること
脈拍を落とすことなら誰でもできる
「いい・悪い」の選択は自分でするしかない
どのアドバイスを聞いて、何を聞き流すか
葛西語録集その3:逆境を乗り越える
第四章 重力と時間に逆らって生きる
断食をすることでメンタルが鍛えられる
断食で苦しい夜はコーヒー三昧
決められたルールのなかで全力を尽くす
いつも通りに試合に出て勝つ!
耐えた分だけいい風が吹く
勝つイメージを植えつける
もし頑固な自分を貫いていたら……
努力をすれば夢はかなう
信念の強さなら誰にも負けない
平昌オリンピックのその先も!
葛西語録集 その4:信じた道を進む
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平昌オリンピックを目前に控えた葛西選手にインタビュー。幾多の試練を乗り越え、今また限界に挑む熱い肉声を、過去の名語録とともに編集しました。45歳で、なお世界の一線で戦い続けられるレジェンドの心身のタフさの秘密に触れられる1冊です。