単行本 - その他
本読み河出スタッフが選んだ、2017年の本(他社本もあるよ!)
2017.12.30
本年も河出書房新社の本をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
本の会社の人は、やっぱりみんな本が好き。「今年どんな本読んだ?」と聞いてみたら、熱い感想がたくさん。みんないっぱい読んでいました。
年の瀬に、自社・他社問わず、河出のスタッフが大いに感銘を受けた今年の本をご紹介いたします。
来年も張り切って、皆さんに手に取っていただけるような本をつくってまいりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
ではどうぞ!
【河出スタッフが選ぶ2017年の本】
『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる――最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方』フローレンス・ウィリアムズ著/栗木さつき・森嶋マリ訳(NHK出版)
今年のフランクフルト・ブックフェアで欧米の出版社の間で話題になっていたのが、なんと日本の森林浴(SHINRINYOKU)。ストレスが溜まると無性に森を歩きたくなるのには、ちゃんとした理由があるんですね。
『動物になって生きてみた』チャールズ フォスター著/西田美緒子訳(河出書房新社)
動物として生きるとはどういうことなのか? 著者はその答を求めて、アナグマになってミミズを食べるなど、過激な試みをします。イギリスのインテリならではの詩的で哲学的な極上の語り口をお楽しみください。
(編集部K)
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『埴原一亟 古本小説集』埴原一亟著/山本善行撰(夏葉社)
ごみの山から価値ある書物を拾い上げ、古本屋を営み、生活費のため借金に奔走する。戦前戦後の貧しい暮らしを生きる島赤三を主人公にした作品らは、実直でしなやか、作家の姿が浮かぶようで、小説を読む悦びが湧き上がる。
『私の名前はルーシー・バートン』エリザベス・ストラウト著/小川高義訳(早川書房)
長引く入院生活、幼い娘と夫に会えないルーシーの前に、没交渉中の母親が現れる。ぽつりぽつりと会話を交わした5日間、幼少期の断片的な記憶がよみがえる。母娘の愛と孤独、絶妙な心の描写に胸をうたれる。
『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』ブレイディみかこ著(みすず書房)
イギリス最悪水準の地区にある“底辺託児所”に身を置いた著者が、多様な差別、格差などをミクロの視点で書いたノンフィクション。フードバンクに来た親がジャガイモを握りしめ涙する姿は、他人事とは思えない。
(電子書籍担当 村上陽子)
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『愛の仮晶――市川春子イラストレーションブック』市川春子著(講談社)
『宝石の国』『25時のバカンス』などで知られる漫画家・市川春子さんの初画集です。澁澤龍彦大魔王を描いたイラストが収録されているのですが、自作解説コメントが、熱いのです。澁澤ファン必読。
(編集部I)
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『ベストセラー・コード――「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム』ジョディ・アーチャー、マシュー・ジョッカーズ著/川添節子訳(日経BP社)
これまで面白いと感じるフィクションに複数の共通点を感じていました。この本は、テキスト・マイニングと計量文献学の最新技術を駆使し、ヒットする小説の共通点を根拠と共に言語化していて、めちゃくちゃ勉強になりました。
『夫のちんぽが入らない』こだま著(扶桑社)
主人公の免疫疾患や夫のパニック障害を乗り越えて、様々な社会の呪いも乗り越えて、壮絶で胸に迫る物語。ラストの畳み掛けも素晴らしくてもう言葉が出ない。大傑作。このタイトルで本を出した扶桑社さんにも拍手!
『水曜の朝、午前三時』蓮見圭一著(河出文庫)
かつてのベストセラーですが、今年復刊になりました。(その経緯はこちら→ 名作は、何度でもよみがえる。「もう絶版にはしたくありません」) 年間数百の物語に触れていると、刺激に慣れて不感症になりがちですが、久しぶりに感動した小説でした。自社本で恐縮ですが、とてもおすすめです!
(営業部T)
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『人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー他、[インタビュー・編]吉成真由美(NHK出版新書)
『知の逆転』『知の英断』に続く、知の巨人たちへ世界を問うシリーズの3作目。手放しには明るい未来を望みがたい現代にあっても「知」は大いなる灯火になることを、各分野の天才がそれぞれの見地から示してくれる。
『美術ってなあに?』スージー・ホッジ著/小林美幸訳(河出書房新社)
母の月刊美術誌を貪り眺めていた幼少期の自分へ贈りたい一冊。河出の児童書は一見難解なものも多いが、本書も然り。問いは素朴ながら答えは奥深い。でも大丈夫!子どもって案外、ほんものを見る目がありますよね。
(製作部 森奈生美)
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『プロテスタンティズム――宗教改革から現代政治まで』深井智朗著(中公新書)
「この10年の」一冊と言いたいほどの名著。16世紀以降の歴史と政治のダイナミックな動きの中でプロテスタンティズムを語る手法で、深い理解に導く。宗教改革500年の今年に刊行された記念すべき一冊。
『ドイツ三〇〇諸侯 一千年の興亡』菊池良生著(河出書房新社)
上の一冊に続いてドイツもの。「就寝前に原稿をざっと眺めるつもりが、面白すぎて明け方まで読んでしまった」「品がないのでやめたが、帯文で本当に言いたかったのは『こいつら本当にしょうもない』」と担当編集者談。
『失われた宗教を生きる人々――中東の秘教を求めて』ジェラード・ラッセル著/臼井美子訳(亜紀書房)
『プロテスタンティズム』が、宗教が政治権力と結びついたモデルケースとすると、本書で描かれたのは逆にそこから排除された側。細々と自らの信仰を守り続ける人々の姿に、宗教とは何かをあらためて考えさせられる。
(編集部W)
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『栗山魂』栗山英樹著(河出書房新社)
アラフィフになって読んでみて、あらためて気づかされた我武者羅な努力の大切さ。今年一番熱い本。
『天井の葦 上・下』太田愛著(KADOKAWA)
「報道の自由と平和の尊さ」をテーマにしたクライムサスペンス。上下巻870頁、一気読み。『犯罪者』、『幻夏』(ともに角川文庫)の2作も傑作。
『SHOE DOG』フィル・ナイト著/大田黒奉之訳(東洋経済新報社)
言わずと知れたスポーツブランド「ナイキ」の誕生から現在までを綴ったノンフィクション。創業者フィル・ナイトのドラマチックなサクセスストーリーに胸が撃たれる。
(営業部 菊池真治)
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『ルポ 川崎』磯部涼(サイゾー)
『ウォークス――歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット著/東辻賢治郎訳(左右社)
「ロンドン散策――ある冒険」ヴァージニア・ウルフ著/片山亜記訳(川上未映子責任編集「早稲田文学増刊 女性号」収録)
会社までの道、着々と進む新国立競技場の工事を見上げながら歩いた2017年の毎日。ここで起きまくっている諸々の問題が現代日本社会の縮図であるならば、それは「川崎」でもそう。ドヤ街、ヤクザ、不良、差別、貧困……スラム・ツーリズムを自覚しながらも丹念に街を歩き取材を重ねた著者がふと垣間見た「自分の生活と地続き」であるその実感に皮膚がざわつく。2017年の川崎(=リバーズ・エッジ)が教えてくれる「平坦な戦場で僕らが生き延びる」ためのひとつの回答。『災害ユートピア』の著者によるデモから始まる「歩行」についての文化論『ウォークス』は読み応え抜群、今年のベスト。一本の鉛筆を求めてロンドンの街を女性が自由に散策する姿を軽やかに活写したウルフの初邦訳短篇は、「都市の遊歩者」言説がどれだけ特権的であったかということに気付かされる。来年もちんたら歩いてたいです。
(編集部 坂上陽子)
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『裸の資本論――借金返済50億円から学んだおカネの法則41』村西とおる著(双葉社)
上がったり下がったり、ジェットコースターのような人生の苛烈経験の中から得た綺麗事じゃない“肉語”格言とエピソードが次から次へと。それに比べて余りに己の人生は平凡すぎ。でも参考になった!
『捨てられないTシャツ』都築響一著(筑摩書房)
思い出のTシャツから70人のフツーの人?が人生語り。都築さんの本らしく、フツーの人たちの多彩な人生の出来事集に圧倒される。皆フツーには生きてないじゃん! 捨ててしまった我がTシャツを後悔。
(編集部T)
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『文学問題(F+f)+』山本貴光著(幻戯書房)
漱石読みにとっての最難関『文学論』を、読者が活用できる思考ツールとしてヴァージョンアップしてみせた驚異の書。博覧強記に導かれて、シミュレーション・ゲームに参加しているようなスリリングな読書経験が気持ちいい。
『私家版精神医学事典』春日武彦著(河出書房新社)
博覧狂記の精神科医が10年の歳月をかけて、「連想」を武器に見出し項目を紡ぎきってみせた驚異の書。その「知的しりとり遊び」の奥深さに触れていただきたい。今世紀の終わりには「今世紀最大の奇書」と呼ばれているはず(著者も担当編集者もいないけど)。
『スリップの技法』久禮亮太著(苦楽堂)
書店員の職能とプライドを駆動させるものが「スリップ」だと見抜いてみせた驚異の書。1996年というPOSシステム黎明期に業界に入った者として猛烈に共感できた一冊。「置かれた場所で咲かなくなっても」など、実戦編の小見出しのセンスも心地よい。
(編集部・藤崎寛之)
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『愛の台南』川島小鳥著(講談社)
川島小鳥の台南ガイドという体ながら、一風変わった情報量多めの紀行本として楽しく読める。
佐々木暁氏による造本がとにかく素晴らしく、こういう本なら何冊でも買います。
『天国の南』ジム・トンプスン(文遊社)
ブーム再燃の兆しもあるトンプスン本邦未訳作品。内容はいつも通りでも、各社文庫も続々と品切れになる昨今、立て続けに『ドクター・マーフィー』も刊行する執念にリスペクト。あと、どちらも装丁が激クール。
『ライクアローリングストーン』宮谷一彦(フリースタイル)
本書の刊行については残念な話題もあったけど、その対応も含めて、素晴らしいの一言。こういう時代のこういう漫画を年に一度くらいは読みたいものです。
(営業部 中山喬介)
いかがでしたか? 読みたくなる本があったでしょうか?
毎日真面目な顔をして働いている同僚が、忙しい毎日のなか、こんな本に励まされていたんだな、と思うと、ほっこりした気持ちになります。
来年も良い本との出会いがありますように。河出書房新社がそのお手伝いができますように。
それでは良いお年をお迎えください。
2018年もどうぞよろしくお願いします。
河出書房新社