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廣木隆一監督、自身の初小説を映画化!――『彼女の人生は間違いじゃない』
2017.07.28
「ヴァイブレータ」「軽蔑」「きいろいゾウ」「100回泣くこと」など、数々の文芸作品の映画化を手がけてきた廣木隆一監督。
「余命1ヶ月の花嫁」や「さよなら歌舞伎町」などヒット作も多い廣木監督が、初めて小説に挑んだのが「彼女の人生は間違いじゃない」だ。
2015年に「文藝」に発表されたこの処女作は、監督の故郷である福島を舞台に、3.11後のフクシマを描き、文芸時評などでも話題になった。
主人公のみゆきは、父と仮設住宅に暮らす市役所職員。米や野菜作りに熱心だった父は、今や日がな一日パチンコをし、みゆきは週末になると、高速バスで東京に向かい、デリヘル嬢になる。
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映画は、早朝の桜並木から始まる。
朝靄に包まれた、人のいない乳白色の世界。まっすぐのびる並木道のむこうから、白い靄が、まるで唯一の生き物のように、ゆっくりとこちら側に近づいてくる。思わず息をのむ美しいシーンだ。
光が現れて、車が停まる。車から次々に降りてくる白い服の人たち。
やがてその白い服が、防護服だとわかると、観る者に衝撃が走る。だが、歳月を刻んできた桜並木のモノトーンの風景は、ただそこに、しずかに、ある。
映画を観て、福島の風景が、限りなく美しいのに驚いた。テレビで見なれた汚染土を詰めた黒い袋が並ぶ風景も、美しかった。
そのことを伝えると監督は、「そうなんだよ」とうなずいた。
“原発事故”があったからといって、全てをその一色に塗り潰そうとは、廣木監督はしない。訴えたいものがあるからといって、今ここにあるものを誇張したりドラマチックにしたりもしない。
それは、小説でも映画でも変わらない、廣木監督という作り手の誠実さだ。
映画もすばらしかった。
みゆき役の瀧内公美。デリヘル従業員の高良健吾。みゆきの父・光石研や恋人・篠原篤、市役所の同僚・柄本時生に、カメラマンの蓮佛美沙子……どれも忘れがたいシーンばかりだ。だから物語の内容や展開をすでに知っていたにもかかわらず、やはり映画を観て泣いてしまった。
撮影中、みゆき役の瀧内公美さんは外に出かけなかったという。気分転換に少しでも外に出たりすると、顔が変わってしまうと監督に言われたからだそうだ。
ここには 生きた“時間”が描かれている。それは部外者が思い描くような“復興”という、ただ前に進むだけの時間ではない。だからそれを演じる者も、時間を生きる必要があったのだろう。
桜の並木が刻んできた長い時間、土地と人々の記憶。パチンコやデリヘルなどの、一見、時がとまっているとさえ思える時間……様々な時間が折り重なって、ようやく、みゆきも父親も、周りの人も、なにかを始めようと心が動き始める。
織物のような時間の中では、「間違い」や「後退」など存在しない。そんな大切なことが、廣木監督の作品をとおして、痛いほど伝わってくる。
(編集部R)