文庫 - 日本文学
干刈あがた『ウホッホ探険隊』を、なぜ今復刊したのか?
2017.12.27
「干刈あがたさんとか、どうよ?」
と言われたのは、数年前の昼下がり。ある書店員さんと売上が上がらない河出文庫をどうすれば良いか話している最中でした。
「河出文庫は良いものを出しているが、書店側からするとニッチ過ぎて売りにくい。もっと幅広く読まれる本を出さないと売上はあがらないよ」
これまでも様々な書店員さんから、何度も指摘されてきた意見です。
そのことを何度も編集部に伝えてきましたが、前進しない状況が続いていました。編集部がやらないなら自分でやれば良いのですが、営業部では本を作ることはできません。でも具体的な企画提案があれば、編集部も動いてくれるかもしれない。そう思ってその書店員さんにこんな質問をしました。
「じゃあ河出文庫は何を出せば良いでしょうか?」
その質問に対して出て来たのが、冒頭の干刈あがたさんのお名前でした。
河出書房新社では、1998年に「干刈あがたの世界【全6巻】」というシリーズを刊行していましたが、恥ずかしながら読んだことはありませんでした。会社に戻ったあと、すぐに地下2Fにある書庫へ向かい、おすすめされた干刈あがたさんの『ウホッホ探険隊』を借りて読んでみました。
1983年に書かれた作品ではあるものの、ある家族の感動的な物語で、全く古びておらず、今でもたくさんの読者に愛される素晴らしい小説だと思いました。
ただどうしても気になることが。それはタイトルでした。
『ウホッホ探険隊』というタイトルは、読んだ人にはとてもしっくりくる良いタイトルです。でも読んでいない人にはその内容は恐らく伝わらないかもしれない。
この疑問を検証するために、同僚に「『ウホッホ探険隊』っていう作品があって」と話してみると、「ゴリラが出てくるの?」と返されてしまいます。彼がノンフィクション作家である高野秀行さんの熱狂的ファンだからかもしれませんが、家族を巡るハートウォーミングなストーリーと『ウホッホ探険隊』というタイトルがどうにも一致せず、このまま復刊しても読者に届かないのではないか? という不安をどうしても拭えずにいました。
既に出来上がった素晴らしい作品のタイトルについてとやかく言うのは、著者や関係者の方々に対してとても失礼なことかもしれません。
ただ常々思うのは、タイトルというのは既に読んだ読者のものであると同時に、まだ読んでない読者のものでもあるということです。まだ読んでいない読者に興味を持ってもらうためにはどうしたら良いか、とても悩みました。
やがて考えついたのは「タイトルと中身のギャップをむしろ武器に出来ないか」ということでした。
タイトルはそのままに「このタイトルから絶対に予想出来ない感動が待っている」と手書きで大きく書いてあれば、何だろうと興味を持ってもらえるのではないか? そう考え、全面オビを新刊時から作成して復刊することなった、というのが今回の刊行の経緯です。
『ウホッホ探険隊』は、自信を持っておすすめできるとても素晴らしい小説です。書店店頭でこのオビを見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。
(営業部T)