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『選んだ孤独はよい孤独』書評

 「これ、俺のことじゃん」。気付けば何度も口に出てしまう。そういう小説と出会うことが、稀にある。舞台設定も、起こった出来事も、描かれた人物像もまるで違うのに、確かにそこに、自分がいる。苦い過去や今抱えている(それでいて気付かぬフリをしている)苦しみが、寸分違わず言語化されており、チクチクと優しく、胸を刺す。

 『選んだ孤独はよい孤独』は、そういった小説の一つだった。22本の物語に一貫して描かれ続ける「男たち」の姿と、彼らに向けられた言葉たち。「男性」として生きてきた自分には身に覚えがありすぎて、「あの時はごめんなさい」とか「言語化してくれてありがとう」とか、そういう言葉がページを捲るたびに胸の中にじわじわと広がっていく。

 主人公となる男性の多くは、社会から求められる「男らしさ」に無自覚に苦しめられていたり、「男らしさ」のせいにして誰かを傷つけていたりする。冒頭を飾る短編「男子は街から出ない」では、主人公のヨシオが、昔好きだった女性の前で、声には出せない本音を喉の奥で叫ぶ。

 「すごく嫌な奴らなんだ。だけどその絆をぶったぎったら、オレはここで、一人になってしまうんだ」(「男子は街から出ない」より)

 本書のタイトル『選んだ孤独はよい孤独』を象徴するような台詞だ。現代社会を生きる多くの「男たち」が、今、この場所でうまく取り繕わなければ、成功しなければ、出世しなければ、勝たなければ、たちまち居場所がなくなってしまうと、本気で「孤独」に怯えて生きている。でも、その「孤独」こそが、実は自分が求めていた本来の姿や未来そのものだったりするのではないかと、本書はやさしく(時に、かなり辛辣に)伝える。

 圧倒的な同調圧力によってグレることを強要する地元グループ。全国大会初優勝を達成した学年の次の代のキャプテンという重圧。サッカーボールやドッジボールが投げつけられる夢。男なら誰でも性行為が好きだという偏見。やりたかったことを捨ててでも「まともに」働くことを強いてくる社会。元恋人にフラれた理由が全くわからずにいる男。「すっかり変わってしまった妻」の悪口を吐き続けるサラリーマン。仕事ができないことを隠すためにハッタリ力を教える先輩社員(それで本当に出世できてしまう会社組織!)。

 いずれも、貴方のすぐ近くに存在するエピソードではないだろうか。そしていくつかは、自分自身の経験と重なる話ではないだろうか。

 著者は私の個人的な“推し文学賞”の一つである「女による女のためのR-18文学賞」でデビューした。それ以降、女性のリアルな心情や、地方(田舎)と東京(都市)のコントラストを描いた作品で軽快かつ力強い筆致を発揮し、読者を何度も魅了してきた。

 著者が「男たち」にスポットライトを当てれば、自然とその照明の外にいる「女たち」が浮き彫りになり、結果的に「社会」を映し出す。「男らしさ」に縛られる男を描けば、「女らしさ」に縛られる女も同時に浮かび上がらせる。「男たち」からは旧態依然の社会や過去、地方をイメージさせ、「女たち」からは未来や成長、都市を彷彿とさせる。

 暴力的であったり支配的であったり、見栄っ張りであったり礼儀知らずだったりする本作の「男たち」だが、それでも彼らのことを憎みきれないのだとすれば、それは著者の描く「男らしさ」が、生物学的な男性性からくるものではなく、社会的に授かって/背負ってしまったものとして描かれているからだ。冷静かつ温かい客観的な視点があるからこそ、今作はただの「男たちへの警告」に終わらないクオリティを保てているし、現代社会に置き去りにされたもの、おざなりにされてきたものに触れた感覚を得ることに成功している。

 二話、三話と連なって「男らしさ」が抱える暴力性やそれに振り回される男性を描く短編もあれば、わずか3行で完結する切れ味の鋭い掌編、一人称が持つ呪いを謳った散文詩などもあり、実験的な内容は読者を飽きさせない。登場人物のバリエーションも豊富で、そのどれもがリアリティを持ってそこに存在している(筆者は「おれが逃がしてやる」の館林がお気に入りだ)。

 痛快な全編を読み終えた後、改めて表紙に視線を戻すと、フランスのことわざから取ったタイトルがなんとも小気味良い。『選んだ孤独』とは、まさに「男らしさ」「女らしさ」からの解放を意味するし、それが『よい孤独』だと背中を押してくれるメッセージは、きっと多くの読者を勇気づけることになる。

 今更言うまでもないが、男性のみに向けて書かれたわけがなく、性別や年齢を問わず楽しむことができる作品である。現代を生きる全ての人たちに、無自覚に背負ってしまった「男らしさ」「女らしさ」と向き合うきっかけをくれるだろう(でも、夫や彼氏、息子や男友達に女性から手渡すのが、一番破壊力が高い内容であることに違いはない)。

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『選んだ孤独はよい孤独』より「おれが逃してやる」を公開中です!

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