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「読書感想文11『昨夜のカレー、明日のパン』木皿 泉」note発「#読書の秋2020」感想文コンテスト優秀賞作品の全文を掲載します。

河出書房新社は、note主催企画「#読書の秋2020」読書感想文コンテスト(2020年10月14日(水)〜11月30日(月))に参加しました。ご感想をお寄せいただいた皆さま、本当にありがとうございました!
 
本企画の弊社「課題図書」は、木皿泉さんの小説『昨夜のカレー、明日のパン』『さざなみのよる』の2作品です。
どのご感想も木皿泉作品への思いあふれる、素敵なものばかりでした(本当は全員に賞を差し上げたかったです……!)。改めて参加者の皆様に心より御礼申し上げます。

選考の結果、優秀賞として5名の受賞者を決定しました。
そして、一人でも多くの方が『昨夜のカレー、明日のパン』と『さざなみのよる』を読んでみたいと思うきっかけになればと思い、毎日お一人ずつご感想全文を掲載させていただきます!

ご感想全文掲載の最終日は『昨夜のカレー、明日のパン』のご感想です。

 

***

 

課題図書:『昨夜のカレー、明日のパン』

投稿者 :りょ様

タイトル:読書感想文11『昨夜のカレー、明日のパン』木皿 泉

 

河出書房新社のnoteで『さざなみのよる』と『昨夜のカレー、明日のパン』を課題図書に選んだ理由が書かれていた。

不安だったり、落ち込んだり、なんとなくうまくいかない。そんな今だからこそ、「きっとなんとかなる」と思わせてくれる木皿泉作品の温もりと大らかさが必要だと思います。『さざなみのよる』と『昨夜のカレー、明日のパン』は、間違いなく多くの人の心のよりどころになる本だと思い、課題図書に選ばせていただきました。

 

2冊とも読んだ。
その通り、「きっとなんとかなる」って思える2冊だった。
多くの人が感じているように、人の死が描かれているけど、ただ悲しく暗い気持ちになるわけじゃなくて、前を向こうと思える本だった。
いなくなっても確かに大切な人はいたし、いたときのことは消えないし、どこかにずっと残るよなぁと信じられる。
毎日の何気ない時間をできるだけ記憶に残したくなる。

ギフが死んじゃったらこの銀杏割り器を見て、寂しく思うのかしらなどと考えた。そう思うと、何だか、この素っ気ないペンチみたいなのが、遺品のように思えてくる。

 

このテツコの気持ちがめちゃくちゃ分かるんだよね。
ただ家族でこたつに入ってだらだらしてるときに、テーブルに置かれたみかんの皮を見て、「わたしがおばあちゃんになるくらいのいつかの遠い未来、みかんの皮を見たときにこうやって家族でだらけたことを思い出すのかぁ」って思う気持ち。
同じか?って聞かれたら同じと思う!としか言いようがないけど、今この瞬間って当たり前だけど永遠じゃなくて、いつか全部なくなってしまって、わたしはそのなくなった今をいつかどこかでちょっと悲しくなりながら、でも温かい気持ちで懐かしむんだろうなぁって。

「悲しい」とか「寂しい」とか、できればあまり思わずに過ごしたいから、どうにかして現状維持でこのままいたいと思ってしまう。
それは不可能で、そんなことはちゃんと分かってて、それでもこのままがいいんだよ!と思ってた。
いや、まだ思ってる。たぶんずっと思う。変化って怖い。
今持ってるものを失うのが怖いのかな。なんなのかな。
この場所しかないなんて思ってないつもりだったけど、この場所より居心地がいい場所が見つかるか分からないからこのままがいいのかもしれない。
われながら消極的選択である。

「自分には、この人間関係しかないとか、この場所しかないとか、この仕事しかないとかそう思い込んでしまったら、たとえ、ひどい目にあわされても、そこから逃げるという発想を持てない。呪いにかけられたようなものだな。逃げられないようにする呪文があるなら、それを解き放つ呪文も、この世には同じ数だけあると思うんだけどねぇ」

 

きっとどこかに変わりたくない症候群のわたしを解き放ってくれる呪文もあるんだろうな。
いつかちゃんと自分で見つけたいな。

いつもはミステリーとかを読むことが多いから、同じ本を何度も読み返さないことが多い。
でもこの本は「変わるの怖い~!!いやだ~!!」ってなったときにまた読もうと思う。
一人で自分を立て直すためにとても役立ちそうな本。
できない無理はしない、どうにかなるってなんとなくでも思えることってすごく大切なんじゃないかな。

 

***

 

きっとなんとかなると頭ではわかっていても、変化って怖い。そんな気持ちに共感しました。どんなに大切な人や瞬間も、いつかは無くなってしまうけれど、大事なことは「喪失したこと」ではなく、確かにそれらが「存在していたこと」だと改めて気づかされる作品でした。

優秀賞受賞者のご感想掲載はこれで全てとなります。

興味のある方はぜひnote上で「#昨夜のカレー明日のパン」、「#さざなみのよる」と検索してみてください。ここには載せきれませんでしたが、心温かな感想文をたくさんお読みいただけます!
ご応募いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

 

※この企画はnoteの「#読書の秋2020」コンテストの一部として行ったものです。

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著者

木皿泉

夫婦脚本家。ドラマ「すいか」で向田邦子賞、「Q10」「しあわせのカタチ~脚本家・木皿泉 創作の“世界”」で2年連続ギャラクシー賞優秀賞。他に「野ブタ。をプロデュース」等。著書『二度寝で番茶』など。

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