文庫 - 日本文学

柳美里・文庫最新刊『JR品川駅高輪口』試し読み

 

JR品川駅高輪口

試し読み

柳美里

 

 

 

146:優しい名無しさん:06/15 23:12:36
あなたは死にたい人?

147:優しい名無しさん:06/15 23:51:10
いえ。

148:優しい名無しさん:06/16 00:09:55
死にたい人間の気持ちなんて、そうでない人間にはわからない。

149:淀川心中:06/16 02:25:09
死ぬなら一人で死ね

150:優しい名無しさん:06/16 03:30:44
こんな書き込みいけないことくらいわかります・・・
でも苦しくて・・・

151:優しい名無しさん:06/16 03:41:30
>>149
邪魔しないでください!

152:優しい名無しさん:06/16 03:41:51
6月中に楽になりたいです。

153:並木レイコ:06/16 04:20:59
誰か、関東で一緒に死んでくれる方いませんか?

154:優しい名無しさん:06/16 07:01:07
自殺なんて、絶対にしないでください。鬱病や借金や障害を抱えて必死に生きてる人だって、たくさんいますよ。

155:優しい名無しさん:06/16 09:47:46
こちらは北陸三県で募集中。
電車に飛び込みかけたんですが、サラリーマンに服つかまれて、危ないよ、なんて言われた。

156:淀川心中:06/16 10:17:40
>>155
あほやのう

157:優しい名無しさん:06/16 10:30:39
>>155
霊になっても死んだことに気づかず、何度も線路に飛び込むらしい

158:優しい名無しさん:06/16 10:34:19
関東じゃ広すぎる。県で言ってくれ

159:優しい名無しさん:06/16 10:55:57
みなさん、いくつだか知りませんが、ご両親からもらった大切な体、これまで頑張ってきた体にひどい仕打ちをしないで下さい。

160:並木レイコ:06/16 11:02:30
神奈川です。

161:優しい名無しさん:06/16 11:05:10
神奈川要注意

162:優しい名無しさん:06/16 11:30:50
絶対に死なないでくださいね。

163:優しい名無しさん:06/16 14:46:51
死ぬ気のない人はスレチガイですよ

164:優しい名無しさん:06/16 16:12:24
安楽死・尊厳死で逝きましょう

165:真っ暗:06/16 16:55:06
茨城県に住む女(19)です
一人だと怖いので一緒にお願いします
Yokoyoko0921@yaboo.co.jp

166:優しい名無しさん:06/16 17:29:48
どの人が本気だか、わからない・・・

167:並木レイコ:06/16 17:48:20
私は本気です。
神奈川県在住で、車持ってます。

168:優しい名無しさん:06/16 17:57:33
>>165
まず女であることを公開するな
プロフは30代男性です、とでも噓ついとけ
女のかまってちゃんは足手まとい、これ常識

169:優しい名無しさん:06/16 19:22:49
当方、千葉県の精神病院に入院しています。家族に半強制的に入院させられているので、今すぐというわけにはいきませんが、数ヵ月後に一緒に死んでくれる方を募集します。家族や親族に迷惑をかけたくないので、身辺を整理して、身元がわからないかたちにしたいと思います。

170:優しい名無しさん:06/16 19:36:10
今すぐじゃないとかマジうぜー

171:優しい名無しさん:06/16 20:15:56
自殺志願者でオフして語り合ってみるのは、いかがでしょうか?
「自殺をするオフ会」ではなくて「自殺志願者が語り合うオフ会」ならば、よいのではないでしょうか?
同じ境遇同士語り合えば、逃げ道が見つかるかもしれませんよ。

172:優しい名無しさん:06/16 20:39:07
同じ境遇なんてありえないでしょ?
身の上話なんてマジしたくないし・・・

173:淀川心中:06/16 20:39:54
>>171
たぶん女狙い。レイプ目的だろ

174:並木レイコ:06/16 21:00:07
だから、逃げ道が、もう死ぬしか残されてないんだよ。

175:優しい名無しさん:06/16 21:19:44
何故ですか?
みんな、本気です本気ですって、死ぬことに本気出さないで、生きることに本気出してみて下さいよ。
だいたい、何故、死にたいんですか?

176:優しい名無しさん:06/16 21:29:09
詮索するなアホ馬鹿失せろ

177:スレ主:06/16 21:52:55
スレ主です。もうちょっと生きてみようかなと思い、このスレを立てましたが、もう限界です。メール下さい
blackangels@yaboo.co.jp

178:優しい名無しさん:06/16 22:01:34
札幌いませんか?

179:淀川心中:06/16 22:20:27
いませんか?とか書き込んで、メアド晒してないヤツは、死ぬ死ぬ詐欺なので、要注意

180:優しい名無しさん:06/16 22:28:31
このスレってガチなの?
ツーホーするぞ

181:優しい名無しさん:06/16 22:36:19
その前にみんな俺んちこいよ。何のモテナシもできないが、温かいコーヒーぐらいならいれられる。ちなみに俺も自殺志願者ではある。

182:スレ主:06/16 22:41:56
スレ主ですが、167さん、車持ちですよね?
練炭で逝きたいです。私と167さん決定だとして、募集定員あと2人です。性別年齢は問いません。強めの睡眠薬4人分持ってきてくれると助かります

183:淀川心中:06/16 22:58:28
結局、自分の始末を他人にしてもらおうと思っとるってこと?

184:真っ暗:06/16 23:06:13
でも、みんなそうなんじゃない?
そうじゃない死に方って、どんなの?
>>168
アドバイス、ありがとうございます
嫌味じゃないです
教えてもらって感謝してます

185:優しい名無しさん:06/16 23:07:46
ハルシオンならあります。

186:淀川心中:06/16 23:09:35
アホちゃうん?
ハルシオンなんか強くねーだろ、エバミールかアモバンにしとけ

187:優しい名無しさん:06/16 23:11:26
日本の医療水準は世界一
練炭自殺の失敗例多数

188:優しい名無しさん:06/17 06:18:26
もう何がなんだかわかりません。なにを言われているかもわかりません。ごめんなさい、わたしは死にたいだけなんです。今すぐ、死にたい・・・

189:優しい名無しさん:06/17 11:30:21
死にたいんじゃなくて、生きたくないだけでしょ?
生きたくないと思えることがたまたまあったとしても、生きたいと思えることがこれから待っているかもしれませんよ。

190:優しい名無しさん:06/17 11:45:01
>>189
宗教?

191:淀川心中:06/17 11:51:40
練炭は夏場ハードル高いよ
まずあの暑さで眠れない
アモバンでも無理だ

192:優しい名無しさん:06/17 12:11:20
淀川心中さんは、練炭自殺未遂者?

193:スレ主:06/17 13:10:11
スレ主です
アド晒したので、プロバイダーが割れて警察来る可能性あり。猶予は2日
決行日は6月19日神奈川です
blackangels@yaboo.co.j

 

 J‌R品川駅臨時ホームに立っている少女は、携帯電話を閉じてスクールバッグのポケットに入れ、その手で白とミントグリーンの小さな箱を取り出した。
 ニコチン0・1㎎
 タール1㎎
 今日のはピアニッシモ。
 銘柄は決めてない。
 軽くてメンソールだったら、なんでもいい。
 喫煙歴は2ヶ月ちょい。
 日に一、二本だから、喫煙者の列には加わってないと思う。
 他人の口から吐き出されるけむりは大嫌い。パパの副流煙だって我慢できない。受動喫煙防止条例をいちばん施行してほしいのは、家の中だったりする。
 少女は、煙草を一本くわえて100円ライターで火をつけ、隣のホームから流れて来る鉄道唱歌のメロディーを聴いた。
 いつからこの発メロになったんだろう?
 昔は、これじゃなかったような気がする。
 むかし?
 昔って、いつ?
 中学のころ?
 卒業式から3ヶ月しか経ってないのに、すごく昔のことみたいに思える。
 中学、楽しかったな……
 でも、楽しいことは、すぐ終わる。
 終わってしまえば、むかしのことだよね。
 昔むかし、市原百音という中学生がいましたとさ……めでたしめでたし……おしまい……
 親戚のおじさんとかおばさんは、わたしの顔を見るたび「もねちゃん、いくつになった?」って訊いて、「15歳です」って言うと、「いいね、まだまだこれからだね」「なんでもできるね」「いちばんいい時期だね」なんて平気で言うけど、小学校よりは中学、中学よりは高校ってだんだんだんだん可能性が狭まって……
 中学の3年間塾に通って、本命の公立落ちて、楽勝モードだって言われてた偏差値50のママおすすめの私立も落ちて、下見もしなかった偏差値40のすべり止めに入るしかなかった時点でサゲサゲM‌A‌Xで、もうわたしの人生なんて終わってますって……
 だって、あの入学式……入学式ってアゲアゲじゃなきゃ成立しないセレモニーなのに、新入生たちの顔も保護者たちの顔も先生たちの顔も揃いも揃ってサゲサゲで、受験戦争に敗れたサゲサゲハートに容赦なくサゲサゲが染み込んでったわけですよ……あぁあ、終わっちゃったって……
 でも、人生は終わらないの。
 つづいてくの。
 平均寿命まで生きるとしたら、あと60年だか70年、実は終わってる人生に縛りつけられて、就職、結婚、出産、育児、子どもの小学校、中学校、高校、大学、旦那の定年退職、老後……
 シニタイ。
 でも、死にたいわけじゃない。
 シニタイ。
 死にたい、と思ってみてるだけ。
 シニタイシニタイシニタイ。
 煙草の先から灰が崩れ、少女の黒いローファーの上に、落ちた。
 カタッ、カタン、カタッ、カタン、カタッ、カタン、ココココォーッ……
 少女は貨物列車が通り過ぎたあとの線路を見下ろした。
 白い半袖ブラウスの肩に流れていた髪が、横顔の耳と頰と口と顎を隠す。
 臨時ホームは臨時にしか列車が通らないから、枕木と敷石のあいだに雑草が生い茂り、所どころレールを見えなくしている。
 白い小さな花……
 ハコベかな……
 ナズナ……
 放心して緩んだ唇から混み合って窮屈そうな歯並びを覗かせた少女は、臨時ホームの端にあるトイレから出てきた黒いタイトスカートの女が背後を通り過ぎたことに気づかなかった。
 女は鉄道唱歌を口の中でつぶやきながら7、8番線臨時ホームの階段を上がっていった……春さく花の藤枝も すぎて島田の大井川 むかしは人を肩にのせ わたりし話も夢のあと いつしか又も暗となる 世界は夜かトンネルか 小夜の中山 夜泣石 問えども知らぬよその空……
 黄色い線の上に立った少女は、無意識のうちに二本目の煙草に手を伸ばしていた。
 火をつける。
 けむりを吸う。
 吐く。
 人差指と中指の第一関節に忍び寄っている煙草の火が、フィルターのミントグリーンの「O‌n‌e」の文字を焦がす直前に、ひとりでに消えた。
 少女は煙草を線路に放って、東海道線東京行きが到着した5番線ホームに目をやった。
 この時間、品川駅から東京行きに乗る人ってほとんどいないんだね、小田原とか茅ヶ崎とか鎌倉とか逗子とか海の方に行く電車は帰宅ラッシュなのに……
 朝と夜、毎日二回、1時間以上立ちっぱなしで10年も20年も30年も家と会社を往復するなんて、イヤだな……
 でも、10年も20年も30年も、家の中で毎日、旦那や子どもの帰りを待って暮らすのも、イヤだ……
 嫌なことはいくらでも言えるのに、好きなことはなにひとつ言えない。
 11、12の東海道線、15の横須賀線のホームは白いパネルの向こう側……
 もうずうっと工事中……
 いつまで工事中?
 工事中の駅を見ると、なんだかとっても不安になる。
 塀やパネルで覆われて、どこまで工事が進んでるのか見えないせいもあるんだろうけど、なんだか、こっちのほうが隠されてるみたいな……いままでの自分と違ってしまってるのに、どう違ってるのか見えない感じ?……でも、隠されて見えないのは、いままでの自分なのか、いまの自分なのか……
 建設中のマンションみたいに、何年何月何日から何年何月何日までの工事だって貼り紙しといてくれればいいのに……
 工事前はこうでした、工事後はこうなりますっていう完成予想図を見ることができれば、ちょっとは安心できるんじゃないかな……
 予想……予期……予測……

「5番線、ドアーが閉まります、ご注意ください」

 推測……推定……想定……
 仮想……夢想……期待……
 鉄道唱歌の発メロが流れて、プォン、ゴォー、ゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴト、ゴト、ゴットン、ゴットン、ゴ、トン、ゴ……プシュウーキキ、キキ、キィ、キ……東海道線が新橋の方向へ走り去ると、2番線にすべり込んできた黄緑ラインの山手線外回りが見えた。
 ホームに並んだサラリーマン、O‌L、学生……
 車内は既に満員で、乗客たちは座席にすわることも吊革につかまることも網棚に荷物をのせることもできない。
 少女は、臨時ホームに吊り下がっている時計の緑色の文字盤を見上げた。
 5時44分。
 そろそろママが、慧くんのお弁当を塾に配達する時間だ。
 育ち盛りの慧くんに冷たい晩ごはん食べさせるなんてできるわけないでしょ、って毎日ママチャリでホカホカのお弁当届けて3年目になる。
 育ち盛り……
 わたしは、もう育ち盛りじゃないのかな……
 わたしの育ち盛りって、いつからいつまでだったんだろう……
 わたしは、慧くんみたいに中学受験なんてさせてもらえなかったし、高校受験の時も近所の学習塾みたいなとこだったからね……そのせいで志望校に入れなかったなんて言いたいわけじゃなくて、それはわたしの学力が低いせいだし、勉強自体好きじゃないから、妬んだり僻んだりなんかしたことはない……
 でも……
 誰にも、なんにも、期待されないのは、淋しいのかもしれない……
 期待され過ぎるのも、辛そうだけどね……
 少女は、煙草くさい溜め息を足もとに落として、臨時ホームの階段を上がっていった。
 スクールバッグにぶら下げたスカイブルーのMとシルバーピンクのIのイニシャルチャームと、赤いハートをかかえたリラックマのデカチャームがジャラジャラカチカチと派手にぶつかり合って、ケータイメールのアヒルの着信音を聞き逃すところだった。
 少女は階段のちょうど真ん中あたりで立ち止まり、スライド式の黒い携帯電話を開いた。

ちなみに今日ひま?
カラオケカラオケ!!

 眉間に一本縦皺が深く刻まれたが、少女は自分の顔の変化に気づかないままメールを打って、送信ボタンを押した。

行くー!!
渋谷?

 臨時ホームの階段を上り切って、J‌R品川駅構内のN‌E‌W‌D‌A‌Y‌Sの前を通り過ぎ、バラの赤、ヒマワリの黄、コチョウランの白……花屋の前で歩を緩めた時、白いテッポウユリが突き出た花束を手にした黒いタイトスカートの女が店から出てきた。
 少女は鳥を見たように思った。
 不気味で大きな鳥──。
 しかし、通り過ぎて振り返ると、それはただの中年女だった。
 ママと同じくらいの歳かな? 担任のウメバーと似てなくもないかな? とにかく痩せてて、自動ドアが開かなかったとか、日傘さしてメリーポピンズみたいに浮き上がったことがあるとか自慢してたけど、中年になってげっそりするのと、でっぷりするのと、どっちがマシなんだろうね……わたしって40歳になるのかな……40歳になるなら死んだほうがマシだけど、25年経ったら、平気で40歳になってるんだろうな……結婚して、わたしぐらいの子どもがいて……
 少女はN‌E‌W‌D‌A‌Y‌Sとしながわそばのあいだを曲がって、トイレの中に入っていった。
 下は制服の赤チェックのプリーツスカートのままだが、上に私服のグレーの長袖パーカーを羽織ってトイレから出てきた少女は、1、2番線山手線ホームの階段を下りていった。

「ご乗車ありがとうございます」

「なんか自分のことで精一杯になっちゃって、ひとのことぜんぜん聞いてなくってさ」
「でも、トモミンは自分の変化にすっごい正直なひとだと思うよ」
「エーぜんぜんそんなことないよ」

「2番線、ドアーが閉まります、ご注意ください」

 少女は、二人のO‌Lの三つ編みをほどいたようなゆるウエーブの茶髪に視線を定めて山手線外回りに乗った。
 ゴト、プシュー、トン、ルゥーーーゥ、ゴト、ゴト、ゴトッゴトッ……

「あのひとって仕事が一番とか思ってるでしょ? あの感じちょっとウザくない?」
「あぁ、あれは正直イタイよね」
「でもさぁ、イケダ部長、ぜんぜん評価してないらしいよ。来年は異動じゃないかな」
「むしろ、いま異動してほしぃ」
「ブハッ、チエ、それ言い過ぎぃ」

「この電車は山手線外回り、渋谷・新宿方面行きです、次は、大崎、大崎、お出口は左側です、埼京線、湘南新宿ライン、東京臨海高速鉄道りんかい線はお乗り換えです」

 ゴトゴトッ、ゴトゴト、コトコトコト……
 右手にスクールバッグ、左手に携帯電話を持った少女は、二人のO‌Lにぶつからないよう両足を踏ん張って、B‌o‌o‌k‌m‌a‌r‌kのいちばん上にある掲示板にアクセスした。
 登録名は、ビギナーズレシピ。
 ママにフィルタリングの解除をお願いしたら、わたしはネットのことはよくわからないから、パパに訊いてって言われて、将来I‌T関係の会社に就職したいからとか説得材料をいろいろ考えたんだけど、拍子抜けするほどあっさりとフィルタリング不要申込書を書いてくれた。
 百音はヘンなサイトを覗いたりする子じゃないから、パパは百音を信じるよって言ってたけど、違うよね? どうでもいいからだよね? 心配してないだけ、関心がないだけ、期待してないだけ……
 その代わり、パパには珍しく強い口調で言ったのは、電話料金のことだったよね……5千円までは払うけど、5千円超えた分に関しては自分のお小遣いから出しなさい、メールやネットはパケット定額でカバーできる、電話は家族間通話はタダだけど、友だちに電話し過ぎると大変なことになるぞって……
 わかってますって……公立落ちて私立に行くしかなかった時点で入学金だけでも40万円余計にかかったわけだから、ほんとうはテニス部に入りたかったんだけど、ユニフォーム代とか合宿代とか遠征代とか、これ以上親に負担かけるわけにいかないから帰宅部に甘んじてるわけだし、大学とか専門学校なんてワガママ口が裂けても言えないし……じゃあどうするの?って訊かれても、どうすればいいかわからないけど、あと2年と9ヶ月したら家を出て働くしかないんだろうな……なにして働くんだろうなわたし……無難なとこでやっぱりサービス業なんだろうな……デパートとかファミレスとか居酒屋とか?……I‌T関係じゃないことだけは確かですね……

「この電車には、優先席があります、お年寄りや、体の不自由なお客さま、妊娠中や乳幼児をお連れのお客さまがいらっしゃいましたら、席をお譲りください」

 やっぱ黒にしといてよかった……一瞬ピンクか白?って迷ったんだけど黒がいちばん飽きがこないし、汚れないし……わたし、当分このコでいいな……こう少し丸みがあって手にしっくりくるし……ヘンに角張ってるのはイヤ、折り畳み式もイヤ……中学ンとき机の下でメールやってて、閉める時パタッと音がして、担任にバレて没収されたんだけど、放課後、教員室に取り行ったら、6時限目だったから明日の放課後まで没収って言われて、すごいショックだった……

「This is a Yamanote Line train bound for Shibuya and Shinjyuku. The next station is Oosaki. The doors on the left side will open」

 このコのポイントはボタンの押しやすさだな……ポチポチ押してる感じがいい……文字の変換スピードも、遅いとノロマ!って感じだけど、このコは超優秀、2コ1でどこにだって走って行ける感じ……

「湘南新宿ラインの普通列車、8番線から18時10分です、どちらさまもお忘れもののないようにご注意ください」

「えっ、降りるの?」
「うん、今日は帰る、明日早いから」
「うっそ、マジで? なにソレ」
「ごめんね、でも早いんだよ」

「どっちが上だよ?って話だよね〜」
「でも、上とか下とかないから、アレは別にいいんだよ。でも、まぁいちおう報告はしたからね、まぁでもアレではあるよね」
「正直ちょっと引くよね」
「言えてる」

「終わった?」
「うんうん」
「ユミは?」
「うんうんうんうんうん」
「ねえ、ちょっとダルいんスけど」

「だって、アイツがさ〜つづけてモノ考えられないのが問題なんだよ。フツーはもう少しいい反応するよ」
「いや、むしろアソコで反応しなかったのが問題じゃね?」
「そうかも、それってもうセンスだよな、あきらめろって感じ」
「いや〜、そういうオレも自信ねぇ」
「ハハハハ」

 いくら聴いても、なに話してるのか、わからない。
 聴きたくて聴いてるわけじゃないけど、勝手に声が耳に飛び込んで来る。
 こんなに声だらけだと、息と息が縺れ合う気がして、息苦しい。
 わたしの耳だけじゃなくて、山手線に乗ってる全員の耳が開いてるのに、みんな聴いてないの?
 ねぇ、どうしたら、聴かずに済むの?

「東急池上線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。The next station is Gotanda. The doors on the right side will open. Please change here for the Tokyu Ikegami Line and the Toei Asakusa Line」

「わたし、長男が隣に寝てないと眠れないんだよね〜この前お泊まり会でいなかったら、わたしのほうが眠れなくなっちゃったんだよね〜」
「そうなんだ〜」
「なんか大きさがちょうどいいっていうかさ〜安心っていうかね〜」
「だって癒し系だもん。この前も幼稚園で会ったら、にこにこ走ってきてくれたよ〜」
「そう、みんなになついちゃうんだよね〜なんだかね〜」

「ご乗車ありがとうございました、五反田、五反田です」

「えっ、乗る?乗る?乗るの?」
「乗って! 早くッ!」

「2番線、ドアーが閉まります、ご注意ください」

 みんな傘持ってるんだ……
 雨ふったんだっけ……
 いつ……
 雨ふりました?

「閉まるドアー、ご注意ください、ドアが閉まっております! お下がりください!」

 ゴト、プシュー、トン、ルゥーーーゥーー、ゴト、ゴト、ゴトッゴトッ………ルルゥーン、カタッカタッ、カタ、タタタタァァァ……みんな山手線沿線の会社や学校に、朝から夕方までいたはずなのに、近くにいたって感じがしない……カタタタッ、カタタタッ……同じ一つの時間を過ごしたって感じがしない……カタタタタッ、カタタタタッ、カタタタン、カタタタン、カタタ、カタタ……この時間、山手線は4分おきに走ってて、品川から新宿まで20分しかかからないのに……カタタタタッ……漂流してるみたい……カタタタン、カタタタン、カタタタタ、カタタタ、カタタタン……線路の上をいくつもの時間が束になって流れて、その中にわたしの時間もあるはずなんだけど……プォン、ゴォー、ゴトゴトッ、キキ、キキ、キィ、キ……キ……キィィィ……わたしの時間は、いつも軋んでる……キィィ……キィィィィ……時間の不協和音……

「そろそろ、いいんじゃない?」
「え〜でも、サクライくん単体じゃな〜」
「いろいろ試してみればぁ? 割とおもしろいかもよぉ」
「でも、行けないんだよ、なかなか。それよかさ、店決めた? なにその顔、ぜ〜んぜん決めてませんって顔?」
「てゆ〜か、なに食べたい?」

「次は、目黒、目黒、お出口は右側です、東急目黒線、地下鉄南北線、都営地下鉄三田線はお乗り換えです」

 キキ、キキ、キィィィィ……夏場の電車ンなかってすごいヤだ、汗がにおう息がにおう空気がにおう……キッ……キキッ……ゴト、プシュー、ルルル、コト……鼻と耳が開いてるのはどうしようもないから、誰かのことを考えて目を閉じたいのに、誰の顔も思い出せない……どうして、わたしは誰のことも好きじゃないんだろう……家の人も、学校の人も、電車の人も好きじゃない……キキ、キキ、キキキキキィィィ……

「ご乗車ありがとうございました、目黒、目黒です、お忘れものないよう、ご注意ください……2番線、ドアーが閉まります、ご注意ください」

「ねえ、ちょっと聴かせてよ」
「えっいいよ」
「あっいい、片方でいい」
「いいよ、聴きにくいよ。音量、調節してね」

「どれが?」
「えっ、どれって?」
「あ、ゴメン、そういうつもりじゃなかったんだ」
「えっ、なにそれ」
「うん、いいや」

「2番線、ドアが閉まっております! ドア、閉まります! ご注意ください!」

「どうします? このまま直で戻ります?」
「う〜ん、あと1ヶ所まわろうか」
「どこ行きます? シマムラさん、最近行ってないっスよ」
「いや、ちょっと遠いだろ。いまからなら、ウエマツさんかイトウさんかな」
「じゃあ、新宿で総武線っスね。会社に連絡しときます」
「いいよ別に、連絡なんて」

 ゴト、プシュー……トン、ルゥーーーゥーー……ゴト、ゴト、人、人、ゴト、人、ゴトゴトッ、人ひと……わたしにとってはなんでもない人……ゴトゴトッ、なんでもない人……ゴトゴト……なんでもない時間……コトコトコト……なんでもない人となんでもない人が関係を結ぶ……コトコトコト……それってなんでもない関係なのかな……ルルゥーン……それとも関係した途端になんでもなくない人になるのかな……カタッカタッ……でも、関係するってどういうこと?……カタッカタッ……なんでもない人と関係するなんて、わたしは無理……カタ、タタタタァァァ……命は重いとか、誰も彼もの命をなにかであるかのように語る人って、大嫌い……タタタタァァァ、タタタタァァァ……だって、なんでもない人の命なら、なんでもない生で、なんでもない死でしょ?……タタタタァァァ……タタタタァァァ……

「ホントはさ、ちょっとキビシかったんだよね〜」
「わたしも! でもさ、ちょっと言えないよね〜」
「言えないっていうかさ、来週から月、木のシフト同じなんですけど、どうしよ」
「ウッソ〜、ムリかも〜」
「ムリっしょ?」

「そうですか? もう少しいけたと思うんですが」
「いや、ギリギリだよ。見積もりを見た時の顔、気づいた? アレ、だいぶ差があるぞ。苦笑いしてた」
「えっ、でもあと10くらいはなんとかなりますよね?」
「おれの一存じゃ無理だよ」

「アケミって評判悪いよねぇ」
「ソレよく聞くぅ」
「全体的に媚びてるしアノコォ」

「次は、恵比寿、恵比寿、お出口は右側です、埼京線、湘南新宿ライン、地下鉄日比谷線はお乗り換えです、ご乗車ありがとうございました」

「昨日先に寝ちゃってたよ」
「あ、そう」
「寝顔みてたんだ」
「え? そうなの?」
「5分くらい見てたと思う」
「なにソレ」
「フフフフフ」

「なに、メール? 誰から?」
「うん? 会社から」
「えっもしかして、戻らなきゃかも?」
「いや、ソレはだいじょうぶ。でも、ちょっと次の駅で降りて一度電話するわ」

 少女は「ビギナーズレシピ」の最新のスレを眺めている。

 

193:スレ主:06/17 13:10:11
スレ主です
アド晒したので、プロバイダーが割れて警察来る可能性あり。猶予は2日
決行日は6月19日神奈川です
blackangels@yaboo.co.jp

194:優しい名無しさん:06/17 13:13:20
>>193
アド晒したって言ったってフリーメールじゃん 説得力ねーよ
シヌシヌ詐欺じゃね?
スレ主ネナベくさくね?
死ぬ前に一回やらせろ どうせ死ぬんだからいいだろ

195:ゴーゴーゴーゴー:06/17 13:18:35
>>193
ここってガチなん?はやくスレストしとけよ

196:優しい名無しさん:06/17 13:20:20
去年は200人くらい保護されたんだよね、カキコミから通報した
お節介さん達のおかげで

197:淀川心中:06/17 13:23:20
>>193
エバミール、アモバンだったら4人分用意できるが、今夜一晩考えてメールする

 

「だったら渋谷で降りる?」
「いや、新宿?」
「オッケ、じゃ新宿まで行こっかぁ」

「ギャラリーまでの道、わかるの?」
「うん、たぶんだいじょうぶだと思う」
「えっ、表参道だよね?」
「たぶん渋谷からでだいじょうぶ、青学の裏手だから」
「どこソレ?」
「こどもの城の前あたり」
「時間だいじょうぶなの?」
「ギリかも」

「つぎ?」
「うん、降りよっか?」
「歩けるよね?」
「たぶんね」

「ご乗車ありがとうございました、恵比寿、恵比寿です、すいてるドアーよりお入りください、まもなく、ドアーが閉まります、すいてるドアよりお入りください、ご注意ください! お詰めくださ〜い!」

 ゴト、プシュー……トン、ルゥーーーゥーー ……ゴト、ゴト……平凡がイヤなんじゃない……ゴト、ゴトゴトッ……こうやって、わたしが生きてる時間が……ゴトゴトッゴトゴト……平凡な時間の中で無駄に過ぎてるのが……コトコトコト……イヤだ……コトコトコト……イヤだ……ルルゥーン……堪えられない……カタッカタッ、カタ、タタタタァァァ……タタタタァァァ、タタタタァァァ……タタタタァァァ……

「それ、布に刷ったらどうなるんだろうね?」
「わかんないけど、まだ時間あるよね? 新宿に寄ってもいい?」
「え、いいけど、もうオープンしちゃってるよ」

「っていうか、ひと駅くらい歩けって話だよな」
「でも、意外と遠いっスよね」
「そんなに変わらないよ」
「変わりますよ〜」

「ねぇ、カバン開いてるよ」
「えっ、あっ、ホントだ、ぜんぜん気づかなかった」
「だいじょうぶ?」
「いや、だいじょうぶだと思うけど」
「降りたらちゃんと見たほうがいいよ、もしかしてずっと開いていたのかもしれないし」

「次は、渋谷、渋谷、お出口は左側です、東急東横線、東急田園都市線、京王井の頭線、地下鉄銀座線、地下鉄半蔵門線、地下鉄副都心線はお乗り換えです、電車とホームのあいだが空いているところがありますので足もとにご注意ください」

「お疲れさまでした〜」
「お疲れ〜また明日ね〜」
「じゃっね〜」

「あ、いま渋谷に着きました……えっ、ちょっと聞き取れなくて……はい、エクセルの……はい、わかりました、すぐに参ります……ああッ! どこだよッ!」

「出たら左行って、左! 改札で待たせてっから」
「チョイ遅れましたね」
「店、直でもよかったな」

「ゴッメ〜ン、やっと着いたぁ……うん、いまそっち向かってるとこ……うん、うん、スタバの前まで迎えにきて」

「ご乗車ありがとうございます、電車とホームのあいだは広く空いております、足もとにご注意ください、すぐの発車となりま〜す、すぐの発車となりま〜す、降りるお客さま、済みましたドアより、ご順に車内中ほどへお進みください、新宿、池袋方面行き、すぐの発車です」

「ねぇ、ちょっと待って! 半蔵門線ってこっちでいいんだっけ?」
「どこから出ても、だいじょうぶだよ」
「ねぇ、違うって! ちょっと待ってってば!」

「すっごいカワイイんだよ、ぜったいイイって」
「イケそう?」
「ぜったいイケるって」
「マジで? ちょっとトイレ寄っていい?」

「1番線、ドアーが閉まります、ご注意ください」

 たくさんの乗客とともに山手線外回りから押し出された少女の視線は、電車に向かって来る人と人の顔と顔のあいだを掠めて、ぶら下がり看板の〈渋谷〉の二文字を見上げた……プシューキキ、キキ、キィ、キ……キ……キ……むかしは平仮名で〈しぶや〉だった気がするんだけど、気のせい?……キ……キ……キ……ゴト、シュー……むかし……むかし?……むかしって、いつ?……中学ンとき?……小学校ンとき?……ルルル、コト、コト……通勤通学時間と帰宅時間って、足並み揃えたくないのに揃っちゃうからイヤだ……イヤだイヤだ……
 少女は、ハチ公口改札に隣接している女子トイレに入ると、ピンクの水玉模様の黒いビニールポーチの中からリキッドアイライナーを取り出し、上瞼の際に細く真っ直ぐな線を引き、手首にはめていた100均のピンクのシュシュで髪をポニーテールにしているあいだにアイライナーを乾かして、ビューラーでまつげを挟んで小刻みにプレスしながら毛先に移動していった。
 マスカラ上まつげO‌K、下まつげO‌K、リップグロスO‌K、8×4パウダースプレーせっけんO‌K、スカート外折り二回O‌K──、少女は鏡の前でハキュッとアヒル口を拵えて写メの練習をし、女子トイレを出た。
 スイカを自動改札にタッチしてハチ公口に出ると、もう山手線の音は聞こえなかった。
 少女は、ちょうど信号が青に変わったスクランブル交差点を4・5センチヒール黒革ローファーでカツカツと渡っていった。

「よく聴いてください、いまは恵みの時です、今日は救いの日です、間違ってはいけません、神は全ての人に悔いあらためを命じておられます」

 繰り返し流されている男の声が妙に気になって、少女は声の源を目で探し、センター街の入口に〈罪を悔いあらためなさい〉という黄色いプラカードを持って立っている女を見つけた。
 顔はプラカードで見えないが、緑と白のラガーシャツは大きな乳房で盛り上がり、手足の白さで白人だということがわかった。

「罪人は決して神の御国に入れないのです、大審判の日が迫っています、あなたの隠された行いも密かな思いも全て暴かれます、全ては神に見通されているのです、罪を犯す人びとの受けるべき報いは永遠の地獄です、悔いあらためなさい」

 暑い、と思った瞬間、ネオンといっしょにビルというビルの輪郭がとろけて流れ出した気がした。
 立ち眩みだ──、少女は深呼吸をして、もう一度ハキュッとアヒル口をつくり、プラカードの白人女の横を通り過ぎてセンター街を突き進んでいった。
 なにか起きるのではないかという期待が少女の体を弾ませ、どうせなにも起きないに違いないという諦めが少女の心を萎ませた。
 今後の課題はアゲアゲとサゲサゲの両立だな──、少女はカラオケB‌O‌Xのビルの中に入っていった。

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柳 美里(ゆう・みり)

1968年生。高校中退後「東京キッドブラザース」入団。86年演劇ユニット「青春五月党」結成。93年『魚の祭』で岸田戯曲賞、97年『家族シネマ』で芥川賞、2020年『JR上野駅公園口』で全米図書賞受賞。

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