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「トークの教室」刊行によせて

 

 

トークの教室」刊行によせて

藤井青銅 著

 

 

SNSはトークに似ている

SNSでは連日、見知らぬ誰かが書いた「我が家でこんなことがあった」とか「電車の中での出来事」とか「私はこう考える」といったものに出会う。きっとあなたもそうだろう。
当然、「この人うまいな」というケースや、「文章はヘンだけど、味があって、これはこれで面白い」というケースや、「言いたいことはわかるけど、この言い回しは反感買うだろうな」というケースもある。
多くの方がスマホで、たぶん反射的に、短く書き込む文章は、ほぼトークしている感覚なんだと思う。もう消えかかっている表現だが、ツイートは「つぶやき」と訳されていたし。

私はずっと、本の作家と放送作家という二刀流でやってきた。放送作家としては、長年いろんなタレントさんにトークのアドバイスをしてきた。
だから、SNSを見て「この話は、こういう言い方をすればもっと面白く伝わるのに」とついアドバイスしたくなるのだ。きっと職業病なのだろう。

現在私は、芸人・オードリーのオールナイトニッポンを担当している。ずっと若林さんのトークの相談に乗っている。そして何年も前から何度も、若林さんに「青銅さん、トークのアドバイスをする本を書けばいいのに」と言われ続けてきた。
それで今回、この本を書くことになったのだ(その経緯を本のまえがきに書いたら、先日の放送で若林さんに「本にそんな言い訳はいらない」と言われてしまった。ま、そりゃそうだな)。

 

 

面白いトークってなんだろう?

私がこれまで番組を担当してきたのは芸人さんだけではない。若いアイドルの女の子や、役者、ベテランの声優さん、アナウンサー…など。対談番組の場合は、多種多様な方がやってくる。
それぞれの番組で、私を含めスタッフは、その人の面白さを引き出そうとする。同じ題材を喋っても、人によって違うトークになるのは当たり前。つまり、人物ごと、番組ごと、企画ごとに「面白い」は違うのだ。

違うのだけれど、今回本を書いてみて、共通する点があることに気づいたのだ。
それは何か? 「本人が思う面白い」と「番組スタッフ(私)が思う面白い」と「ファンが思う面白い」と「とくにファンではない世間が思う面白い」には微妙なズレがある。私はいつもそのズレのすり合わせをしていたのだ、と。
たぶんこれは、タレントではない私たちのトークにも共通する。つまり、「あなたが思う面白い」と「あなたの知り合いが思う面白い」と「あなたのことを知らない人が思う面白い」とは違う、ということ。
さて、あなたは誰かに何かを話す時、そのすり合わせをしているだろうか?

 

 

「紙上トークレッスン」

この本では、三人の方(社会人/学生/芸人)に実際に私がトークのアドバイスをし、それぞれのトークがどうなるかを書き起こした紙上再現の一章がある。
こんな感じだ。これは、社会人である三浦さんという女性の虫歯治療の話。

青銅● 頭の中で代わりに喋ってもらうんですね。「痛くないよ」とか?

三浦● どっちかっていうと「ここ、いつまで削るんだよ!」って。

青銅● あっ、ツッコミを入れてもらうんだ(笑)。

三浦● はい。

実はこの企画のアイデアは若林さん。「(いつも自分が青銅さんとやっている相談というか打ち合わせ風景を)他の人のケースで見てみたい」ということなのだ。
これは、アドバイスする私の様子も自分で文字で再確認することになる。「ああ、私はこんな風にして話の軌道を変えようとしてるのか」などというのがわかり、読んでみて(反省も含め)面白かった。

 

 

誰も教えてくれなかった

世の中にプレゼンやディベートやセールストーク、交渉術、スピーチなどの本は多いが、面白いトークの本なんてあまり見たことがない。ビジネスではないトークのやり方など、誰も教えてくれなかった。

だけど日常において、仲間内でのトークや、その変形であるSNSはとても多い。そこで無用な反感を買うより、共感してもらった方がいいでしょ? つまらないより、面白い方が楽しいでしょ?
本当はこういうことこそ教えてくれなきゃ…なんて、ちょっと思ったりもしたのだ。

 

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