日本文学

大野露井『塔のない街』刊行記念 「異端にして正統――大野露井論」(13000字)

「塔のない街」評者=川本直(小説家・文芸評論家)   長い間、大野露井に畏敬の念を懐いていた。時代の潮流など気にも掛けずに我が道を行くこの文学者を、私が初めて観測したのは、2014年、とあるWebサイトの辻原登が審査員を務める新人賞でのことだった。大野露井が新人賞を受賞した長編小

恩田陸『灰の劇場』文庫化記念! 武田砂鉄さん書評掲載。──日常と絶望は近い

  今、生きている人間が全員漏れなく死ぬことになっているというのは、なかなか恐ろしい事実である。いや、でもですね、自分に限ってはそんなことなくって、もうずっと生きているんです、かれこれ540年くらいになりますかね、という人は見当たらない。みんな死ぬのだ。「死」を漠然と怖がっていた幼少期、自

恩田陸『灰の劇場』文庫化記念! 小島慶子さん書評掲載。──想像の中では誰もが等しく肉体をもたない生者である

  恩田氏本人を思わせる作家が主人公である。実際の事件を題材にした作品が舞台化されることになり、役者のオーディションに立ち会う。そこで思いがけず、大きな動揺を覚えることになる。「ほんとうにあったこと」は、形にしようとすればするほど見えなくなっていく。一度きりの人生は、誰もその本当の姿を知る

恩田陸『灰の劇場』文庫化記念! 斉藤壮馬さん書評掲載。──「救済を感じた」ラストシーン

記憶と記録――恩田陸著『灰の劇場』斉藤壮馬  灰色の羽根が降り積もり、やがてすべてを掻き消してしまう。あとに残るものは、いったいなんなのだろう。記憶する、記録するとは、いったいどういうことなのだろう。恩田陸さんの『灰の劇場』は、そんなことをしみじみと考えさせられる、不思議な味わいの作品だっ

神話の解体と誕生――文庫版刊行記念! 歌人・瀬戸夏子が読む、川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

 「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」川本直 著 評者・瀬戸夏子(歌人)    もはや文学に贅沢など許されない時代に、これ以上ないほど、溢れ出しそうなほど山盛りに模造のダイヤを詰め込んだ宝箱、きわめて反時代的な書物である。 もう二十世紀のように文学からスターな

ベストセラー『水曜の朝、午前三時』の著者が再び描く愛の物語。青春という過去を抱きつつ、いま身近にいる人を大切に思う。だから人生は美しい――

「美しき人生」書評:田村文(共同通信編集委員)  1970年の大阪万博を舞台に苦く哀しい恋を描き、ベストセラーとなった蓮見圭一の小説『水曜の朝、午前三時』(2001年)のタイトルは、サイモン&ガーファンクルの曲名と同じだった。本書『美しき人生』の題名は一見平凡だが、英訳として「What i

「ちょっとフリージャズとかそういうのの演奏に似ている。」(本文より)――山﨑修平デビュー小説『テーゲベックのきれいな香り』書評

 この詩になりかかりつつ小説であることを堅持している小説の書き方は、自分の『詩歌探偵フラヌール』を書いていた時の息の使い方に似ていると思った。『詩歌探偵フラヌール』は文字で記録をするものの、その言葉の広げ方は一回限りの、ライブのような姿勢で書かれた。「文学の本領とは、言葉を書き連ねていくごとに世界が

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