ためし読み - ノンフィクション
どんなに教育に投資しても、子は親に似てくる…歳を重ねるほど遺伝の影響はむしろ強まることが判明。即重版の話題書『こころは遺伝する』無料公開
ロバート・プロミン著 田中文訳
2026.04.21
私たちひとりひとりのこころの違いは、ほかのすべての要因を合わせたよりも大きな割合で、遺伝によってもたらされている
行動遺伝学会会長に史上最年少で就任し、半世紀近くにわたり遺伝学研究を牽引してきた行動遺伝学の世界的権威 ロバート・プロミンが、私たちの〈こころ〉を形づくるものの正体を明らかにした研究を一冊の本にまとめました。
『こころは遺伝する DNAはいかに〈わたし〉を形づくるか』。
プロミン率いる双子や養子を対象とした縦断研究によって、性格や知能など、私たち一人一人のこころの違いは、ほかのすべての要因を合わせたよりも大きな割合で、遺伝によってもたらされていることが判明しました。
つまり、両親から受け継いだDNA――遺伝子――こそが、私たちを私たちたらしめる設計図の源であることがわかったのです。
彼らの研究はほかにも、これまでの常識を覆す次のような事実を明らかにしました。
・遺伝の影響は歳を重ねるごとに強まる
・家庭も学校も、子どもの将来に違いを生まない
・知能、性格、行動、疾患は、生まれた瞬間に予測できる
3月末に日本語版が刊行されるやいなや大変な話題となり、発売10日で重版が決定、日本でも大反響を巻き起こしています。
重版を記念し、特に話題を呼んだ第4章「年齢を重ねるほど、遺伝率は高まる」を無料公開します。
※本文中の原註は本記事では省略しています。詳細は『こころは遺伝する』書籍をご参照ください。

『こころは遺伝する DNAはいかに〈わたし〉を形づくるか』
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第4章 年齢を重ねるほど、遺伝率は高まる
幼少期を過ぎると遺伝の影響は消えてなくなるとするソ連の仮説を支持する証拠はひとつもなかった──
歳を重ねるにつれて、遺伝の影響は強まるか弱まるか、どちらだと思いますか? この質問に対して、ほとんどの人は(相対的に)「弱まる」と答える。それにはふたつの理由がある。ひとつは、私たちは環境の風に絶えずさらされているのだし、その効果が年々積み重なっていくのは明らかなことに思えるからだ。歳を取るにつれて、親や友人、人間関係や仕事、事故や病気などの影響は増える一方なのだから。ふたつめの理由は、遺伝の影響は受精の瞬間から変化しないという誤った考えを人々がもっているためだ。なぜなら母親と父親から受け継ぐDNAは卵子と精子が出会った瞬間から変化しないのだから、と。
そうした観点から見ると、行動遺伝学の大発見は直感に反している。遺伝の影響は私たちが歳を取るにつれて強まることが示されたのだ。心理的形質のうち、年齢が上がるにつれて遺伝的影響が弱まるものはひとつもなく、なかでも、年齢とともに遺伝率が劇的に上がるのは認知能力だと判明した。
認知能力には言語能力や空間認知能力などいくつもの能力があるが、実際には、ひとつの能力が高ければ、他の能力も高い傾向にあることがわかっており、たとえば記憶力が高い人は、他のすべての知能も高い傾向にある。人はよく、自分は国語は得意だけど数学は苦手だ、というように考えるが、例外はあるものの、実際にはどちらかの能力が生まれつき高ければ、もう一方の能力も高いことが多い。
知能という構成概念は、多様な認知テストに共通する要素をとらえたものであり、そのためにしばしば「一般認知(general cognitive)能力」、あるいは単に「g」と呼ばれる(1)。「知能テスト」はたいてい、十数種類の言語テストと非言語テストで構成され、その総合点がIQスコアで表される。IQとは「知能指数(intelligent quotient)」という、いまでは時代遅れの概念の略語である。
知能の研究者の大多数は、知能の核とは「推論し、計画し、問題を解決し、抽象的に考え、複雑な考えを理解し、すばやく学び、経験から学ぶ」能力だと考えている(2)。知能は科学的にも社会学的にも重要であり、科学的には、脳の働きを反映している。ただそれは、脳画像を使った研究で観察されるような、ある特定の狭い部位の活性化による限局的な働きではなく、問題を解決するためにさまざまな領域が同調して働く脳の処理能力だと考えられている(3)。社会学的には、知能は教育達成度と職業的地位の最も優れた予測因子のひとつである(4)。
前世紀をとおして、知能についての遺伝学研究は、社会科学における「生まれか育ちか」論争の渦中にあった(5)。この論争を駆り立てていたのは生物学的決定論や優生学、差別についての見当違いの恐怖心であり、こうした議論のせいで、遺伝学の重要性を受け容れるためのハードルは不必要に高くなっていた。しかし、より大規模で信頼性の高い遺伝学研究の積み重ねによって、そうしたハードルは低くなっていった。これらの研究が一貫して示したのは、知能テストのスコアの個人差の半分が遺伝的差異で説明づけられることだった。この50%という遺伝率には、じつのところ、驚きの発見が隠れている。年齢が上がるにつれて、遺伝率が変化するという発見だ。
1983年、私はアメリカの代表団の一員としてソ連を訪問した。代表団はソ連のデイケア・センター(そのデイケア・センターをソ連は当然のことながら誇りにしていた)に通う子どもたちの発達を調査するために招待されていた。私たちを惹きつけたのは、欧米人がめったに目にすることのできないソ連の各所に行けることだった。それにしても、なぜ自分が招待されたのか、私にはわからなかった。当時の私の研究は、幼少期における遺伝的影響を示していたのだが、ソ連では、重要なのは環境だけだと考えられており、遺伝という概念そのものが、政治的に不適切だったからだ。しかしやがて、子どもに限定すれば、遺伝という概念がソ連で受け容れられていることを知った。ソ連の幼少期共同集中ケアプログラムの土台となる概念は、子どものもつ動物としての性質(そこには遺伝的素質も含まれる)を消し去り、共産主義社会に適合するように子どもを変えることだったからだ。こうした背景もあって、発達の初期に遺伝的影響が存在することを私たちが示しても、その結果は受け容れられた。その影響は成長とともに重要ではなくなると考えられていたからだ。
しかし、幼少期を過ぎると遺伝の影響が消えてなくなるとするソ連の仮説を支持する証拠はひとつもなかった(6)。むしろ、当時の研究はそれとは正反対の結果を示しはじめていた。年齢が上がるにつれて、DNAの影響はますます強くなっていくことがわかったのだ。きっかけは、「ルイビル双生児研究」〔米国ケンタッキー州ルイビルでおこなわれた長期縦断研究〕によって、幼児期と児童期の知能の遺伝率が年齢とともに高まることが示されたことだった(7)。1983年に発表された本研究の結果は、500組のふたごを幼児期から青年期まで計14回追跡した20年にわたる調査にもとづいていた。幼児期から青年期へと成長するにつれて、一卵性双生児の知能の類似性は高まる傾向にあり、相関係数は0.75から0.85へと上昇していた。反対に、二卵性双生児の類似性は低くなり、相関係数は0.65から0.55へと低下した。遺伝率は一卵性双生児と二卵性双生児の相関係数の差から算出されるため、この結果から、幼児期には20%ほどだった遺伝率が青年期には約60%まで上昇したことがわかる。
この長期的な追跡調査からは一貫して、遺伝率の上昇という結果が得られたものの、サンプル数が500組と比較的少なかったために、統計的な有意性を示すだけの説得力はなかった。この結果の正しさを劇的に裏づける研究結果をもたらしたのは、CAPだった(8)。他の多くの研究と同じく、この研究からも、養子家庭ではない家庭の親子の知能の相関係数が約0.1(幼児期)、0.2(児童期)、0.3(青年期)と上昇することが示された。最も驚かされたのは、同じパターンの類似性の上昇が、養子に出された子どもと、生みの親とのあいだにも認められたことだった——生後数日で離れ離れになって以来、親子は一度も会ったことがないというのに。子どもが16歳になるころには、養子に出された子どもと生みの親の知能の相関係数は、実子家庭の親子と同程度になっていた。これに対して、環境のみを共有する、養子と育ての親の知能の相関係数はほぼゼロだった。
遺伝率の上昇という仮説をさらに裏づける研究結果は、2010年のコンソーシアム双生児研究からもたらされた(9)。これは、四カ国の一緒に育ったふたご、計1万1000組の知能についてのデータを分析する研究で、サンプルサイズはすべての先行研究を合わせたものよりも大きかった。その結果、知能の遺伝率は児童期から青年期、若年成人期にかけて、40%、55%、65%と大きく上昇することがわかった。
最終的に、知能に関するすべてのふたご研究と養子研究の結果を統合するメタ分析が2013年におこなわれ、その結果、発達に伴う遺伝率の上昇がたしかめられた(10)。これらの研究が若年成人期までの発達に着目しているのは、それが行動遺伝学研究のサンプルサイズが最も大きい年齢層だからだ。その後の年齢についての数少ない研究からも、成人期全体をとおして遺伝率が上昇しつづけることが示されており、65歳の時点での遺伝率はおよそ80%だと判明している(11)。
==続きは『こころは遺伝する』でお読みください。==





















