ためし読み - 文藝
阿部和重 約十年ぶりの短編集『Ultimate Edition』刊行記念 全収録作解説インタビュー(8)「扉の陰の秘密」
阿部和重
2022.11.01
十月二十五日、全十六作を収録した阿部和重の短編小説集『Ultimate Edition』が刊行された。初めて阿部和重を読む人に、阿部和重のこれからを読みたい人にうってつけの作品集。氏の作品を知り尽くすフィクショナガシン氏を聞き手に、この究極の一冊への扉として全収録作自作解説を十六日連続でお届けする。
「扉の陰の秘密」
オーストリア出身の映画監督フリッツ・ラングの作品名、または楽曲Secret Beyond the Door
──ここからはごく短い掌編が四作続きます。短編と掌編とで書き方に違いはありますか。
「書き方としては同じですね。この四つはいずれも前もってテーマが決まっていました。『扉の陰の秘密』は、週刊誌の連載企画で官能小説を依頼されて書きました。テーマだけでなくジャンルも指定されるのは初めてでしたので、面白いし、ちょっとやってみようと。わたくしは風刺小説を手がけると同時に、パロディの表現もあれこれ試みてきた作家でもあるので、官能小説の構文ってこんな感じだったかなと楽しみながら書きました」
──ショートショートとして完璧ですね。官能小説と言いながらも、あなたならではの清潔感、上品な感じがあって、最後のオチの鮮やかさで持っていかれました。
「ここがわたくしのまだまだ甘いところかなと思われるのですが、自分らしさの刻印も残しておかないと手ぬきみたいに見られるかなとおそれたんですね。しかしこういう場合はジャンルにどっぷり浸かりきり、もっと官能を全面的に押しだしてゆくべきだったなと反省しております」
(つづきは明日2日公開)