ためし読み - 文藝
阿部和重 約十年ぶりの短編集『Ultimate Edition』刊行記念 全収録作解説インタビュー(11)「Hunters And Collecters」
阿部和重
2022.11.04
十月二十五日、全十六作を収録した阿部和重の短編小説集『Ultimate Edition』が刊行された。初めて阿部和重を読む人に、阿部和重のこれからを読みたい人にうってつけの作品集。氏の作品を知り尽くすフィクショナガシン氏を聞き手に、この究極の一冊への扉として全収録作自作解説を十六日連続でお届けする。
「Sound Chaser」
イギリスのロックバンド「Yes」の楽曲名
──次も企画ものですね。
「これはほぼ広告に近いですね。朝日新聞の元旦企画で、アイドルグループ『嵐』の各メンバーをモチーフにした作品を、作家がひとりひとり受け持って書くというものでした。で、わたくしが担当したのがリーダーの大野智さん」
──とはいえ、ぜんぜん関係なく読めてしまう作品でもありますね。
「『嵐』のファンの方にはしっかり伝わる記号はちりばめてはいるんです。大野さんに関連するキーワードをいくつかと。ただ、ショートショートとしても、わりときれいに書けた気がしています」
──そうですか。ふむふむ。「怪物を追いかけるのが、彼の仕事だ」と冒頭にあるのは、大野さんが『映画怪物くん』で主演だったから、と。記号の埋め込み方が大胆というか、ファンへの信頼感が厚いというか……。いや、むしろ非常にあなたらしいのかもしれない。物語としては、本当に気象現象としての嵐が描かれています。
「嵐を文字どおりの気象現象としてとらえて思いついたのが、ストームチェイサーを仕事にしている主人公という設定でした。ストームチェイサーについては映画で見て知っていたのですが、当然ながら詳細を調べないと書けない。だから、こんなに短い作品ですけどコストはかなり掛かっているんです」
(つづきは明日5日公開)