ためし読み - 文藝
阿部和重 約十年ぶりの短編集『Ultimate Edition』刊行記念 全収録作解説インタビュー(12)「Watchword」
阿部和重
2022.11.05
十月二十五日、全十六作を収録した阿部和重の短編小説集『Ultimate Edition』が刊行された。初めて阿部和重を読む人に、阿部和重のこれからを読みたい人にうってつけの作品集。氏の作品を知り尽くすフィクショナガシン氏を聞き手に、この究極の一冊への扉として全収録作自作解説を十六日連続でお届けする。
「Watchword」
Philip Michaelのピアノ曲
──次もアイドルグループに当てて書かれた作品ですね。
「アイドルグループ『A.B.C-Z』のメンバー戸塚祥太さんが、雑誌『ダ・ヴィンチ』でエッセイの連載をされていて。その連載が本にまとまるのを記念して組まれた特集号への掲載作品です。戸塚さんとは以前、対談をさせていただいた縁もあって、『A.B.C-Z』についての短編を、という依頼でした。ファンへの信頼感が厚いわたくしとしては、グループのメンバー全員がそれぞれにふさわしい役割を演じるエンタメ色の強い作品に仕あげたつもりです」
──この作品は読んでいて映像が浮かびますね。実際に本人たちに演じてもらいたいぐらいだと思いました。
「Twitterにそういうご感想を投稿してくださったファンの方たちがいて嬉しかったです。これは本当に書いてよかったなあと思いましたね。今までわたくしの小説を読んだことのないような方たちが、すごく好意的に読んでくださって。きっと他の作品を読むとすごく後悔なさるとは思うけど(笑)」
─どこまで書けば映像を思い描けるのかの塩梅が絶妙ですね。普段はもしかしたらそんなに小説になじみない方が読んでも楽しめたのはよく分かる気がする。一方で、グループのことを知らない読者には伝わりにくいという懸念はなかったですか。
「なかったですね。というのも、ジャニーズじゃなくても、例えばブラジルのボルソナロにしても、ロシアのナワリヌイにしても、知らない人は知らないわけです。たいていの小説には未知の部分はあるものだけれど、面白ければ読んでしまうじゃないですか。気になるものがあったら自分で調べたりするはずですし、それはどの小説にもあることだから許容範囲じゃないかなと」
(つづきは明日6日公開)