単行本 - 自然科学

この広い宇宙には、地球以外にも生命はいるのだろうか?

最近、NASAが「地球に似た7惑星を発見した」と発表し、大きな話題となりました。
地球外生命体は、常に関心をもたれ続けるテーマです。
このホットな話題に、生物学、天文学、化学など各分野のトップランナーたちが最新の成果をもとにこの謎に挑んだ『科学者18人にお尋ねします。宇宙には、だれかいますか?』が発売になりました。

本書に収録されているウィスット・ポンニミットさんのマンガと、高井研さんのお答えを公開します。

タムくん1
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出会えないと思っています。でも、我々は孤独ではないです

Q1 ご研究内容について教えてください。

主に深海・地殻内生物圏研究分野という組織で、地球の深海、海底下など極限環境生命の研究をしています。仕事道具は、基本的には「しんかい6​5​0​0」、無人潜水艇R​O​V、掘削船ちきゅうなど、非常に大きなインフラを使って、人類未踏の極限環境における生命活動を見るのが仕事です。これまで50回ほど深海に潜っていて、今も年間3、4ヶ月は海に出ています。僕の研究のゴールは生命の起源を明らかにすることです。
Q2 「生命の定義」について、独自の見解を教えてください。

生命そのものを僕たちはまだ完全に理解していないので、本当は定義することはできません。ただ、1​0​0%厳密な定義は無理でもこれくらいなら、とほどほどに見極められる指標は必要です。  シュレーディンガーのように、エネルギーが入って出て行く時にエントロピー〈注1〉が減少する、とエネルギー論的な定義をする人もいます。あるいは、N​A​S​Aも言っていますが、複雑な化学系でそれ自身を維持するようなシステム。そういう意味では生物を司る材料について言及するより、エネルギー論に基づいた定義の方が幅広い適応力のある定義と言えます。  これまでも地球の深海や地殻内で、顕微鏡を使って泥粒子や微生物みたいなものをいっぱい見てきました。そこからわかる違いの一つはひと言でいうと「動き」。もちろんブラウン運動〈注2〉ではありません。物理科学法則から外れる動きがあれば、それは生命に近いでしょう。直観的にわかりやすいのはなんかヘンな動きをするものです。もう一つは、顕微鏡で見えるテクスチャー。これはセンスではなく、割と誰もが持っている感覚でしょう。人間の脳には生物を認知する部位があり、直感でそれが生命か否か、その違いがわかるといいます。一般の人も科学者も、識別能力にはそんなに差がありません。パプアニューギニア奥地にいる人がまったく知らない生き物を見ても、それが生物だとわかりますし、どんな子どもでも家の中にペットとロボットがいたら、その違いは見極められます。

注1:熱力学において、物体や熱の混合度合いのこと。系の秩序に関連する度合いで、エントロピーが高くなることは乱雑さが増すことを示す。情報学においては「情報量」のこと。

注2:イギリスの植物学者ロバート・ブラウンが、植物の受粉の研究から発見した粒子の運動。当初は「生命の原子」の仕業と考えられたが、後に岩石や金属からも微粒子の運動が観察され、気体、液体中の分子の運動であることが明らかにされ、「原子」の発見に繫がった。
Q3 地球生命はどこから来たのでしょう?  深海で誕生して、深海ではびこって、その後に色々なところへ行ったと思っています。これは一択です。 「生命が誕生するための必須条件」は重要な順に上から3つ、「エネルギー」「元素と水」「有機物」です。まず1番目は「エネルギー」。これは生命が誕生する時にも、持続する時にも欠かせません。40億年前の地球海底には水素がたくさん出る岩があり、水素と海水中の二酸化炭素がエネルギー源となって、生命が誕生してから約10億年、光合成エネルギーが誕生するまでの時代を支えていたと考えています。  2番目は「元素と水」です。生命の機能を維持するために、微生物でも数百種類、人間に至っては数千種類もの化学反応が体内で行われており、化学反応を行うためには鉄やニッケルなどの金属を含む二十数種類の元素が必要です。その元素を吸収するためには水に溶けていなければならない。水が不可欠な理由の一つはここにあります。そして最後は物体として存在するため、また複雑な機能を確保するための構造材料にあたる「有機物」。この条件をすべて満たし得る、最も可能性の高い場所が深海の熱水噴出孔なのです。 Q4 地球外生命体が発見されるのはどんな所でしょうか?  生命のいる可能性が高い場所と生命が見つけられる場所で答えが違ってきますが、生命のいる可能性が高い場所を考えるなら、太陽系であれば、まずはエウロパの氷の下の海(内部海〈注3〉)でしょう。エウロパ自体が大きいので、海も大きく、海を持続する時間も大きい。熱源として熱を拡散させるし、岩石を腐らせない。なぜ岩石が必要かというと、エネルギーと元素を得るためです。それを得るには氷ではだめで、元素を含んでいる岩石が必要なのです。エウロパは40億年間水と岩石が煮込まれても、岩石のダシが完全にはなくなっていない。その意味において、エウロパには生命がいる確率が高いのですが、今のところエウロパは数十キロの氷の下に海が隠れているので、数十キロをぶち破らないといけません。  エウロパと同じように氷の下に海があることが1​0​0%間違いなく、熱水が湧いていて、しかも宇宙空間に噴いているのは土星衛星エンケラドスです。エンケラドスはエウロパよりも簡単な作業によって、噴いているサンプルを確実に採ってくることができる。実質的には生命が見つけられる確率が高いと言えます。内部海があって、そこに生命がいると僕らは信じています。  でも海だけでなく陸がなければ生命は誕生しない、という人もいます。そこから導かれるなら陸がある火星でしょうか。火星は近いし、いまパッと行って見つかるのは難しいけど、数多く打てば地下にまったくいないわけではないと思います。可能性もそれなりにあるでしょう。  どのような探査計画が現実化するかによって、どこで最初に見つかるかは変わってきます。純然たる人間の事情をヌキにすれば、僕はエウロパの可能性がもっとも高いと思っています。

注3:地球の海のように表面にあるのではなく、氷衛星や氷準惑星の内部に存在する海のこと。
Q5 どうすれば地球外〝知的〟生命体を発見できるのでしょう?  基本的には、僕は地球外知的生命と地球人とはコンタクトできないと思っています。よく言いますが、生命が誕生するのは物理化学。誕生してからは生物学。地球の進化を見ればわかりますが、こうすればこうなる、という因果関係では語れず、あくまで結果論です。もちろん徐々に複雑になっていくのは間違いありません。しかし複雑な階層をもって、さらに脳というところまで行って初めて知性が生まれます。生命というものが毎回確実に進化によって知性をもつ方向へ進む確証はないと思っています。なかには、生命は誕生すれば必ず光合成をして、酸素を出して、多細胞化、大型化して最終的には脳を持つ──というのがお決まりのコースだと考える人もいます。生命が誕生するのは物理化学法則だからどこでも誕生するのでしょう。でもその進化は、あくまで環境との相互作用で方向性がゆらぎながら決まっていきました。我々は偶然に知性のほうへ結びつきましたが、必ずしもすべて知的生命体の方向にいくとは思いません。その確率はゼロではないが非常に低いと思っているので、どれだけ宇宙が生命で満ち溢れていても、知的生命体になる確率は低い。だから出会えないと思っているのです。  ドレイク方程式は、電波の方向と人間の存続する時間、ある意味人間の文明がどれだけ続くかに非常に依存しています。文明ができて2​0​0​0年。文明の長さがコンタクトの確率を決めますから、2​0​0​0光年以内には知的生命はいないでしょう。いたとしてもこの文明の持続期間中に遭うのは非常に難しいと思います。 Q6 知的生命体が見つかりました。どういうアクションをしますか?  科学者として答えるならば、歴史について聞いてみたいです。我々が自分の歴史に興味を持つのと同様に、向こうも自分たちの起源を辿ろうとしてきたでしょうから。どうやって子どもを生んでいるのか、身体のつくりはどうなっているのか、生命の定義も地球外生命についても、全部明らかになると思います。  以前、異星人とのコンタクトは文化人類学的な側面をもつと、ある方に言われてまったくその通りだと思いました。生命の比較を通して我々が共通の生命を知ることができるのと同じで、地球外生命がいるなら、知性とは、文化活動とは、ということも知ることができる。そうすると、アストロバイオロジーの中に社会科学などの人文系の学問も必要になってくるでしょう。初めて出会う異邦人と、どう付き合っていくのか。我々がいま生きているこの世界についてのシステムを理解しようとする中に、地球外生命とのコンタクトは、学ぶところがあるということです。知性があるからと言って文化を持つとは限りません。そういう本質的なところが理解できるわけです。  将来、宇宙共通の社会科学法則が見つかるかもしれません。そういう人が出てきて欲しいです。そうすれば地球外生命のバックグラウンドをすべて理解した上で、我々が到達できないような、知性や文化といった大問題に切り込めます。戦争は自然なのか。我々は自分たち人間しか知らないから、こういうものであると解釈します。これまでは類人猿と比較してきましたが、それとは違う知的生命体と比較したら面白いと思います。 Q7 知的生命体がいる世界には、どんな社会があると思いますか。  僕らは今、それについて一生懸命考えています。宇宙共通法則は何かを考え、コンセンサスを得ようとしています。  地球上の生物ではない、例えば性。それは別にプラスマイナスではなく、1、2、3、4……とあってもいいでしょう。オス、メスではないから社会全体がよりよく変わっていたとしたら、実はそこに我々が抱える問題の原因が見つかるかもしれません。これは科学の進展をただ待っているのではなく、どこかで見つかる、という仮定をして考えていかなくてはいけません。多様な分野からそこにいる人の考えを引き出さなくてはしょうがないんです。 Q8 人類は、太陽系を超えて天の川銀河に広がりうる生命でしょうか?  文明がどれだけ続くかという問題はありますが、それでも太陽系の外を目指さざるを得ないと思います。どこかで絶対終息しますし、確率論的に地球が終わるのは確実ですが、少なくとも一つの生命の本質は、必ず宇宙に飛び出して生き伸びようとするはずです。そういう意味では地球がいよいよとなれば、どこまで行くかはわかりませんが、宇宙に出て行くでしょう。

[イラスト:コミュニケーションをとってみたい地球外知的生命体の姿 ]

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気が合うと思います
外見はユメナマコみたい。外皮はウロコで覆われている。浮遊性。水中か大気中かはわからない。

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著者

高井研

海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野分野長

たかい・けん≫1969年生。京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了。旧海洋科学技術センター深海環境フロンティア研究員等を経て現職。JAXA宇宙科学研究所客員教授を兼任。

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