単行本 - エッセイ

担当編集者が語る、栗山英樹『栗山魂』ができるまで

待ちに待ったプロ野球開幕!
その直前の3月25日、昨年日本一の栄冠を手にした
北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督、
初の自叙伝『栗山魂』が、全国で発売開始となります。

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9784309617091昨年、球史に残る11.5ゲーム差を覆してのリーグ優勝後、ドラマチックな展開で日本一の頂点に立った北海道日本ハムファイターズの熱闘に涙した方も多いのではないでしょうか? 私もその一人です。数々の逆転劇はこの世のものとは思えないほど感動的で、大ヒット野球漫画を読んでいるような国民的人気ドラマをみているような熱い気持ちにさせられました。中でも、リーグ優勝決定直後の栗山監督の佇まいが印象的でした。マスコミから向けられた優勝インタビューのマイクを前に、目を潤ませながら、本当に嬉しそうな安堵の表情で、相手チームとそのファンの方々を思いやる名スピーチをされた雄姿はいまだ私の胸の中できらきらと輝いています。

『栗山魂』発売を目前に控え、この本ができるまでの2年間を振り返ってみました。そしてあらためて感じること、皆様にお伝えしたいことを率直に綴らせていただきます。どうか少しの間、お付き合いください。

私が初めて栗山監督にお会いしたのは2015年の春、桜が開花しそうな麗らかな日、当時編集していた『文藝別冊 堂場瞬一』にご寄稿いただくために原稿依頼のお願いにお伺いした時でした。球場の一室で監督をお待ちしている間、選手の方々の練習風景を見学させていただきました。ぼんやりと眺めていたはずが次第にその美しい光景に引きこまれ、今までに読んだことがある野球小説の名シーンなどを思い出しながらすっかり一人きりの空間を楽しみくつろいでいたら、急にドアが勢いよく開いて、まるで突風のようにして監督が私の目の前に現れました。あまりにも急なご登場、というか正しくは、私があまりにも練習風景に心を奪われぼんやりしていたので、夢から醒めたような気持ちで監督に急ぎご挨拶をしました。

第一印象は、その気迫に満ちた存在感に圧倒されました。

球場という戦場でその最高指揮官でおられる方のお時間をなるべく奪ってはいけない、早く戦場におかえししなければいけない、そう感じた私は瞬時に頭と心を切りかえなるべく早くにこの打ち合わせを終えなければ!と焦って話し出しました。

すると今度は監督が私の焦りを見透かしてくださったのでしょうか。時に笑顔を交えながら穏やかにお話してくださり、そのおかげで私もいつものペースに戻りつつお約束の30分はあっという間に過ぎました。

会社に戻る電車の中でその30分を振り返り、「もっとあれをお話すべきだった」「あのことを伺うのを忘れてしまった」などと自分の迂闊さを反省していたら、監督がふとつぶやかれた「全力で頑張っている人をこちらも全力で応援したいだけですから」の一言が脳裏によみがえってきました。

ここで監督がおっしゃった「全力で頑張っている人」というのは、作家・堂場瞬一さんのこと。嬉しくなった私は、すぐに堂場さんにメールで「栗山監督のご寄稿を楽しみにお待ちください」と送信。堂場さんからもすぐに「楽しみにお待ちしています」とお返事をいただき、栗山監督と堂場さんの間に私がたって連絡を取り合っていた内に……なんと、メイン企画であった100枚の書き下ろし小説「奇跡の時間」は、思いがけず、栗山監督と大谷選手をモデルにした物語になったのでした。

掲載前、「奇跡の時間」を栗山監督にお送りしお読みいただいたところ、「どこに向かって野球をするのか。そのはっきりした答えを堂場さんに教えていただきました」とのありがたいご感想をいただき無事掲載となり、『文藝別冊 堂場瞬一』は、栗山監督に華を添えていただき無事に発売を迎えたのでした。

それから数か月後、どうしてもなりたくてなった、夢がかなって就くことができた編集者という仕事に対して自信を失い悩んでいた私は、自分を前向きにしてくれる言葉を探していました。大好きでたまらなかった仕事がなぜか重たくつらく感じられるようになってしまっていて、嫌いになってしまいそうで、そんな自分に落ち込んでいたのです。

10代の頃から、悩んだ時にはいつも本に救われてきた私。書店に行ってはあらゆる人生の達人の本を買い読み漁っていましたが、なかなか心が晴れることはなく、どんどん月日ばかりが経っていきました。もうこの仕事を続ける資格が今の自分にはないのかもしれない、そう思いつめたある夜、前に資料として読んだ栗山監督のご著書が目に飛び込んできました。気になって読み返してみたら、どんな仕事にも通じる名言で満ち溢れていました。どこにも嘘がなく真っ直ぐで夢のある文章は、私をあたたかく包み込んでくれました。

感動した私は、栗山監督にその感想をお伝えしました。すると、私の不安を見透かしてくださったかのような……「迷ったときは前に向かって全力で走ってください」というお返事が! その一行がありがたくて仕方なくしみじみと読み返していた私は、「栗山監督の文章は必ず人の心を打つ」と確信。同時に「私自身が忘れかけてしまっている大切なものを、これを機に思い返そう」と決意。すぐに執筆依頼に動きました。

当然ながら、ご多忙極まりない栗山監督に、すぐに出版をお引き受けいただけたわけではありません。だからこそ、お引き受けいただけた日の嬉しさは忘れません。

「自叙伝をご執筆ください」とお願いした私に対して「人に読まれるようなものではありません」とおっしゃる姿勢を崩されなかった栗山監督が、渋々? 筆を走らせる決意を固めてくださったのは、私が「14歳の世渡り術」シリーズからの出版をお願いしたからです。「子どもたちに夢の大切さを伝えるお手伝いが少しでもできるのなら」とのことで、ようやくお引き受けいただいたのでした。

しかし、原稿をいただけばいただくほど「14歳だけに読まれるべき本ではない」「大人にも読んでほしい」「この本は老若男女に届く」との感覚を強くしていった私。

そのおもいを社内で伝え、「14歳以上、大人まで」に届く造本に仕上げていきました。また、他にも営業担当者の発案で、「初回限定特製ステッカー挟み込み」や「等身大パネルの作成」といった、前例のない挑戦をいくつもさせてもらうことができました。

2016年の冬、優勝後でオフが一日もないようなお忙しい日々の中、一瞬も手を抜かずに原稿に向き合ってくださった栗山監督には、一生足を向けて寝られません。

栗山監督はきっと、すべての人や物事に対して分け隔てなく、一生懸命に誠実に接する方です。そのあまりにも素晴らしい真剣さに対峙するたびに私は「選手の方々は幸せだろう」「真剣ってこういう姿勢を言うのだな」と思いました。そして自分の心の中にあった数々の言い訳、仕事に対する中途半端な姿勢を心から恥じました。

「監督のように人を励ませる人間になれたらどれだけ素敵だろうか」「私がこれだけ励まされるのだから読者の方々も同じであるはず」「この本を読んでくれた子が将来の夢をかなえる時に役に立てますように」「部下や子どもの育て方に悩んでいる管理職や教師や親にも読んでもらえたら幸せ!」、そんな風に思いながら、祈りながら、いつもただただ監督の大きなお人柄に尊敬の念を抱きながら進めてきた仕事です。

大人になってからも、というよりも、大人になったからこそ、あらゆる経験値や遠慮が自分の邪魔をして、本当にやりたいこと、やってみたいことを「やる」勇気がなかなか持てない時がありませんか?

でも、世の中は捨てたものではありません。どんな時でも、あきらめずにいたら、必ず誰かが手を差し伸べてくれる……『栗山魂』を編集していく中で、本書に込められているこのメッセージを体感させてもらえる出来事がたくさん起きました。

この本のおかげで私は、新人時代に味わったのと同じ、いやそれ以上の「編集者って楽しい!」を取り戻すことができました。私はやはりこの仕事が大好きでした。就きたい職業に就けた私は本当に幸福です。運が良く周囲に助けられて夢をかなえることができました。だからこそ、一人でも多くの子供に、いえ子供だけでなく大人にも、あきらめずに夢をかなえてほしいと本気で思うのです。

夢をかなえる日は、いつだって遅くないのではないでしょうか?

この本を、子供から大人まで、夢をかなえて熱く生きたいすべての人に贈ります。

どうか一人でも多くの方に、前に向かって全力で走る楽しさを思い出していただけますように。

【担当編集者S】

 

※栗山監督直筆サイン入りグッズのプレゼントキャンペーンを開催中です。本書に付いている応募券をハガキに貼ってご応募下さい(2017年5月31日当日消印有効)!

 

 

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